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底盤変位と剛性領域 


トンネルのFEMで底盤隆起量を抑制する方法(予備検討)
2022.12.17

 トンネル周辺の地山物性を同一とした場合、FEM解析時の底盤変位を抑制する方法として、上半あるいは下半掘削後に、底盤に土被り荷重相当の大きな分布荷重を載荷すると、はじめて底盤の隆起が抑えられることが分かる。
 前述のDU地山の標準物性(E=150MPa,γt=22kN/m3)、土被り50mの素掘り掘削で、底盤に追加載荷する荷重をパラメータとして、天端沈下y1と底盤変位y2の二つの鉛直変位に着目し解析を行った。ここで負の変位は沈下で、正の変位は隆起を示す。
 解析の結果、載荷する分布荷重が、5〜10m以下の掘削断面高さ程度の地山荷重では-y2/y1=0.7〜0.9と影響が小さい。
 ただし、P≒40m×22kN/m3=880〜960kN/m2(土被り50mモデルの掘削解放応力の約80%)の場合に底盤の鉛直変位がおおむねゼロになり、底盤には掘削解放力の約80%の鉛直上方応力が保有されているものと考えられる。
 またこの1/2のP≒20m×22kN/m3=440〜520kN/m2で、底盤隆起(+30o)が天端沈下(−60o)の1/2になる傾向が分かった。




    図-1 底盤への追加載荷と底盤鉛直変位

 このように底盤に載荷して底盤隆起を抑制するには必要下向き力が多大で現実的でないため、底盤の隆起抑制方法として次の2方法を検討する。

【方法1】トンネル周辺の地山のアーチング作用を重要視し、Terzaghiの式やトンネル坑口設計の方法に準じた地山荷重を設定し、変形量を適切に抑える。

【方法2】平板載荷や孔内水平載荷試験のヒズミ−応力グラフより類推する掘削除荷に伴う地山の剛性(弾性係数または変形係数)の上方修正による方法、すなわち「除荷剛性」と名付けた概念を導入する。この方法では、除荷荷重の大きさ(初期剛性に対する向上比率)および剛性を増加させる領域設定について検討を行う。
 

三心円断面の底盤変位と剛性領域(帰納法的考察)
2022.12.17/2024.1.30修正

(1)供用時の盤ぶくれ解析に底盤下10mなどの剛性低下モデルが使われている12)。これと逆の現象で、掘削時は除荷剛性により、特に底盤下の剛性増加が起こっている可能性がある。6)実際の施工では、底盤隆起が問題となることは、仮インバートを要する膨張性地山以外では問題となっていない。おそらく、この剛性がアップする除荷剛性現象は断面閉合後、地山の応力再配分が生じ、時間の経過とともに解消して行くのではないだろうか。
 この考え方で、土被りを15m、25m、45m(以上側圧係数K0=0.7)、95m(側圧係数K0=1.0)の4ケースとして、各ケースで底盤直下に深さ6mないし10mの除荷剛性域を設定した。除荷剛性域の変形係数はトンネル周辺地山の弾性係数の10倍(予備解析で決定,下欄参照)とし、FEM解析を行った結果、底盤の隆起は低減するが、天端沈下量y1と底盤隆起量y2の比率(-y2/y1)は50〜80%程度であり、これ以下にはならなかった。土被り荷重は当然、変位の大きさに影響するが、天端沈下の絶対値と底盤隆起の比率にはほとんど影響しないことが分かった。


 図-1 除荷剛性解析の施工ステップ


 図-2 除荷剛性領域(緑の要素) W=6mの例

(2)実際のトンネル施工では、底盤に重機が存在するため、底盤の変位を詳細に計測している実績がほとんどないが、近年、開発されたインバート変位計4)は、センターライン下に水圧計をもつ水管を設置する方式を取っている(図-3)。(株)大林組 木梨秀雄・伊藤 哲ほか(2020)は、インバート変位計を設置して、インバート鉛直変位が10mm以下に収束する地山のほかに、スメクタイトを含む堆積岩で10mm〜20mm程度の隆起を示す泥岩と30日で50mmを超える凝灰岩を計測した。中でも膨張性の凝灰岩地山ではインバート吹付けにより内空変位は収束したが、盤ぶくれはインバート吹付けを破壊して変位計は100mm超に達したことを報告した(図-4)。この論文ではインバートの初期変位速度からの最大変位の推定、およびインバート直下に仮想的な薄い応力増加領域をもつFEMモデルで、盤ぶくれを再現し対策工の評価を行っている。


 図-3 インバート変位計の構造4)


 図-4 インバート変位計の計測例4)

 これまで葉片状〜粘土状の蛇紋岩からなるトンネルでは、仮インバートが8mm/日の膨張量で破壊された等の記録があり、早期断面閉合の場合は底盤の隆起でインバートが破壊され10cm程度隆起した事例も報告されている。8),9)盃山トンネルでは、内空変位22〜46cm、天端沈下10〜28cmの凝灰岩(DU)で、脚部沈下18〜45cmが問題となり、詳細はないがインバートにクラックを発生させた盤ぶくれが報告されている。
 また、施工断面における変形余裕量は北陸新幹線・飯山トンネルでは、一次支保工で、上下半施工時に30cm、インバートで10cmとの記録があり、支保構造や施工時点の影響が大きいと思われるが、膨張性地山であっても底版の隆起量が天端沈下の1/3程度であったケースが想像される。10)
(3)以上の考察から、(1)の除荷剛性域のモデルを再検討し、変形係数E01;トンネル掘削時のアーチから側壁背後の地山、E02(=10E01);脚部あるいは下半底版から下の地山すなわちトンネル掘削の影響のない地山、として解析を行い、底版直下にE01とE02の中間剛性の除荷剛性領域E03を設定して掘削解析を行った。その結果、各ケースで地中鉛直応力分布は従来の単一剛性と類似するが、側壁から底盤の鉛直変位量は抑制され、天端沈下に対する底盤隆起量の変位量比(-y2/y1)が1/3程度となることが分かった。


 図-5 新しい剛性領域モデルの鉛直応力分布(上図)
     および鉛直変位分布図(下図)

 視点を変えると、各変形係数は次の意味合いをもつと考える。
・E01;トンネル周辺、すなわちトンネル側壁方向で2D程度の範囲及び地圧を生じさせる岩荷重高さまでが、トンネル掘削による変形係数の剛性領域で、アーチから側壁および近傍地山の変形・応力を生じさせる。
・E02;トンネル掘削前の初期地山、あるいはトンネル掘削に影響を受けない地山の変形係数。E02=β×E01,β=10など。
・E03;トンネル掘削時に応力解放の影響の少ない底盤直下の地山の除荷時変形係数。E03=α×E01,α=5など。
(4)このようにDU地山(Dfc=150MPa)及びE2地山(Dfc=60MPa)を中心とした解析検討からD〜E地山の事前設計における荷重高さとトンネル周辺及び底盤下の設定剛性について、試案を示した。
 施工時から供用時の底盤・インバート変位の適切なモデル化を図る目的で、天端沈下、内空水平変位に底盤隆起を加えた統一的な再現解析を行う場合は、提案した剛性域分布モデルの枠組みで、主にE03の剛性を決定する係数α(E03=αE01)を、粘弾性的要素や経時変化を含めて検討する方法で再現できる可能性があると思われる。

表-1 天端沈下・内空水平変位と底盤変位を統合する剛性領域モデル
地山区分
荷重高さ
地山の変形係数および剛性領域
上半アーチ・側壁周辺
初期地山
底版剛性
H(m)
E01(側方領域)
E02
E03(W:深さ)
DT
1.5D
E01 (1.5D)
β・E01
α・E01(6m)
DU
2.5D
E01 (2.0D)
β・E01
α・E01(6m)
E1,E2
4〜8D
E01 (2.0D)
β・E01
α・E01(10m)
E3
8D
E01 (2.0D)
β・E01
α・E01(10m)
※地山区分:道路トンネルの例,D:トンネル掘削幅,E01:原位置試験・岩石試験評価値または標準物性値,αおよびβ:剛性設定の係数


  図-6 新しい剛性領域モデルの提案
     道央自動車道嵐山Tn(蛇紋岩)8),9)

(5)剛性設定の係数について
 DU地山(E01=150MPa)及びE2地山(E01=60MPa)において、β/α=2の条件でケーススタディを行うと、天端沈下量y1と底盤隆起量y2の比率
(-y2/y1)は概ねβ=4,α=2(すなわちE02=4E01&E03=2E01)で2/3以下、β=5〜6,α=2.5〜3で1/2以下、β=8〜10,α=4〜5で1/3以下となる傾向が分かる。このようなケーススタディで作成したグラフ上で、施工時の計測等で得られた変位量比(-y2/y1)からβ、αを設定する。
 なお、上記のような三領域モデルでは、β/αが2より小さくなると、底盤隆起量が急激に増大し、したがって変位量比(-y2/y1)が大きく成るため、領域の剛性の格差を可能な限り小さくし、かつ底盤隆起量を抑える目的では、β/α=2程度が望ましいと考えられる。
 施工時、掘削後間もない時刻における解析にはこのβ/α比を用い、その長時間後、供用中の盤ぶくれ現象の解析には、主に底盤下のE03に対して粘弾性解析設定(クリープ解析)を行うことで、実測に適合した再現解析が出来る可能性がある。

【解説論文】
「山岳トンネルのFEMにおける掘削解放力と底盤の変位,応力および剛性領域に関する帰納法的考察(詳細版)」2024.2.5 作成
 details_domainelasticmodulusfemtn_25pV2.pdf

(引き続き研究中)

【参考文献】
1)久武勝保・山崎康裕:トンネル沈下のFEM結果に及ぼす解析領域の影響,トンネルと地下,2001.11.
2)大成建設株式会社:考え方がよくわかる設計実務7,トンネルの設計,2020.
3)日本道路公団試験研究所道路研究部トンネル研究室:試験研究所技術資料第358号,トンネル数値解析マニュアル, 1998.
4)木梨秀雄・伊藤 哲・藤岡大輔・鈴木拓也・辻村幸治:トンネル施工中の計測にもとづく盤ぶくれの長期予測と対策工選定,第47回岩盤力学に関するシンポジュウム講演集,講演番号55,2020.
5)建設省土木研究所トンネル研究室:土木研究所資料第3232号,トンネル掘削時地盤変状の予測対策マニュアル(案),1994.
6)リチャ-ド・E.グッドマン:わかりやすい岩盤力学,大西有三訳,鹿島出版会,1984.
7) 伊藤淳・村西佳美・安藤知明:山岳トンネルの新技術,4-7.NATMにおける数値解析,ジェオフロンテ研究会,土木工学社,1991.
8)稲葉英憲・西谷直人・手塚 洋・新田訓弘:神居古潭蛇紋岩地帯にトンネルを掘る 道央自動車道嵐山トンネル,トンネルと地下,1988.6.
9)稲葉英憲・西谷直人・手塚 洋・新田訓弘:神居古潭蛇紋岩地帯にトンネルを掘る(その2)道央自動車道嵐山トンネル,トンネルと地下,1989.5.
10)土木学会:山岳トンネルのインバート−設計・施工から維持管理まで−,トンネル・ライブラリー第25号,2013, p22-33.
11)株式会社 地層科学研究所:2次元変形応力解析ソフト2D-σマニュアル,2002-2021.
12)中野清人・西村和夫・砂金伸治;盤ぶくれ現象における地山特性とインバートの力学的効果に関する分析,トンネルと地下,2021.10.


除荷剛性に関する予備解析
2022.12.17

 亀裂を伴う岩盤における載荷試験は、繰り返し荷重(載荷−除荷)による荷重−変位曲線の包絡線の傾きから降伏関数Γを決定することができる(Schneider,1967)6)。そこで、トンネルの初期地圧状態を載荷時に、掘削を除荷および再載荷時と考えた。

 表-1 E/Γによる岩盤の分類(Schneider,1967)
区分
E/Γ
締まった岩盤
<2
開口した岩盤
2〜10
非常に開口した岩盤
10<


図-1 平板載荷:平均載荷圧P−平均変位ω
    Γ;変形係数,E;弾性係数


 図-2 除荷剛性検討モデル W=10m

 除荷剛性部を底盤下10mの領域としたモデルで、DU条件を初期条件として、Γを緩みが生じたトンネル周辺地山の変形係数、Eを底盤直下の除荷時変形係数として、E/Γ=1〜100と変化させて解析した。この結果、@除荷剛性が10×Eでは底盤隆起は40%と小さくなる,A内空変位は80%に減少する,B底盤変位、水平変位いずれも、E/Γ=10前後以上で一定となる傾向があることが分かった。以上から底盤下の除荷剛性の初期剛性に対する向上比率はE/Γ=10を採用する。


 図-3 除荷剛性(剛性アップ)による内空変位等

 一方、盤ぶくれ現象などで底盤の地山劣化が発生する場合、底盤下の剛性が1/10×Eでは天端沈下-57o、底盤変位+290oであり、底盤隆起は初期条件の5.3〜5.7倍に増大する。また、内空水平変位は上半掘削後50%増、下半掘削後25%増になる。このように、地山劣化による剛性低下の影響は、除荷剛性増加と同じ領域の剛性変化で再現できる可能性がある。


 図-4 地山劣化(剛性低下)による内空変位等

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