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厚肉円筒理論 


厚肉円筒理論による応力-変形量関係式
2023.4.9

 NATMの膨張性地山対策で、吹付コンクリートと鋼製支保工で早期閉合や多重支保工を設計する場合、厚肉円筒理論が適用される場合がある。

(1)厚肉円筒の微小要素に作用する応力
 内半径r1,外半径r2,肉厚r2-r1の厚肉円筒に、内圧P1,外圧P2がかかる場合の厚肉内部の要素の応力と変形量のつり合いは、下図のように考えられる。


  図-1 厚肉円筒理論モデル図 P1;内圧,P2;外圧


   図-2 細部図 σtのX方向成分

よって、応力-変形量のつり合い式は次のようになる。
(σr+dσr)(r+dr)dθ−σr(rdθ)−2σt(dθ/2)dr=0
 ・・・式(1)
これを展開して
(σr・dr−σt・dr+r・dσr)dθ≒0
これから、次の微分方程式が得られる。
 r(dσr/dr)=σt−σr   ・・・式(2)

ここで、断面は円筒が変形しても平面を保つものと仮定すると、軸方向のひずみεzは一定になる。軸方向応力をσzとすると、弾性理論から次式の関係がある。
 εz=1/E{σz−ν(σt+σr)}=constant  ・・・式(3)

また、円筒の両端が開放されていれば、σz=0である。
円筒が固定されていればσzは下記で定まり、これも一定となる。


  図-3 円筒端部の応力関係

ここで、トンネルに準じて、記号を次のように置く。
 内半径(内空半径)r1=a、外半径(掘削径)r2=b、
 内力P1=Pi、外力P2=Po
固定端部の応力関係は次式で表される。
(πb2−πa2)σz=πb2 Po−πa2 Pi
∴ σz=(b2Po−a2Pi)/(b2−a2)=constant(※1)・・・式(4)
※1 右辺の数値はすべて条件で既知のため。

式(3)を変形すると、
  Eεz=σz−ν(σt+σr)
  Eεz−σz=−ν(σt+σr)
 ∴(σt+σr)=(σz −Eεz)/ν=constant(※2)
 ※2 式(3)、(4)からεzとσzが一定で、Eが既知であるため。
  ここで、上式を次のようにλで表す。
  σt+σr=2λ=constant   ・・・式(5)

 式(2),(5)からσtを消去し、変数をrとσrの2変数とすると、
  σt=2λ−σrであるから、
  r(dσr/dr)=2λ−2σr
  r(dσr/dr)+2σr=2λ
この両辺にrをかければ、
  2rσr+r2(dσr/dr)=2λr  ・・・式(6)
両辺共に積分し、微分方程式を解く。
∫[2rσr+r2(dσr/dr)]dr=∫(2λr)dr
  ∴ r2σr=λr2+C (C:積分定数)  ・・・式(7)

次にλ,Cを求めるために内圧と外圧の境界条件を用いる。
内圧条件 r=r1= a のとき、P1=Pi=0 (道路・鉄道トンネル等の場合)
外圧条件 r=r2=bのとき、P2=Po  (Po=γHなど)

内圧条件 r12P1=λr12+C→a2Pi=λa2+C→a2×0=λa2+C→C=−λa2
外圧条件 r22P2=λr22+C→b2Po=λb2+C→b2Po=λb2−λa2
   ∴λ=b2Po/(b2−a2),C=−a2 b2Po/(b2−a2)・・・式(8)

このλ、Cを式(7)に代入することで、σrを求める。
式(7)を変形し、
  σr=λ+C/r2
    =b2Po/(b2−a2)−a2 b2Po/r2(b2−a2
  ∴ σr=(r2−a2)b2Po/r2(b2−a2)   ・・・・式(9)
次に式(5)を変形してσtを求める。
 σt=2λ−σr
   =2b2Po/(b2−a2)−(r2−a2)b2Po/r2(b2−a2
   =(2r2−r2+a2)b2Po/r2(b2−a2
 ∴ σt=(r2+a2)b2Po/r2(b2−a2)   ・・・・式(10)

(2)厚肉円筒の変形量uを求める
 周方向のひずみεtは、周長が2πr から2π(r+u)に変化することから、
 εt=[2π(r+u)−2πr]/2πr=u/r ・・・式(11)
 一方、径方向ひずみεrは、rでの変位u(r)に対してr+drでの変位u(r+dr)であり、
 εr=[u(r+dr)−u(r)]/dr=du/dr ・・・式(12)
ひずみと応力の関係式は、εrに関して、
 εr=1/E{σr−ν(σt+σz)} ・・・式(13)

式(12),式(13)から、
 E・du/dr={σr−ν(σt+σz)}  ・・・式(14)

さらに式(14)に、既出の各応力σを入れ、整理、積分して、変位量uを計算する。
E・du/dr=σr−ν(σt+σz)
 =(r2−a2)b2Po/r2(b2−a2
   −ν{(r2+a2)b2Po/r2(b2−a2)+b2 Po/(b2−a2)}
 =[b2Po/(b2−a2)][{(r2−a2)−ν(r2+a2)}/r2−ν]
 =[b2Po/(b2−a2)][{(1−ν)r2−(1+ν)a2}/r2−ν]
 =[b2Po/(b2−a2)][(1−2ν)−(1+ν)a2/r2
[E/{b2Po/(b2−a2)}]・∫du
   =∫[(1−2ν)−(1+ν)a2/r2]dr
[E/{b2Po/(b2−a2)}]・u=(1−2ν)r+(1+ν)a2/r

∴ u=(1/E){b2Po/(b2−a2)}
        ・{(1−2ν)r+(1+ν)a2/r}・・・式(15)

 周方向のひずみεtは、式(11)により、このuをrで除して求められる。

[参考文献] 
1)HP技術計算製作所 材料力学2.厚肉円筒
https://gijyutsu-keisan.com/mech/engineer/mecdyn/matmech/
matmech_2.php
2)楠本 太・恩田雅也・上岡真也,押出し性地山における大断面トンネルの力学パラメータに関する考察,土木学会第60回年次学術講演会(平成17年[2005]9月),3-214.
3)西村和夫・城間博通・楠本 太,早期閉合トンネル力学パラメータに関する考察,土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度[2011]),W395.

厚肉円筒理を用いたトンネル支保構造体の力学問題
2023.4.20

(1)必要支保耐力及び作用土圧の推定
 膨張性地山の多重支保構造の設計のための作用土圧(円筒状支保構造にかかる外圧力)の推定および必要支保耐力(部材応力)の算出を行うことがある。
 楠本・恩田・上岡(H17;2005)は、押出し性地山の大断面トンネルを考察し、トンネル支保構造体が押出し性地圧(Po)と力学的にバランスできる必要支保耐力(σθ)の算定式は、掘削影響域(H')と支保厚(T=b-a)をパラメータとして、厚肉円筒理論を用いて導き、次式を示した。
σθ={a2・b2(Po−Pi)/(b2−a2)(1/r2)+(Pi・a2+Po・b2)/(b2−a2)  ・・・式(15)
 ここで、a:内空半径,b:掘削半径,r:支保力計算位置(r=(a+b)/2),
 Po:作用土圧(=γ・H',N/o2),Pi:内圧(=0,N/o2),
 道路・鉄道トンネルを想定し、Pi=0を代入すると、
 σθ={a2・b2(Po)/(b2−a2)(1/r2)+Po・b2/(b2−a2) 
∴σθ=(r2+a2)b2Po/r2(b2−a2)=σt
  ・・・式(10) (既出式を確認)

 一方、一般的に掘削影響域(高さH')は不明であるが、σθあるいは軸力Nが計測で得られている場合は、Po(=γ・H',N/o2)が求められている。(楠本ほか,2005;西村ほか,2011;ほか穂別トンネルなど)
式(10)を変形すると、
Po={r2 (b2−a2)/b2(r2+a2)}σθ ・・・式(16)
ここで、次の関係式を利用する。
 σθ=N/A=N/(T・L)=N/(b-a)   ・・・式(17)
ただし、T;支保の厚さ,L;断面単位長さ=1mとする。
また、rを厚肉の中心線までとして、r=(a+b)/2   ・・・式(18)
支保厚の1/2をd、すなわちd=T/2とすると、a=r-d, b=r+d・・式(19)
式(16)および式(17)から、
 Po={r2 (b+a)(b−a)/b2(r2+a2)}×{N/(b−a)}
 ∴ Po={r2 (b+a)/b2(r2+a2)}N  ・・・式(20)
この式に、式(18)、(19)を代入し、作用土圧の概算式Po≒N/r(楠本ほか,2005;西村ほか,2011)を導くことを試みる。
 Po={r2 (2r)/(r+d)2(r2+(r−d)2)}N
  ={2r3 /(r2+2dr+d2)(2r2−2dr+ d2)}N
  ={2r3 /r2 (1+2d/r+d2/ r2) 2r2(1−d/r+ d2/2r2)}N
  ={2r3 /2r4 (1+2d/r+d2/ r2) (1−d/r+ d2/2r2)}N
二次の項d2/r2≒0として
  ≒{1/r (1+2d/r) (1−d/r)}N   ・・・
  ={1/r (1+d/r−2d2/2r2)}N
  ≒ N/r (1+d/r)
∴Po= N/(r +d)   ・・・式(21)
 概算式として、Po≒ N/r ・・・式(22)
したがって、掘削影響域は次式で概算される。
 H'= (N/r)/γt  ・・・式(23)


図-4 厚肉円筒理論による作用土圧と必要支保耐力の求め方(私案)

 中野・森田・西村(2019)は、支保工の応力照査では,「支保工の許容応力は,土木学会の旧基準に準拠し,安全率4を用い、仮設割り増し係数1.5を考慮する。鋼製支保工は降伏応力度を用いて照査する。」とした。
・吹付けコンクリート
 σsca=(σsck/4) ×1.0=36/4 × 1.5=13.5N/o2 
    :(高強度コンクリート)
 σsca=(σsck/4) ×1.0=18/4 × 1.5=6.75N/o2 
    :(従来コンクリート)
 σsck:吹付けコンクリート設計基準強度
    (高強度コンリート36N/o2,従来コン18N/o2)
 σsca:吹付けコンクリート許容応力度

・鋼製支保工の降伏応力度σhca
  従来鋼;245(455)N/o2,高規格鋼;440(590)N/o2
  ( )設計基準強度
[参考文献]
・中野清人・森田 篤・西村和夫:施工事例にもとづく早期閉合の支保構造分析と支保の効果に関する考察,土木学会論文集F1(トンネル工学),Vol.75,No.1,7-25,2019.

 ここで、最大土被り60mの大規模蛇紋岩地すべりに掘削された北海道横断道Tトンネルの膨張性地山を考慮した剛性の高い支保工の軸力実測値を参考に、作用土圧と必要支保耐力の計算例を示す。
[トンネル諸元]
・二車線高速道路,三心円断面 r1=6.0m,半径比r3/r1=2.84,r3=17.0m
・地山区分 葉片状・粘土状蛇紋岩,DMおよびDH,変形係数 D=18〜40MPa
・上半−下半:高強度吹付けコンクリート(fsck=36N/o2)t=20cm,高規格H形鋼HH200(降伏応力度σhck440 N/o2),高耐力ロックボルト(降伏荷重290kN),AGFφ114.3,t=6mm,・インバート;RC,t=50cm

    表-1 計測軸力Nによる作用土圧と必要支保耐力


 コンクリート強度で照査すると、高強度吹付けコンクリート(fsck=36N/o2)を使用しているため、掘削開始側の当初の上半工法から早期閉合に変更した区間では、アーチの必要支保耐力は余裕がある。大型地すべり区間では、アーチ部の吹付けコンクリート許容応力度13.5N/o2を若干上回っているが、インバートは余裕があることが分かる。



  図-5 Tトンネル支保構造と計測結果
出典;中野清人・佐藤諭一・本藤 敦「蛇紋岩粘性土に施工した早期閉合の効果に関する一考察」トンネル工学報告集 第20巻/pp.37-42.2010.11

(2)側圧係数の推定
 膨張性地山では支保構造体の計測結果に厚肉円筒理論を適用させ、側圧係数を算出している例がある。伊藤・村西・安藤(1991)は、道央自動車道・嵐山トンネルの計測データ(天端沈下に対する水平内空変位の比δh/δvの実測値)をもとに、詳細は略されているが、「円筒理論の解析解によりを、K0=1.14を得た」旨を記述し、FEMによる再現解析を行っている。

[参考文献]
・伊藤淳・村西佳美・安藤知明:山岳トンネルの新技術,4-7.NATMにおける数値解析,ジェオフロンテ研究会,土木工学社,1991.


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