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青函トンネルの運用と維持管理


青函トンネルのモニタリング計測と維持補修
2022.2.2
トンネルと地下 2021年(令和3年)10月Vol.52,No.10

解説「開業33年を経た青函トンネルにおける計測の結果と評価」pp49-59.
 鉄道・運輸機構北海道新幹線建設局維持管理課課長 三谷憲司
 鉄道・運輸機構北海道新幹線建設局維持管理課課長補佐 岡田竜夫
 鉄道総合技術研究所構造物技術研究部トンネル研究室室長 野城一栄
 鉄道総合技術研究所構造物技術研究部
          トンネル研究室副主任研究員 今泉光智哲

1章 はじめに
 青函トンネルは、1964(昭和39)年に建設に着手され、幾多の困難を乗り越え1988(昭和63)年3月に当時の津軽海峡線として開業した。2016(平成28)年3月には北海道新幹線が開業し、本州〜北海道間の旅客・貨物の物流の大動脈として用いられている。
 図-1に青函トンネルの縦断図を示す。青函トンネルは53km850mの長大な延長を有するが、そのうち23km300m間が海底に位置し、また、最深部は海面下240mに位置して最大24MPaの水圧を受けており、高水圧と海からの無尽蔵の湧水を絶えず考慮しなければならない特殊な環境下にある。
 トンネル構造物(本坑、先進導坑、作業坑)の維持管理は、本トンネルを建設し多くの情報に精通している鉄道・運輸機構が主に担当し、ほかの施設の維持管理は、鉄道事業主体であるJR北海道が行っている。

 

 JR津軽海峡線竜飛海底駅見学会 1990年代編者撮影

海底駅は二つあり、図面左手が竜飛岬方、右手が吉岡海底駅と北海道・知内方(※)青函トンネルの地質は主にグリーンタフ地域の新第三系で、火山岩・凝灰岩類の訓縫層(Kunnui F.)、固結度の低い砂質岩を含み多量に湧水する黒松内層(Kuromatunai F.)、スレーキングもある硬質頁岩の八雲層(Yakumo F.)、他に植物化石を含む吉岡層(yoshioka F.)、等から構成されることで有名。・・当サイト注釈

2章 青函トンネル防災システムとその計測データ
  地震計、覆工ひずみ計、湧水量計、まとめ

3章 そのほかの計測データ
 湧水圧は湧水量のデータと共に、浸透流解析によって再現解析が出来ており青函トンネル周辺の地山の止水性が問題なく維持されていると考えられる。
 青函トンネル本坑の内空変位は計測断面の94%が絶対値3mm以下、平均1.2mmと小さく健全を示している。
 一方、作業坑・先進導坑の内空変位は、断層部,玄武岩などの貫入部や未固結部といった地山状況の悪い区間,特に掘削が難渋したF10擾乱帯と呼ばれる延長1kmの不良地山において、内空変位や路盤隆起共に20年間で25〜50mmを示し、ロックボルトや鋼管ストラットを用いた対策を行っている。

4章 おわりに
 青函トンネルは長大海底トンネルであることに鑑み、とくに、防災・避難・早期復旧の観点から防災システムが整備されている。防災システムは、地震計、覆工ひずみ計、湧水量計の3つのサブシステムに加え、維持管理に必要な計測が行われている。本稿では最新のデータをもとに改めて青函トンネルの各種計測データと、その評価について紹介した。
 最深部は海面下240mに位置して最大2.4MPaの水圧を受けるという特殊な環境下にある青函トンネルであるが、経年変化や地質条件による変状は散見されるが、適切な計測管理にもとづく維持管理により鉄道の安全な輸送に問題なく供されている。
青函トンネルの建設にあたった先人の苦労に報い、皆様に末永くトンネルを安全に使っていただけるよう、引き続き維持管理に努める所存である。



青函トンネル北海道側先進導坑の変状抑止対策

2022.7.16
トンネルと地下 2018年(平成30年)7月,Vol.49,No.7

鉄道・運輸機構北海道新幹線建設局維持管理課担当係長 柿沼 元
鉄道・運輸機構北海道新幹線建設局木古内鉄道建設所副所長 岡田竜夫
鉄道総合技術研究所構造物技術研究部トンネル主任研究員 野城一栄
           (株)エーティック技術第二部長 小原雄一

(1)変状と対策工の概要
 青函トンネルの供用にあたり、先進導坑は湧水の排水路および坑内の換気路として、重要な役割を果たしているが、吉岡先進導坑2Km070m付近の延長約30mにおいて2013(平成25)年から変状が見られ、2017(平成29)年にかけて各種調査、設計、補修工事を行った。
 本施工報告は、変状状況と変状原因、補修とその効果について述べている。


 変状個所は吉岡先進導坑で、水深約50m、土被り約240mに位置し、地山強度比が小さいことが推察されるほか、青函トンネルの排水経路の構成上、中央排水路の流量の大きい個所となっている。
 変状の状況は、水準測量と内空変位測定から、路盤隆起量は20か月で50mm(2.5mm/月)、内空変位は、16か月で25mm(1.7mm/月)と、進行速度がかなり大きいことが分かった。


 
 変状個所は新第三紀に堆積した泥岩・凝灰岩(Kn2)から成るが、断層F10の擾乱帯で地山の膨圧によりトンネルの内空が変状し、難工事となった箇所である。
 建設時の記録によると、当初馬蹄形断面で掘削されたが、大きな路盤隆起(40〜80cm/3か月)と内空変位(縮小20〜30cm/2週間程度)が発生し、円形断面で縫い返しがされている。なお、この変状個所では青函トンネルで多用された薬液注入は実施されていない。

 変状個所のボーリング調査及び試験の結果、一軸圧縮強度=1.9〜9.2(平均3.83)MPa、変形係数 約370〜1300(平均735)MPa、地山強度比=0.21〜1.67(2以下,平均0.69)、自然含水比16.8〜29.1%、浸水崩壊度(11/12が4)、スメクタイト含有率=23〜49%、CEC=37〜105meq/100gが得られた。すなわち地圧が発生しやすい条件がそろっていることが分かった。
(注1)「膨張性地山の物性が確認された」と思われる(当サイト)

 これらのことから、小さい地山強度比と、スレーキングしやすい地山に加え、中央排水路に多量に湧水が流れる環境にあることなどに起因し、変状個所周辺の地山強度が徐々に劣化したことによる塑性圧が原因で変状が生じたものと推定した。


 変状は底盤の盤ぶくれと内空変位の縮小


 標準断面図 掘削幅W=4.1m


 当初の対策工ストラット

 路盤隆起53mm,内空変位縮小25mmの時点で角形鋼管ストラット(150×150×12)による対策工を行った。


 追加対策工のロックボルト L=5m/本

 鋼管ストラットの施工後、鋼製支保工の座屈が発生したため、ゆるみ範囲3.5m程度に対する長さ5mのロックボルトで対策を行った。このゆるみ範囲は、孔内水平載荷試験の結果より推定された。
(注2)孔内水平載荷試験による変形係数は,深度3.5mまで50〜100kN/m2、深度3.5〜8mまではおおむね750〜1500kN/m2であり、ゆるみ範囲は3.5m程度、(深度5mに350kN/m2の低い値があるため、)安全側に判断して最大5m程度とされた。ここで( )当サイト追記

 ロックボルトの打設は、掘削機やビットの改良、施工法の改善を行い、1000本(5か月)に達した。この追加対策時の計測で、鋼製支保工のひずみ変化が収まり、塑性圧下の変位が抑制出来た、と報告された。

(2)数値解析による対策工の評価
 対策工の効果を評価するため「地山劣化モデル」の数値解析による検討を行い、対策工の仕様、効果の確認を行っている。

 「地山劣化モデル」は、モールの破壊法則に準じ、経年劣化で、モール円の主応力が低下し(モール円が小さくなり原点側に寄る)、かつ破壊直線のτ=C+Ntanφの内部摩擦角φを固定し、Cを低減させる(右上がりの破壊基準直線をY軸(τ軸)マイナス側に平行移動させる)モデルである。

 解析は次の手順で行った。
@ 自重を作用させ初期応力解析を行う。
A トンネル掘削解析を実施し、掘削による変位が収束した後、吹付コンクリート、鋼製支保工を設置する。解対象区間は縫い返しがされていることを考慮し、掘削時の応力解放を100%とし、コンクリートには自重を作用させる。
B 地山劣化モデルでの地山の強度を低下させる。地山の強度は指数関数で表現し、実測と合うように、経過時間に応じて強度を低下させる。
C 強度低下の途中で、ストラット、ロックボルトの要素を追加する。

 表-2 地山の解析入力値
項目
単位
入力値
単位体積重量
kN/m3
20
一軸圧縮強度
MPa
2.15
変形係数
MPa
50
初期粘着力
MPa
0.62
初期内部摩擦角
°
30
ポアソン比
0.3
(注3)変形係数が孔内載荷試験値Eb=100kN/m2の500倍で根拠が不明。全土被りの自重土圧を用いる初期応力値が大きすぎるのでは?

 トンネル支保部材の解析入力値は、吹付コンクリートおよびインバートコンクリートで、ひずみ軟化モデルを用いた。鋼製支保工、ストラットなどの鋼材についても強度に応じた非線形性を考慮した。
 ロックボルトは、ボルトと地山の付着を考慮してCable要素でモデル化し、一定以上のせん断力が作用した場合にはスライダーにより、周辺要素との滑り(付着切れ)が表現されるモデルとした(注4)。
(注4)本論文では、「ロックボルト解析入力値;付着強度20N/m、せん断剛性10MN/m2」と記載されている。ここで、ロックボルトための掘削径を、0.045mとすると、1m当たりの掘削表面積は、A=0.045π×1=0.141m2、
ロックボルトの設計ではN値=30の砂礫で、注入材と地盤の付着力τが、
τ=0.2N/o2(MN/m2)程度なので、1m当たりの付着力Fは、
F=Aτ=0.0282(MN/m)=28.2(kN/m)となる。このため、N/mは、単位違いのように思われる。また、せん断剛性GはG=E/2(1+ν)=E/2.6なので、逆算するとE=26MN/m2となり、詳しい説明あるいは出典を望みたい)

 解析の結果、破壊領域は3.5〜4m程度となり、今回のロックボルトの定着長(地山挿入長さ)は適切と評価した。
 また、地山が充分劣化した時点の、対策工施工後の内空変位増分(内空の縮小量)と、支保工のひずみ増分を、無対策、ストラットのみ、ストラット+ロックボルトの3区分でグラフに示し、ストラットに加えてロックボルトを施工することによって内空変位や支保工のひずみ増分をさらに抑制出来ることを確認した。

(以上)

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