円形空洞周辺の応力(Kirschの解) |
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2024.5.2,修正2024.8.7 |
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(1)Kirschの解について 平面ひずみ状態の板を考えた場合の円形空洞周辺の応力は、ドイツのエンジニアであった G.Kirsch(1898)によって解かれ、方程式が与えられている。この式の説明には、解説した厚肉円筒理論の考え方が参考にされている。ただし、厚肉円筒理論は側圧係数K=1.0の場合で、中心からの距離が同じ円上ではσrとσθがどの中心角θに対した点でも同じ値となるが、Kirschの解では側圧係数の設定は自由であり、着目点の各応力は中心角θによって異なる。 図-1 Kirschの解のモデル図および応力をうけている弾性体内の円形空洞周辺応力を求める式(フック&ブラウン「岩盤地下空洞の設計と施工」,小野寺透ほか邦訳,図44);初期地圧は鉛直力Pz,水平力kPz,k:側圧係数 Kirschの解は次の特徴がある。 1)条件応力(初期地圧)は、鉛直圧Pz,水平圧Phとし、側圧係数をKとして Ph=K*Pzとする。このため、トンネルの力学では、断面の大きさにより通常生じる天端、側壁、底盤の各点の初期地圧差は考慮されない。この場合、土圧の求め方としては、円形空洞中心点の土圧を条件とする考え方がある。 2)円形断面の空洞に関する方程式であり、σr、σθともに角度の影響項はcos2θのため、同じrに対し天端上方向と底盤下方向では応力値は同値となる。このため、Kirschの解によるトンネル力学の解説書は、通常、上半の4分の一円(第一象限)の解説で必要十分となる。すなわち、円形トンネルを掘削した場合、内空断面積×地山の単位体積重量相当の上向き地圧が生じるとする説を支持できない。 [注]何故なら、天端C.L.、上半肩、側壁S.L.、側壁下部、底盤C.L.で天頂からの中心角θは各々0°,45°,90°,135°,180°で代表した場合、2θは順に0°,90°,180°270°,360°となり、結果、cos2θが順に1,0,-1,0,1とし、S.L.を境に上下対称となるため 表-1 天端から底盤にかけてのcos2θおよびsin2θの特徴
3)ゆるみ土塊などの重力の影響は考慮していない。設計条件(計算条件)として初期地圧を、鉛直荷重Pz、水平荷重Ph=側圧係数K×Pzで与えているが、これは一般的な土被りのトンネル適用すると、S.L.の土被り、すなわち円形空洞中心の土被りに相当するPzとせざるを得ない。式には空洞の上部と下部における、すなわち天端上方、側壁横方向、底盤下方における断面内の掘削除荷の影響が考慮されていない。 4)トンネル空洞の大きさを考慮しない式となっており、土質力学や岩盤力学では解析条件となる寸法効果(モデルや内空断面の寸法[m])を考慮していない。すなわち、Kirschモデルは平面ひずみ条件の厚さの板にくりぬいた空洞を想定しており、亀裂を内在する岩盤で、数m〜十数mの一般のトンネル空洞の安定性や応力開放、応力再配分などを考慮していない、均一で理想的な材料モデルを検討した解であるためと思われる。 (2)放射方向応力σrと周方向応力σθの全体傾向 (図A)k=0のσr&σθ,θ=0〜180° (a=5m,r=1a〜2.5a) (図B)k=0.7のσr&σθ,θ=0〜180° (a=5m,r=1a〜2.5a) (図C)k=1.0のσr&σθ,θ=0〜180° (a=5m,r=1a〜2.5a) 図-2 Kirschによる円形トンネル周辺応力場(側圧係数k別) 天端→S.L.→底盤のσr(△)とσθ(〇)の分布グラフ 上図は円形トンネル(内半径a=5m,掘削直径D=10m)で,r=1a(5m),2a(10m),3a(15m),4a(20m),5a(25m)の点における半径方向応力σrと周方向応力σθを,別々に表した図である。すなわち掘削内壁面から25m,2D離れまでの地中の応力計算値を示す。x軸は天頂からの中心角(天頂θ=0,側壁S.L.θ=90°,底盤中心線θ=180°)とし,y軸は発生応力を示す.荷重条件は,Pz=1000kPa,Ph=K×Pvで,凡例に示す三角印は中心から放射線方向の応力σr,丸印は円周方向応力σθを表す. 式のcos2θの影響で、全てのグラフで各応力はS.L.を境に上下対称である。内壁面(r=1a)では、σrは内圧がないため中心角θにかかわらずσr=0となる. 周方向応力σθは、(図A)側圧係数 k=0のとき天頂と底盤センターラインで引張り力(図では負の応力値)で、θ=30°以上でアーチ肩〜側壁で圧縮力(図で正の応力値)となる.これはθ=90°(S.L.)で対称のため、底盤下(θ=180°およびθ≦150°)で同じ。 実際のトンネルで一般的なk=0.7および1.0(図B,図C)では、σθはいずれも圧縮(正の応力)であることが分かる。また、k=1のときどんな中心角θでもσθ=2Pz(2000kPa)を示す. σθは、k=1のx軸に平行な応力値直線(Pz=1000kPa前後)を中心に、側圧係数kの影響で変化するのが読み取れる。 (3)放射方向応力σrの計算とグラフ (A)k=0 側壁部(赤)は0に、天端部(青)はPzに漸近する (B)k=0.6 側壁部は0.6Pzに、天端部はPzに漸近する (C)k=1.0 中心角θにかかわらずPzに漸近する (D)k=2.0 側壁部は2Pzに、天端部はPzに漸近する 図-3 kirschの解による放射方向応力σr(k=0,0.6,1,2の例) (4)周方向応力σθの計算とグラフ 表-2.天端方向(θ=0°)の地山応力σθ計算値(Goodman,1980に加筆) 図-4.天端方向(θ=0°)の地山応力分布(Goodman,1980に加筆) r/a=5(r=5a),壁面からの離れ2D(4r)でσθはPh/Pz=kに漸近する. (注)σθは、設計条件の鉛直圧Pzで除して規格化している。 表-3.側壁方向(θ=90°)の地山応力σθ計算値(Goodman,1980に加筆) 図-5.側壁方向(θ=90°)の地山応力分布(Goodman,1980に加筆) r/a=5(r=5a),壁面からの離れ2D(4r)でσθはPz/Pz=1に漸近する (注)σθは、設計条件の鉛直圧Pzで除して規格化している。 [参考文献] 1)E.Hoek&E.T.Brown, Undergraund Excavations in Rock(1982) E.フック&E.T.ブラウン「岩盤地下空洞の設計と施工」小野寺透・吉中龍之進・斉藤正忠・北川隆 共訳,土木工学社(1985,S60) 2)Richard E.Goodman, Introduction to Rock Mechanics(1980) R.E.グッドマン「わかりやすい岩盤力学」大西有三+谷本親伯[ちかおさ]共訳 鹿島出版会(1984,S59) 3)今田 徹「山岳トンネル設計の考え方」土木工学社,平成22年10月 4)稲田善紀「岩盤工学」森北出版 (1997) |
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Kirschの解の誘導について |
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2023.5.5 |
ここでは、kirschの解の応力の式、及び弾性論から計算される変位の式について解説を試みようと思います。 解説する元式の表記は、参考文献1)Goodman邦訳(1984),pp.155-158に準じています。応力の式の誘導解説は、参考文献3),4)により、変位の式の誘導は、参考文献1)の付録2.式の誘導,p.224を参考に試します。 (1)応力の式 半径aの円形空洞の中心からrの点の放射方向(r方向)応力をσr、円周方向(θ方向)応力をσθ、両方向の面におけるせん断力をτrθ、および、P1=Pz, P2=Ph、θ(天端)= 0°、θ(S.L.)=90°として、 σr=1/2(P1+P2){1−(a/r)2} +1/2(P1−P2){1−4(a/r)2+3(a/r)4}cos2θ σθ=1/2(P1+P2){1+(a/r)2}−1/2(P1−P2){1+3(a/r)4}cos2θ τrθ=−1/2(P1−P2){1+2(a/r)2−3(a/r)4}sin2θ Fig.6 G.Kirsch solution's Model3) 図.7 仮想円周上の応力関係図 このモデルは平面ひずみ条件の単一剛性場の板状モデルで,一軸方向の応力場(例えば鉛直地圧Pz)で, 応力関数φ,適合条件式,および半径aの円孔上の初期条件(σr=τrθ=0)と半径bの円周上の初期条件から微分方程式が解かれている. [直交座標系]円孔の存在しない場合 σx=S,σy=0,τxy=0,φ=1/2・Sy2 土木学会「土木技術者のための岩盤力学」(1979) [極座標系]円孔の存在しない場合 σr=Scos2θ=1/2 S(1+cos2θ) ,σθ=Ssin2θ=1/2 S(1−cos2θ) τrθ=−1/2 S sin2θ,応力関数の形φ=f(r)・cos2θ Kirschの解は、トンネル問題では90°回転させた(θ'=θ−π/2)追加モデルの式を重ね合わせることで、側圧を考慮した二軸荷重モデルが利用されている。 (2)変位の式 軸対称問題の弾性理論(参考文献2,p33)から、平面ひずみ条件(σz≠0,εz=0)として次の式が導かれる。 εr=1/E{(1−ν2)σr−ν(1+ν)σθ} εθ=1/E{ν(1+ν)σr−(1−ν2)σθ} ここで、νはポアソン比. r方向変位をu、θ方向変位をvとすると、ひずみとは次式の関係にある。 (Goodman邦訳1984,付録2.式の誘導,p.224より) εr=−∂u/∂r (注)ここで∂:偏微分として表記 εθ=−u/r−1/r(∂v/∂θ) したがって、 u=∫du=−∫(εr)dr v=∫dv=−∫(rεθ)dθ−∫udθ 上記(1)の応力式から次の変位式が誘導される。 u−ui=1/(4G)(P1+P2)(a2/r) +1/(4G)(P1−P2)(a2/r){4(1−ν)−(a/r)2}cos2θ ・・・(確認した.ただし符号が未確認) v−vi=−1/(4G)(P1−P2)(a2/r){2(1−2ν)+(a/r)2}sin2θ ・・・(式、符号共に確認した) ここで、Gは剛性率で、弾性論からG=E/2(1+ν)の関係をもつ。 uiとviはa=0とした掘削前変位とする。 [参考文献] 1)R.E.Goodman, Introduction to Rock Mechanics(1980) R.E.グッドマン「わかりやすい岩盤力学」大西有三+谷本親伯[ちかおさ]共訳 鹿島出版会(1984,S59) 2)吉野雅彦「Excelによる有限要素法入門 弾性・剛塑性・弾塑性 CD-ROM付,朝倉書店((2002) 3)S.P.Timoshenko and J.N.Goodier「Theory of Elasticity」 3rd.Edition(2010) 4)J.C.Jaeger, N.G.W.Cook, R.W.Zimmerman「Fundamentals of Rock Mechanics」4th.Edition,WILEY Blackwell(2007) 5)土木技術者のための岩盤力学,昭和54年版,土木学会編(1979)p264-266. (研究中) |
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