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地震と津波


東北地方太平洋沖地震
2017.5.20
【2011年3月11日14時46分頃発生し巨大津波を引き起こしたM9地震の地質学的総括が2012年の地質学雑誌特集計3回掲載】

 2012年5月号(第118巻第5号)地質学雑誌特集 東北地方太平洋沖地震:統合的理解に向けて(その1)「巨大地震の全容、何が分かったか」についての特集号3部作のうちの第1号で、次の掲載5論文を読んだ。
・飯尾能久・松澤 暢「東北地方太平洋沖地震の発生過程:なぜM9が発生したか?[総説]
・西村卓也「測地観測データに基づく東北日本の最近120年間の地殻変動[論説]
・池田安隆ほか「東北日本島弧−海溝系における長期的歪み蓄積過程と超巨大歪み解放イベント[総説]
・松浦充宏「東北沖超巨大地震とプレート沈み込み帯のマルチ地震サイクル」[総説]
・武藤 潤・大園真子「東日本太平洋沖地震後の余効変動解析へ向けた東北日本弧レオロジー断面[論説]

次に巻頭の飯尾論文の概要は次の通り。
 東北地方太平洋沖では、プレート境界上に地震性すべりが卓越する領域がパッチ状に分布しており(「アスペリティ」という。プレートに沈み込んだ海山等の固着域)、その周りは基本的に非地震的にすべっている(沈み込んでいる)と考えらえていたが、2011年3月の東北地方太平洋沖地震では、すべり破壊域が広範囲で、普段は非地震性すべりを起こしていると考えられていた領域でも地震すべりが発生した。

 
 図17.本震のすべり量分布解析図2例

 すべりの長さは、通常の地震では10m程度以下であるが、今回の地震では最大50mのすべりが発生したものと解析された。これまでM7~M8地震で終わっていた東北地方太平洋沖地域で、何故M9の地震が発生したかについて、次の三つのモデルを検証した。

1)高強度パッチモデル:海溝付近に強度の大きなアスペリティを仮定して、そこで大きなすべりが生じてM9になったと考える。
2)Hyper Asperity Model:小さなアスペリティが分布する領域で、より大きな破壊が生じる仕組みとして提唱された理論で、大きなアスペリティの中に小さなアスペリティがある階層モデル。
3)動的弱化モデル:すべり弱化の摩擦構成側が階層的で、摩擦発熱によって断層の間隙水圧が高くなり摩擦を劇的に低下させるモデル。(Thermal Pressurization)
 
 これらの検証の結果、M9地震を起こした鍵は、@海溝近傍においてプレート境界断層が長期間にわたって固着していたことか、あるいはA震源から海溝軸にかけての領域において地震時に動的弱化が起こったことによる、との可能性が高いことが指摘されている。

海溝型巨大地震の成因について
2017.5.20
 巨大津波の発生を海底変動地形の音波測深調査から推定した論文。2012年7月(第118巻第7号)地質学雑誌(東日本震災その2)特集 東北地方太平洋沖地震:統合的理解に向けて(その2)

・深畑幸俊ほか「2011年東北地方太平洋沖地震による絶対歪みの解放:遠地実体波インバージョン解析と動的摩擦弱化」[論説]

 東北沖大地震の破壊過程を調べるため遠地実体波インバージョン解析を行った。この結果、海溝よりの非常に大きなすべりに加え、宮城〜茨城県沖の陸側に近い領域でも比較的大きなすべりがあったと考えられる。

 特に地震開始後20〜35秒ぐらいには1978年宮城県沖地震の震源付近で顕著なモーメント解放を生じた。地震の主破壊は、長大なすべり(最大50m)、長いすべり時間(最大90秒)、比較的大きな応力降下(約10MPa)で特徴づけられ、thermal pressurizationなどの効果により断層面の摩擦強度が極端に低下したことが強く示唆される。
 
 大地震の破壊伝播は非線形性の強い効果に支配されていると考えられる。このため、海溝型大地震の発生は疑周期的発生を繰り返すものと予想されるが、今後、南海トラフ等にM9クラスの巨大地震の発生を予測することは極めて難しいと思われる。

モーメントマグニチュードMw
2020.5.7

 地震の震源での規模を表すマグニチュード(Magnitude)は、リヒター(C.F.Richter)によって定義され、「マグニチュードMは、震央から100km離れた地点の標準地震計の針の振幅A(ミクロン単位)の常用対数で表す。」とされた。実際には、観測点と震央の距離に対して100km地点の振幅に換算式を用いて補正する。

  M=Log10(Aμm)
  よって、A=1,000μm(1.0mm)のときM=3
      A=100,000μm(100mm)のときM=5

 ここでいう標準地震計は、周期0.8秒、減衰定数約1、倍率2800倍のウッド−アンダーソン型と呼ばれる地震計のことである。

 日本では通常、地震の規模は気象庁の計算で求めたマグニチュード(MまたはMj)を用いるが、Mj8を超えると正確に地震の規模を表すことが困難となるため、モーメントマグニチュード(Mw)を用いる。

  Mw=(LogMo-9.1)/1.5
    ここで地震モーメントMo=G×D×S
   G:剛性率 (一般に動剛性率G=密度×Vs^2
     G=(3〜6)×10^11dyn/cm2=(3〜6)×10^4MPa
   D:断層のずれ量
   S:震源断層の面積
   
  応力降下量(stress drop);Δσ
   Δσ=G×D/L (bar or Pa)
  ここでL:断層の長さ

  (応力単位の換算)
     1 dyn=1g×1cm/s2=1×10^(-5)N(Newton)
     1 N=1000g×100cm/s2=1×10~5dyn
   1 bar=1×10^5Pa=0.1MPa(N/m2)
     ∵1mbar=1000dyn/cm2=1×10^2Pa(N/m2)=1 hectoPa

金森博雄が求めた1923年の関東大震災のMoとΔσをSI単位に換算してみると次のようになる。
 Mo=7.6×10^27dyn・cm=7.6×10^20N・m
  よってモーメントマグニチュードはMw=7.85となる。
 応力降下量Δσ=18bar=1.8MPa

 力武らによると、東南海地震(M=8.0,1944)、南海地震(M=8.1,1946)、十勝沖地震(M=7.9,1968)などの日本列島の太平洋側に起こる巨大地震の応力降下量は30bar(3MPa)ぐらいで、鳥取地震(M=7.4,1943)、福井地震(M=7.3,1948)、新潟地震(M=7.5,1964)などの日本海地震では、応力降下量が80〜150bar(8〜15MPa)と言われていた。

(参考文献)
1)力武常次・萩原幸男著「物理地学」東海大学出版会(1976)
2) 金森博雄編「岩波講座 地球科学8 地震の物理」(1978)
3)高木秀雄著「三陸にジオパークを−未来のいのちを守るために」早稲田大学ブックレット「震災後に考える」シリーズ13(2012)

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