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掘削解放応力 


数値解析における掘削解放応力
2022.12.17,修正2023.9.13

 FEMの解析では、第1ステップの初期地圧(外力)の計算後、第1ステップの応力を引き継ぎ、変位を0に抹消して、第2ステップ以降の施工ステップにおいて、上半アーチから下半側壁における、天端沈下、水平内空変位と支保部材に発生する応力を計算し、これを事前及び施工時の修正支保設計に役立てている。
 このとき、上半底版、及び下半底版の隆起変形が起こり、しばしば天端沈下より大きな値が計算され、変形図として出力される。しかし、実際の掘削現場では、天端沈下、内空変位、支保工脚部沈下が問題となるが、顕著な膨張性地山を除き底版の隆起が問題となることは少なく、また、底版が掘削機械など稼働する作業盤であることから、計測が困難で、計測の報告例が極めて少ない現況がある。
 このことから、初めに、トンネルFEMの荷重原理とされる掘削解放力について、理論式を適用させて様々な断面形状の解放力を計算し考察を行った。

(1)円形断面の掘削解放応力
 トンネルと地下第32巻11号[2001年(平成13年)11月]に掲載された久武勝保・山崎康裕著 研究「トンネル沈下のFEM結果に及ぼす解析領域の影響」において、次のようなトンネル掘削解放力の考察が示され、地表沈下量に対する影響が大きいとし、有限要素法による地表面沈下の検討が行われた。この論文では、円形断面では掘削断面積×単位体積重量の上昇力がトンネル全体に働くため、土被りの浅いトンネルでは地表面沈下解析に影響が大きく、解析領域の工夫が提案されている。



 今回、上半円断面における解放力と下半円形断面における解放力を考察すると、掘削面における鉛直土圧の中心ベクトル変換のほか水平土圧の中心ベクトル変換に際して側圧係数の影響があることが分かった。
 ここでは、久武・山崎(2001)の中心角をφとし、θをφに変換した後、トンネルセンターから右の半断面の掘削解放応力について計算する。
 地山の単位体積重量を22kN/m3、円形断面半径a=5m、中心からの土被りh=50m(天端土被り45m)、側圧係数を0.70とした。中心角φを15゜刻みで計算した概略の掘削解放応力は下表のようになる。この結果、掘削解放力の全円合計は、全円面積×単位体積重量γAの1.14倍となる。解放力の大きさは上半円が下向き1141(kN/m)で荷重高52m、下半円が上向き1338(kN/m)で荷重高61m、全円で上向き197(kN/m)で荷重高9mとなる。この解放力は中心角φをさらに5°刻みで計算してもほぼ同じ値となる。




 図-2 第1象限(上半) 壁面に直交する掘削解放力P


 図-3 第1象限(上半) 掘削解放力Pの鉛直成分Py




 図-4 第4象限(下半) 壁面に直交する掘削解放力P


 図-5 第4象限(下半) 掘削解放力Pの鉛直成分Py

 表-1 円形断面の掘削解放力計算表(概略)

(2)多様な断面形状の掘削解放力

 円形断面での計算を応用して多様な断面の掘削解放力が計算できる。




(3)掘削解放力と土被り

 着目点1として、計算値と断面積×単位体積重量の比率をRWとし、RW=ΣPy/(γt・A)の土被りによる変化をグラフ化した。この結果、次のような傾向が見られる。

 1)円形断面は土被りに関わらず比率RWが同じく1.15で、解放力の上下半合計で正(上向き)。2)上半円、馬蹄形、三心円(インバートなし)の断面は、比率RWが1より小さく、土被りが浅いと1に近づき、深くなると大きくマイナスになる。3)上半の下向き解放力と下半の上向き解放力が相殺しRW=0となる土被りは、上半円でh≒35m(天端からの土被り30m)、馬蹄形、三心円でh≒55m(天端からの土被り50m)であり、土被りがこれ以上になるとRWはマイナスとなり、トンネル全体系が沈下方向に解放力が作用することが予想される。4)馬蹄形と三心円は下半高さが同じ場合、結果はほとんど類似する。5)インバート付き三心円は全円に近い傾向を示し、低土被りから土被り250mまで解放力の合計が上方力となる。


(4)掘削解放力と側圧係数

 着目点2として、側圧係数(0.25〜1)の影響を考察した。1)円形断面;側圧係数K0が大きくなると、下半の側圧の上向き成分が、上半の同じ下向き成分より大きいため、合力は上向きが大きくなる。2)上半円、馬蹄形、三心円;アーチ部の側圧下向き成分は側圧係数K0の増加とともに大きくなるが、下半では側圧係数の影響が小さいため、RWはK0の増加とともに減少して行く。3)RW=0は上半円でK0≒0.52、馬蹄形、三心円でK0=0.75のときで、側圧係数がこれより大きくなると合力は下向きとなり、トンネル全体系は沈下傾向が想定される。4)インバート付き三心円は全円に近いグラフになるが、全円と異なり側圧係数が大きくなるとRWの比率は減少し、全体の上向き合力が減少する傾向を示す。


(5)掘削解放力の大きさ

 掘削解放力の応力(Y方向解放力)を土被り別に一覧表とした。土被りは、S.L.基準の土被りh=10〜300m(天端基準でH=5〜295m)の範囲とした。

 1)上半および下半断面の掘削解放力(鉛直);全円,上半円,三心円,三心円インバート付きの各断面では、上半下方への鉛直荷重は上半アーチのため同一で、下半の鉛直上向き解放力は同じ程度の解放力である。


 2)掘削解放力の鉛直合力;全円の上半解放力と下半解放力の鉛直成分合力は、土被りに関わらず一定で、上向き約2000kN(応力度で200kN/m2)である。三心円の合力は土被り50m以浅では上向きであるが,土被り50m以深では下向きとなる。三心円インバート付き断面では,合力は浅い土被りから土被り260m付近まで上向きで、260m以深で弱い下向きとなる。


(6)まとめ

 トンネルの掘削解放力は、土被り圧、側圧係数および断面形状に従属するが、ここでは掘削幅D=10m、γt=22kN/m2、土被りH=45m(S.L.からh=50m)、側圧係数K0=0.70の条件で、中心角φを5度刻みで計算し、表計算ソフトで集計した。円形断面では、ΣPy/(γt・A)=1.15と計算される。同様に三心円インバート付き断面(R3=2R1)の掘削解放力は、ΣPy/(γt・A)=0.91と計算される。このように、円形断面と三心円インバート付き断面では、下半の掘削解放力が上半より大きく、その大きさはγt・Aに近い。他の断面形状では、掘削解放力は土被り、単位体積重量、側圧係数が同じ場合、断面形状に従属し、上半掘削断面では上半円の下方解放力が下半円のそれより大きく、馬蹄形断面および三心円インバートなし断面では、上半円下方解放力と下半上方解放力は拮抗する計算となる。


単一剛性モデルの天端沈下と底版隆起
2022.12.17

 地山区分ごとの標準的な弾性係数を用いて、三心円断面の素掘りトンネルをモデルに、天端沈下、底版隆起、側壁部の水平内空の各変位最大値をFEM弾性解析により求めた。(解析施工ステップStep1〜3をS1〜S3と記す)
 地山物性値は地山区分B〜DUまでの概略物性値は、「土木研究所資料,平成6年」を基本とし(例えばDT,DUの変形係数E=500,150MPa)、E分類(便宜上E1,E2,E3にE=100,60,30MPaを設定)の物性値を追加した。また、一軸圧縮強度qu、引張強度T(=qu/10;脆性度10)を仮定した。


 図-1 単一剛性領域モデル(ただ下底にCT区分の良好岩盤を設定)
 解析領域(100m×100m),トンネル中心座標(0,0),基盤岩(CT)Y=-20〜-50m , 掘削幅 D=10m,S1 初期,S2 上半掘削,S3 下半掘削

 設定した地山物性の単一剛性領域モデル(素掘りトンネル)のFEM解析を行うと、地山弾性係数や断面形状に関わらず、DT〜E3まで天端沈下量y1と底版隆起量y2はほぼイコールである。一方、B〜CUでは、底版変位比y2/y1=1.1〜1.4となり、底版隆起量が天端沈下量より大きい。(「変位データの扱い」で述べた底版隆起が大きくなる傾向は、単一剛性領域モデルでは普遍的であることが分かる)
 水平内空変位はDUを基準(1.0)とすると、B〜E3まで比率0.03から約5まで単調増加する。


  図-2 地山区分物性毎の内空変位等
  青:天端,赤;底版,緑;水平の各変位
  下半掘削後は天端沈下と水平変位はほぼ同一値となった。

 ここで天端沈下量40mm、水平内空変位50mmが施工上問題となるとする評価がある(竹林亜夫・松井保,トンネルと地下 第36巻11号,2005)。DTの変位が下半掘削S3で天端沈下-17mm、底版隆起+18mm、水平内空変位-18mm、DUの変位が下半掘削S3で天端沈下-55mm、底版隆起+55mm、水平内空変位-56mm、E1〜E3の変位が下半掘削S3で天端沈下-83〜-278mm、底版隆起+82〜+272mm、水平内空変位-84〜-278mmと計算されたため、主に変位量が問題となる地山区分はDUおよびE1〜E3地山であることが分かる。


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