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定期点検と補修


山陽新幹線トンネル点検によるはく落分析と対策
2021.5.19
2021年3月 トンネルと地下 vol.52,No.3

[研究]山陽新幹線トンネルにおける覆工はく落に関する変状発生傾向の分析,西日本旅客鉄道(株)鎌田和孝

[要旨]
 山陽新幹線はトンネル区間が約280kmと長く、1999(平成11)年の福岡トンネル覆工コンクリートはく落事象を受けて実施したトンネル安全総点検(全面打音調査)以降、検査機械システムを活用した点検検査を実施してきた。これらの検査データを分析することによって、覆工からはく落につながるおそれのある変状について、健全度判定区分に基づく変状の種類や発生位置について報告する。 
 山陽新幹線の主なトンネルは矢板工法(底設導坑先進式上部半断面工法やサイロット工法)で建設されたため、SL接合部で覆工コンクリートが分割されるが、無筋覆工ではSL接合部近傍に変状が特に多い。
 一方、RC覆工ではアーチ中間部全体に変状が広く認められ、浮き等が広く発生している。これはコンクリートに内在する塩分による鉄筋腐食が主な原因と推定され、中性化の進行も影響している。このようにRC覆工は無筋覆工と比較しリスクが高いことから、抜本的対策として開発したFRP板による内巻工の施工を計画的に実施している。



 無筋覆工については種々の要因で浮きが発生し、はく落のリスクにつながっていることから、データの分析を行った。データの分析は鉛直目地間の覆工面を1mメッシュに分割して、変状の位置をメッシュ属性で定義し、「鉛直目地」、「SL接合部」「アーチ中間部」「側壁部」に区分し集計した。安全を脅かす危険性の最も高いαランクは目地部とSL接合部で特に多く、変状種別では「軽音・濁音」の変状が多い。
 αランクに進展する理由は、鉛直目地部では、@補修箇所近傍の不安定化、A補修材そのものの劣化、Bジャンカ周辺の不安定化、C目地とひび割れ等の閉合・平行・交差によるものが多い傾向にあった。また、アーチ中間部では、@補修材の劣化、Aジャンカ周辺の劣化、Bコールドジョイント周辺の不安定化、Cひび割れ等の閉合・平行・交差に起因するものが多かった。
 部位に関係なく、大きなひび割れ(3mm程度以上)が経年と共に進行している変状はほとんど認められない。また、補修材の劣化は鉛直目地部、アーチ中間部ともに劣化の割合が高く、通常検査の打音調査で確認しているがさらなる効率的な対応が望まれる。

(注)この論文ではRCの鉄筋発錆を要因とする浮きについてコンクリートに含まれる塩分が高い事によるとしているが、山陽新幹線でかってより懸念されてきた海砂使用コンクリート、高アルカリ下におけるアルカリ骨材反応の様子やその対策については説明がないようである。(当サイト)


道路トンネル維持管理便覧の改定とトンネル点検
2022.11.26
道路トンネルは、1996年、北海道の豊浜トンネル坑口岩盤斜面の崩落事故、および2012年、山梨県の中央自動車道・笹子トンネル天井版落下事故という痛ましい人身事故と共に、定期点検が強化され、国交省所管の道路トンネル定期点検要領、および道路トンネル維持管理便覧が改定されてきた。
 特に、トンネル内では覆工コンクリートのブロック化による崩落、およびトジェットファン等のトンネル内重量物施設の落下が最も危険なケースと考えられる。おそらく50kg大(500N)程度のブロックは樹脂補強ネットなどによる、はく落防止工の対象となるが、これ以上ものについては対策工法の検討が必要である。また、ジェットファン等の設備では、固定アンカー等、鋼構造物の点検と同レベルで厳しい点検が必要と思われる。

【判定】
 新しい道路トンネル定期点検要領では、変状の要因が劣化に伴うひび割れやはく離・はく落・ジャンカ・漏水に対しては、各箇所ごとのT〜W等のランク評価がされ、過大な土圧や地すべりによる変状(側壁水平方向のせん断ひび割れや盤ぶくれ等)は外力による変状として各スパン単位(トンネル軸方向の長さ約10mの単位、NATMでは横断目地間)で評価される。評価ランクごとに維持管理として、「要経過観察」から「計画的な対策」あるいは「早期対策」や応急的な通行止め等からなる「措置」が方針づけられる。
 基準化された判定表はかなり細部にわたる詳細なもので有益であると思われる。しかし一方で、豊浜トンネルや笹子トンネルの大事故の反省に立てば、国や地方自治体の管理者は、実際に現地にて近接目視点検を実施する建設コンサルタントの管理技術者(トンネル部門の当該するトンネルタイプの技術士)による大局的な総評の添付を義務付けるべきではないかと思われるし、路線管理者組織として構造に起因する老朽化の予測と事故の可能性について注意深く認識を共有することが求められる。

【はく落対策】
 はく落部の断面修復を行う場合は、不安定な箇所やジャンカ部を取り除き、無収縮モルタルなどにより断面修復を行う。この時、断面修復を行う部分が10cm程度を越える場合は錆の来ない金網を入れ、アンカーバー等で固定して断面修復を行う。また、通常、アーチ部のはく落対策箇所は修復後、強度のある樹脂補強ネット工等で覆い、はく落の再発防止に努める。

【外力対策】
 変状の原因が地すべり等の地山の土塊滑りにあるか、または地山の膨張性・膨潤性にあるかなどの素因と誘因(地下水や地震等)を明らかにする。この上で、総合的で高度な検討を加え、ロックボルトの打設やインバートの設置等を計画し実施する。
 ここで、対策工の必要性の判断や補強時期の決定には、変状の観測(動態観測)を行って、変動速度を把握する必要がある。判定は、対象路線の管理者の基準書によっている。計測方法としては内空変位や底版の盤ぶくれ変位には、ターゲットを用いた光波やレーザー測量がある。また、点検時に行える簡略的な方法には、複数の「変状による開口ひび割れ」の開口変動を、計測位置を定めて簡易なバーニヤで測定する方法がある。観測期間は概して長期に及ぶことがある。

【漏水対策】
 漏水対策は、つららや路面への耐水が、通行者や車両のスリップ事故につながる箇所では重要である。漏水対策は従来、矢板工法では、Uカット工法や樋導水、あるいは面的な導水板による、いわゆる線導水および面導水工法によって対策されてきた。
 しかし、これらの従来工法が効果的でないトンネルでは、背後の構造的に湧水の集中する箇所への点導水工法によって排水機能を回復させたとする施工例が数多く報告されている(※)。
 点導水工法とは、矢板工法では通常逆巻の上半アーチと後続して打設される下半側壁コンクリートの境界背面で湧水が滞留しやすい箇所に、NATM工法では一次支保と二次覆工の境の防水シート(一種の面導水シートの形になっているため)の側壁末端排水材(透水マット)を狙って長さ1m程度の短い集水管を1か所当たり扇状に3本掘削・設置し、流末を路面側溝に導く工法である。
(※)福島県内本社の株式会社寿建設HPの点導水工法解説と実績表より

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