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長期的変状予測法 


粘弾性モデルと地山劣化モデル
2023.11.10

(1)変状の長期的な予測手法
 軟岩地山トンネルに生じる「底盤部変状の長期的な予測手法は、統一的な方法が確立されておらず、変状の状態とその進行性を詳細に調査した結果に基づいた経験的な判断や、場合によって有限要素法や有限差分法等の解析を用いることにより、個別に検討しているのが現状である。」(文献1;土木学会、トンネル・ライブラリー第25号「山岳トンネルのインバート−設計・施工から維持管理まで−」、H25年(2013),pp43-44.)

 底盤部の長期的変状の解析モデルとして、次の粘弾性モデル(あるいは粘弾塑性モデル)と地山劣化モデルがある。【出典】文献2;土木学会「トンネルの変状メカニズム」2003,pp80-84.

a)粘弾性モデルを用いる方法
 粘弾性モデルを用いる方法は、クリープ解析とも呼ばれる。この方法は、「地山は瞬間的に弾性体として挙動するが、ダッシュポットでモデル化される変形成分が顕在化し、徐々に変形(ひずみ)が進むと考えた手法」であり、図-1で示されるようにVoigt-Springモデルが用いられる.
 ダッシュポットは加えた力が大きいほど変形速度が大きくなる性質があり、これはトンネル周辺地山に大きな地圧が生じる場合には大きな変形が起こりやすいという計測事実に合わせようとするものである。ただし、粘弾性モデルは収束性のクリープ関数であり、将来的に変形が収束することを前提としているため、適用に限界があることが課題である.適用例に、一般国道13号東栗子トンネル、長崎自動車道うれしのトンネルなどがある.



 図-1 Voigt-Springモデル,あるいはVoigt型3要素モデル

(解説)一般化ケルビン体(a generalized Kelvin body)ともいう。載荷と同時に生ずるひずみを初期ひずみεeとし、その後、ひずみ速度dεc/dtが対数的に減少し、ある一定のひずみ{εe(1+αv)}に漸近して、ひずみ速度がゼロとなるモデル.(R.E.Goodman,1980)

b)地山劣化モデルを用いる方法
 地山劣化モデルによる方法は、地山の強度に時間依存性を持たせて、時間経過とともに進行するトンネル内空変位や盤ぶくれを表現する手法である.具体的には、図-2に示すように地山のせん断強度定数(c,φ)を低下させると、応力状態が破壊基準線に近いトンネル近傍の地山が塑性化し、応力再配分の結果、トンネル内空変位や盤ぶくれが表現できる.
 この手法は、時間経過とともに進行する塑性圧による変状を直接モデル化するものであり、塑性領域の評価や盤ぶくれに対する対策工の効果を評価できる.一方で、強度を低下させる地山の範囲や地山強度と時間経過の関係については、実際の変状現象や計測データと照合しながら仮定する必要があり、十分な計測データが必要である.
 また、この方法も将来的に変形が収束することが前提であるため、解析値と実測値の乖離に十分注意が必要である。適用例には、3次元有限差分コードFLAC3Dによる新幹線や単線鉄道トンネルの対策工評価の報告などがある(鉄道総合技術研究所).


 図-2 地山劣化モデルの概要図


クリープ率と遅延係数
2023.11.10

(2)解析例
【出典】文献3;新田・川村・竹岡・布井「活線下での覆工打ち換え工事 一般国道13号 東栗子トンネル」,トンネルと地下,2001年(平成13年)4月号,pp297-305.

 当論文では,改築部覆工の構造安定性を評価するため,トンネル掘削から既設覆工の施工,改築および改築後の長期的安定性を検討した.
 地山変形の時間依存性をモデル化するため,粘弾性有限要素解析(Voigt型3要素モデル)を用い,新規覆工コンクリートは梁材として引張ひび割れ判定を行って安定性を評価した.  

 図-3に解析モデルおよび地山パラメータを示す.クリーブ係数の設定は過去の計測値が得られていないため,異なる解析モデルでのパラメータスタディより決定した.
 β:地山変位が30年で90%以上収束していると仮定 (β=0.003)
 α :目標値(現計測値)変位を満足させる(α=1.60)


  図-3 解析モデルおよび粘弾性解析パラメータ


【β決定の計算】
1)地山変位が30年間で90%以上収束する場合=粘性ヒズミによる変位が90%以上収束する場合
 ここで ta=365日×30年=10950(日)
    ε0×α{1−exp(-βta)}≧ 0.90ε0×α
     1−exp(-βta) ≧ 0.90
       1−0.90 ≧ exp(-βta )
             0.10 ≧ exp(-βta)
 両辺の自然対数をとり、両辺を交換すると、
       Loge{exp(-βta)}≦ Loge0.10
            -βta≦-2.303
       β ≦2.303/ta=2.303/10950=0.00021

 当文献は、シミュレートにより最終的に、β=0.0003と決定した.
 したがって、  βta =0.0003×10950=3.285,
      ∴1−exp(-βta) =0.963 ≧ 0.90

(※)参考までに期間と収率を変えて計算すると以下のようになる.

2)地山変位が30年間で95%以上収束する場合=粘性ヒズミによる変位が95%以上収束する場合
 1−0.95 ≧ exp(-βta )
             exp(-βta)≦ 0.05
       Loge{exp(-βta)}≦ Loge0.05
            -βta≦-2.996
       β ≦2.996/ta=2.996/10950=0.00027 

3)地山変位が10年間で95%以上収束する場合=粘性ヒズミによる変位が95%以上収束する場合
 1−0.95 ≧ exp(-βta )
             exp(-βta)≦ 0.05
       Loge{exp(-βta)}≦ Loge0.05
            -βta≦-2.996
       β ≦2.996/ta=2.996/3650=0.00082 


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