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高速道路トンネルの変状対策工


高速道路トンネルの盤ぶくれとインバート対策工
2022.2.2


トンネルと地下 2021年(令和3年)10月Vol.52,No.10

研究「盤ぶくれ現象における地山特性とインバートの力学的効果に関する分析」pp61-72.
(株)高速道路総合技術研究所道路研究部トンネル研究担当部長
 中野清人
 東京都立大学理事・学長特任補佐 西村和夫
 東京都立大学都市環境学部教授 砂金伸治
1章 はじめに
 本研究では、これまで高速道路において盤ぶくれ現象に対策されたインバートの事例を集め、地山の劣化原因、対策工設計の現状と課題について分析を行い、盤ぶくれの地山特性と対策インバートの力学的効果について検討する。そして、数値解析により対策インバートの形状に比較し、その効果と機能を分析することにより、合理的な構造を提案する。
2章 盤ぶくれ対策インバート工の現状と課題
3章 早期閉合一次インバートとの力学的効果の比較
4章 数値解析による検証
5章 結論
 1)建設段階にインバートを設けず盤ぶくれ現象が生じたトンネルでは、掘削時には、おおむね弾性域の挙動を示し、既設インバートが損傷したトンネルではスクイージング(squeezing)による塑性域の挙動を示しており、当初の地山条件はまったく異なる。
 2)これまでの対策事例を整理すると、いずれのケースも「浸水崩壊度とCEC試験の値が膨張性の閾値を超える特性から水に劣化しやすい地山特性」を素因とし、湧水作用を誘因として劣化した。路盤性状と総合するとスウェリング(膨潤性,swelling)によるメカニズムで説明することが出来る。
 3)これまでの対策インバートの形状は、半径の曲率を標準(R=2.7×R1)より小さいR=2.0×R1程度の深い形状とし、インバートの支保構造を強化している。日暮山トンネルと一本松トンネルでは、ほぼ同じ構造の対策インバートにより変形を抑えて安定したが、対策インバートに生じる応力の時間的経過と分布状態は全く異なっている。
 4)インバート損傷のケースでは、対策インバートに生じる軸力は、完全には収束していないが、3,000kN程度、作用土圧は0.3N/mm2(300kN/m2)程度である。また、車線規制による施工の場合は施工順序などにより偏圧が作用する可能性があり、早期閉合一次インバートのように、スクイージングが主体的な現象を抑えるレベルの支保性能が必要となる。
 5)建設段階にインバートを設けず、スウェリングが主体的な現象では、対策インバートに生じる軸力は1,000kN程度、作用土圧0.1N/mm2 (100kN/m2)程度の支保の性能が必要である。
6)地山劣化を考慮した数値解析による力学的検証により、スウェリングが主体的なケースでは、早強コンクリートを用いる対策インバートは、標準断面レベル(R=2.7×R1)のインバート形状が合理的である。


【盤ぶくれおよび早期閉合の支保工の応力評価に関する用語】
[出典]中野・安積・宮沢・渡邊・土門・西村「盤ぶくれ現象を考慮した対策インバート構造の合理化に関する研究」土木学会論文集F1(トンネル工学),Vol.75, No.1,40-55, 2019.
2.盤ぶくれ対策工の概要
(2)用語の定義
 本論文で使用する基本となる用語は,地山条件,インバート,トンネル断面形状,インバート部の支保工耐力と支保内圧,計測データによる軸力と作用土圧および対策インバートの応力照査において定義する.

a)地山条件
H:土被り,qu:一軸圧縮強度,γ:単位体積重量,qu/γH:地山強度比
c:粘着力,φ:内部摩擦角

b)インバー ト
・一次インバート:早期閉合で掘削による変位を抑制してトンネルの安定化を図るため.掘削後早い段階に吹付けコンクリー卜(鋼製支保工を併用する場合もある)で断面閉合するもの.
.本インバート:早期閉合一次インバートの施工後に施工される場所打ちコンクリート.一般的な施工における標準的なインバートも含む.
・対策インバート:盤ぶくれ対策として設置する後施工の本インバート(鋼製支保工を併用する場合もある).

C)トンネル断面形状
・構造半径比:R3/R1 ・・・(1)
ここで, R3:本インバート内面までの半径
     R1:覆工内面までの半径
・支保工半径;r (部材の中心まで)
・インバート支保半径比:r3/r1
(以下「半径比」という)
ここで,
 r3 :インバート支保半径(一次インバー卜もしくは対策インバート)
 r1:上半支保工半径

・閉合距離:L,早期閉合における切羽から断面閉合までの最短距離

d)インバート部の支保工耐力と支保内圧
・インバート部の支保工耐力(単位奥行き当り)
 :Ny=Ncy+Nhy・・・(2)
ここで,Ncy:コンクリート(もしくは吹付けコンクリート)の耐カ
    Nhy:鋼製支保工の耐力
・支保耐力の反力として地山に与えることができる最大平均内圧を「支保内圧」とし,次式で定める.
   py=Ny/r3 ・・・(3)

e)計測データによる軸力と作用土圧
・対策インバートの軸力(単位奥行き当り)
  :Nm=Ncm+Nhm ・・・ (4)
   Ncm=Ac ×σcm ・・・(5)
   Nhm=Ah ×σhm ・・・(6)
ここで,Ncm,:コンクリートの軸力
   Nhm :鋼製支保工の軸力
    Ac :コンクリートの断面積
    σcm:コンクリートの軸応力(計測応力)
    Ah:鋼製支保工の断面積
    σhm:銅製支保工の軸応力(計測応力)

・―次インバートの軸力(単位奧行き当り)
:上記式(4)(5)のコンクリートの代わりに吹付けコンクリートを用いる.
・発生軸力にもとづく,平均応力を地山からの「作用土圧」とし,次式で定める.
インバート部の作用土圧
 :pmイン =Nmイン/r3 ・・・・ (7)
アーチ部の作用土圧
 :pmアーチ =Nmアーチ/r1 ・・・・ (8)
・軸圧縮構造:上半・下半支保工と一次インバートもしくは覆工と本インバートで閉合されたリング構造体の軸応力がすべて圧縮となった状態.


     軸 圧 縮 構 造

 なお,とくに断らない限り,本文の「作用土圧」は計測データにもとづく圧力,「支保内圧」は支保工耐力にもとづく圧力とする.

f) 対策インバートの応力照査
 設計照査では,対策インバートの許容応力は,土木学会の旧基準に準拠し,安全率4として照査している.
 σsca=(σsck/4) ×1.0=24/4 × 1.0=6.0N/o2 ・・・(9)
ここで, 
σsck:対策インバード設計基準強度(参照:早強コンリート24N/o2)
σsca:対策インバート許容応力度

(以上)


道路トンネルの早期閉合
2022.11.15


トンネルと地下 第53巻,第9号,2022年9月
早期閉合により大変形を抑えた道路トンネルの支保効果に関する考察
(株)高速道路総合技術研究所 中野清人、前田建設工業(株)森田 篤、東京都立大 西村和夫・砂金伸治

 近年、山岳トンネル工法によるトンネル建設は、山地部における脆弱地山、および都市部における重要構造物との近接問題で、困難が増加する傾向にある。これらの理由から、早期に変形をコントロールし、地山と構造物の安定を増加させる目的で早期閉合が適用されている。この論文で著者らは、2000年から2016年以施工された高速道路、一般国道および主要地方道の事例から、安全性を確保するための早期閉合によって大変形をコントロールして建設されたトンネルの28事例を収集し、支保構造の特性を整理し、計測データを利用して支保構造にかかる荷重を解析し、支保効果を分析した。その結果に基づき,設計上の配慮すべき事項について提案する。

 早期閉合は、掘削時の変形量や土圧が大きいため、ミニベンチや多段ベンチを用いて掘削するトンネルで、切羽からおおむね10m以内で、一次インバートを打設し、一次支保工をリングとしてアーチ構造を閉合する工法である。事例分析によって次の傾向が分かった。
1)地山条件
 地山の構成地質は、泥岩、凝灰岩、蛇紋岩などの軟質岩が多く、地山等級がDU,Eであり、一軸圧縮強度はおおむね1.0MPa程以下、地山強度比は1.2以下となっている。
2)早期閉合の支保構造
 数値解析や類似事例などにより検討されている。支保工の部材は、設計基準強度18N/o2の吹付けコンクリートと標準鋼(SS400)の鋼製支保工を組み合わせた事例は無く、高強度吹付けコンクリート(設計基準強度36N/o2)と標準鋼もしくは高規格鋼(SS540)の鋼製支保工が用いられており、高耐力化した部材が採用されている。
3)一次インバート
 一部では吹付けコンクリートのみのケースも試みられているが、最終的には鋼製支保工が併用され変形を抑制しており、支保規模がアーチと同等なケースが全体の2/3となっている。また、一次インバートを標準断面より深く掘り込んでいるケースが半数ある。また、土被り190m程度以上、地山強度比0.3以下の条件では二重支保が適用される事例が多い。
4)閉合距離
 切羽からリング閉合するまでの閉合距離は、7m以内が全体の8割で、切羽自立性が確保しやすい泥岩等で多く見られる。8m以上のケースは2割で、切羽が不良で鏡対策をしても切羽の自立性が不足する蛇紋岩で多く採用されている。
5)補助工法
 早期閉合は低強度地山で採用されるため、天端の安定対策として長尺鋼管先受け工が、また切羽対策で長尺鏡ボルト(鋼管型ないしGFRP管)が2/3のケースで採用されている。また、沈下抑制のためにパターンボルトを側部密配置としたケースや補助工法として上半仮閉合、ウイングリブ付き支保工、サイドパイル、フットパイルを併用したケースもある。しかし、上半仮閉合は上半工法での初期段階で一時的に使われるが、効果が発揮されず、その後、全断面での早期閉合に変更されるケースが多い。また、フットパイルよりサイドパイルが有効としたケースもあるがいずれも変位抑止に至らず、早期閉合に補足して用いられている。
6)一次インバートの形状を定量的に見る
 半経比r3/r1(r3一次インバート半径/r1上半半径)を用いて土被り、地山強度比、閉合距離および一次インバートとアーチの支保工耐力比の4つの指標と支保パターンとの関係図を示した。
7)支保パターン区分から見た傾向
 土被りによる半経比は、小土被り部で標準断面レベル(r3/r1=2.5〜3.0)であり、土被りが50mを上回るとおおむね2.0以下となり一次インバートを深く掘り込んで半径比が小さくなる形状としている。地山強度比Gnによる半径比は、地山強度比1.0以上では標準断面レベル、Gn<1.0でr3/r1<2.0、Gn<0.5でr3/r1≒1.5である。閉合距離は、DVでは4〜6mであるが、他のパターンDUないしEパターンでは1〜10mでばらついている。支保工耐力比では、一次インバートとアーチの支保体力が同じ(Nyイン/Nyアーチ=1.0)事例では、半径比はr3/r1=1〜3.5と広く分布し、反面、一次インバートの支保耐力をアーチより小さくしたケース(r3/r1=0.5〜0.9)では半径比は標準レベルに集まっている。
8)岩種別から見た傾向
 マクロ的に見ると蛇紋岩系以外では土被り(h=50〜200m)とともに半径比が小さくなる傾向にある。蛇紋岩系は土被りにかかわらず(h=50〜300m)半径比はr3/r1=1.5〜2.0程度が多く,一次インバートを深い形状としている。蛇紋岩系では地山強度比1.0以上では半径比は標準レベルであるが、1.0以下では半径比1.5程度が多くインバートが深い形状をしている。閉合距離との関係は、蛇紋岩以外では半径比は右肩上がりの相関がある(閉合距離1〜5mではr3/r1=1.5〜2.0程度が多く,閉合距離5〜9mでは標準レベル)。一方、蛇紋岩系では、閉合距離が4〜10mと幅があるのに、1.5〜2.0の半径比でインバートが深い。蛇紋岩系以外では一次インバートの支保耐力をアーチ部の50〜60%程度と大幅に小さいケースが見られるが、蛇紋岩系ではおおむね同等の耐力としている。
9)半径比
 半径比は地山強度比1.0以下ではインバートを深い形状としており、一次インバートとアーチの支保工耐力、すなわち支保規模がおおむね同等となっている。一方、一次インバートの支保規模をアーチより小さくしたケースは標準断面レベルで多く見られる。一次インバートの損傷事例から、一次インバートの耐荷力が不足し、地盤からの荷重を受けて、せん断ひび割れや一次インバート中央部がせりあがるケースがある。対策としては、@一次インバートの支保規模をアーチに合わせる、A形状を深く掘り込んでインバート半径r3を小さくする、ことで耐荷力を向上して変形を抑えている。
10)支保工に作用する荷重
 早期閉合で施工したトンネルにおいて、一次インバートも含めて全周で計測した吹付けコンクリート応力と鋼製支保工軸力の経時変化をグラフに示した。計測データを、吹付けコンクリート(設計強度18N/o2および36N/o2)の許容応力度13.5/o2、鋼製支保工の標準鋼と高規格鋼の降伏応力度を245N/o2および440N/o2と比較分析した。この結果、アーチにおける鋼製支保工のうち74%が降伏し、吹付けコンクリート(設計強度36N/o2)の55%が許容応力度を超えている。また一次インバートでは同様に、鋼製支保工の最大応力では約35%程度が降伏、吹付けコンクリートの最大応力では全体の41%が許容応力度を超えている。このように、アーチおよび一次インバートは、いずれも支保構造は標準支保で最も重いDUより高耐力化されているにも関わらず、両部材の降伏応力度や許容応力を超える大きな圧縮力が作用していることが明らかとなった。
11)早期閉合における支保の力学的効果
 早期閉合の支保効果を定量的に分析するため、指標として「作用土圧」を用いて検討する。
  作用土圧:pm=Nm/r
   ここでNm;計測軸力(吹付けコンクリート+鋼製支保工)
     R;支保工半径(中立軸まで)
 作用土圧は支保圧と同様にアーチおよびインバートともに土被りと共に大きくなり、地山強度比に応じて小さくなる。作用土圧の最大は、アーチで1.7N/o2程度、一次インバートで1.4N/o2程度。土被り130m以上で地山強度比0.4以下が複数ある。
 閉合距離は蛇紋岩系以外では1〜7mで、閉合距離と共に作用土圧が小さくなる傾向にあるが、蛇紋岩系では逆の傾向がある。蛇紋岩系は作用土圧が小さいケースは土被りが小さく閉合距離は4〜7mの中間的長さであり、作用土圧が大きいケースは大土被りの脆弱地山で、切羽の自立性を懸念し、閉合距離を8〜10mと長くしていることから地山のゆるみが拡大したと考えられる。
12)アーチと一次インバートの軸力と作用土圧の関係
関係図から、アーチと一次インバートの作用土圧比pmアーチ/pmイン=(Nmアーチ/Nmイン)×r3/r1≒半径比r3/r1となる傾向が読み取れる。
地山からの荷重が大きくなるとアーチに比べ一次インバートの軸力、作用土圧が大きくなる。アーチとインバートの作用土圧比は、地山特性、支保規模にかかわらず、概ね半径比の値に相当する。
13)軸圧縮機能
 支保耐力に対してどれだけの荷重が作用しているかを検討した。「軸圧縮機能」を支保効果として表すため、計測から求めた作用土圧と支保工耐力から求める支保内圧との比を定量的な指標とする。
 Nm/Ny=pm/py
ここで、計測軸力Nm,支保工耐力Ny,作用土圧pm,支保内圧Py
 関係図は、インバートのpm/pyをX軸、アーチのそれをY軸にとり整理している。蛇紋岩系以外では軸圧縮機能は高いが、蛇紋岩系では作用土圧に比して支保内圧が相対的に大きいため軸圧縮機能は小さくなっている。閉合距離の短縮が軸圧縮機能を高めるために有効であるが、許容応力度を超えるケースがあるため、適切な支保内圧を選定する必要がある。また、一次インバートとアーチの軸圧縮機能のバランスを図るために双方の支保規模を同等にすることが効果的となる。
14)まとめ
(以下 省略)


【詳細な出典】中野清人・森田 篤・西村和夫「施工事例にもとづく早期閉合の支保構造分析と支保の効果に関する考察」土木学会論文集F1(トンネル工学),Vol.75,No.1,7-25,2019.
 この論文中で、タンネナイトンネルの施工で、同一支保構造ながら上半工法から早期断面閉合工法に変更した施工経緯、計測結果およびFEM解析に基づいた早期閉合効果の検証が行われている。



以上
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