北海道方アプローチ NATMによるトンネル群の施工結果 |
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2022.11.22 |
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トンネルと地下第16巻7号,1985年(昭和60年)7月,「NATMによる9区間の施工結果−津軽海峡線北海道方のトンネル群−」 日本鉄道建設公団札幌支社 吉田福次・杉林 剛・菅野勝広 1980年代、青函トンネルから在来線までの北海道方取付け線(北海道方アプローチ)は路線長さ約15kmの新幹線規格であり、9トンネル、9工区のトンネル群は延長7.3kmで、鉄建公団としてNATMが本格的に行われた初めての路線であった。 小生はかけだしの20代半ばに一年あまり当路線に常駐し、施工パターンごとの切羽観察、岩石試験試料採取と室内試験や低土被り区間の地質調査を担当した。 図-2 津軽海峡線 トンネル地質縦断図 この鉄建公団による論文は、八雲層の分布する第2湯の里Tと第3重内Tで一軸圧縮強度が当初予測を超える40MPa台の硬質岩(硬質頁岩と混入する硬質泥灰岩団塊;石灰質ノジュール)が出現したため、発破併用ロードヘッダ(MRHS-90)掘削に変更し、シュートベンチ工法の新規Dパターンで施工した経緯が述べられ、各工区(注1)の施工機械の組み合わせや施工パターンごとの工事費の比較も解説されている。 (注1)記憶する各工区及び施工者は次の通り(当時の会社名) 青函トンネル・起点側・知内町から函館方・終点側・木古内町へ順に。 @第1湯の里(ゆのさと)T,L=1167m,青木建設 A第2湯の里T,L=1638m,西工区 日本国土開発,東工区 地崎工業 B第1重内(おもない)T,L=258m,第2重内T,L=555m,錢高組 C第3重内T,L=1218m,清水建設 D第1森越(もりこし)T,L=1634m,西工区 飛島建設,東工区 東急建設 E第2森越T,L=166m,第3森越T,L=322m,東亜建設工業 F第4森越T,L=405m,伊藤組土建 また、NATM採用による検討課題が次の7項目あり、後のNATM施工における貴重なデータが報告されている。 (1)ロードヘッダにおける岩種と切削速度および摩耗率の相関性 特にqu=20MPa以下の軟岩において、切削能力(m3/H)と岩石の一軸圧縮強度、引張り強度との相関が良い。 (2)吹付けコンクリートの配合とはねかえり率 示方配合、現場配合、材令強度グラフが示された。 (3)吹付や発破に伴う粉塵対策・・・遊離ケイ酸と珪肺、作業環境 粉塵低減材による粉塵抑制効果は、粉塵濃度が無添加の場合の1/2〜1/3となり、大きいことが分かった。 (4)鉄筋支保工とH鋼の計測と施工の比較・・・H鋼の部材影部の充填不足対策として、鉄筋支保工が有効であることを確認した。 (5)管理基準値の設定と最終内空変位の予測(初期変位速度から) 現場における計測管理は、計測管理フローチャートを作成し、これを基本とした。管理基準値は岩石の限界ひずみ(平均で約1%)から定め、内空変位と切羽距離が、指数関数 U=C・(1−e^(-2L))で近似さものとして内空変位管理グラフを作成して、日常管理を行った。ただし、トンネル内で実計測可能な内空変位量は全変位の70%とした。 表-1 現場管理基準値
(6)フェイスマッピングの重回帰分析と最終内空変位の相関性 重回帰分析によって切羽評価点から最終変位予測が可能なことを示したが、現場における管理者の総合的判断と今後の研究の必要性を述べている。 (7)ロックボルトの軸力と地中変位の測定 日常的な計測Aに対して追加する計測Bについて、5工区で計測した。計測頻度は同一断面の上半脚部左右と天端の3点で、掘削状況、いわゆる上半切羽の進行、下半切羽の接近通過による経日変化を約1か月間計測した。 論文では紙面の都合上、第3重内Tの計測結果を解説している。 地中変位は、各測定点共に切羽通過後、2〜3o程度で収束したが、深度1mあるいは2.5mに不連続面が推定された。 ロックボルト軸力測定の結果は、下半切羽の通過直後、1.2〜2.4mで2.7〜4.4ton(27〜44kN)を示し、切進行に伴い徐々に各支保部材に応力再配分が起こり、同じ深さで最終的(29日後)1.1〜5.3ton(11〜53kN)となった。したがって、ゆるみ領域の境界は、上半脚部左(山側)および天端で1m、上半脚部右(海側)で2.5m程度と推察された。 表-2 各工区の測点キロ程および岩種
なお、第1重内Tの延長21m区間(2セントルスパン)での約1年間の一次支保部材の計測および二次覆工施工後の各支保部材の応力分担の把握を試みた計測が行われたが、紙面の都合上、詳細は割愛されている。 (8)掘削に伴うゆるみ範囲把握のための坑内弾性波探査 @ 発破併用機械掘削による切羽、アーチ、側壁の地山のゆるみ範囲 切羽から1m離れより設置した上半側壁3測線(各延長33m)の地山弾性波探査では、第1層510〜640m/sと第2層2210〜2310m/sの境界などをゆるみ領域境とすると、ゆるみ領域は0.3〜0.4mで、ロードヘッダによる機械掘削によるゆるみ領域は小さく、また、補助発破によるゆるみ領域の拡大も見られなかった。 A シュートベンチ下半掘削における経日変化(ゆるみ)把握 当工事はインバート併進機械掘削工法でインバートを早期に閉合するため吹付コンクリートを施工している。一般にショートベンチカット工法によるトンネル掘削でベンチ長が長すぎる場合、トンネル長手方向がカンチレバーとなり、大きな曲げを生じ上半脚部の地山が破壊され好ましくないので、上半ベンチにおいて岩盤状況の経日変化を知るため弾性波探査を実施した。 弾性波測定は、ショートベンチL=40m上に、切羽から1mの点から縦断方向に3測線を設定し行った。この結果、第1層は転圧層で680m/s、第2層はゆるみ領域で1150m/s、第3層は新鮮岩部で2830〜2860m/sが解析された。ゆるみ領域は切羽前で0.7〜1.3mで、坑口側に3〜4°傾きで増加し、上半ベンチ端(掘削から12日経過点)で2.9〜4.5mとなって、時間と共に増大していることが分かった。@でのべたように、掘削後早期に吹付コンクリートを施工した上半アーチはゆるみ領域が0.3〜0.4mに収まっていることから、下半における早期吹付コンクリート、インバートによる閉合が品質の良いトンネルを作るために必要であるとした。
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