鉄道トンネルの変状対策とその評価 |
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2022.2.2 |
トンネルと地下 2021年5月Vol.52,No.5 「変状した山岳トンネルの補強工の評価とその設計法」 (公財)鉄道総合技術研究所構造物技術研究部トンネル研究室室長 野城一栄 (公財)鉄道総合技術研究所構造物技術研究部トンネル研究室主任 研究員 嶋本敬介 1章 はじめに 山岳トンネルは地質などの条件によっては供用後に地圧の作用に より変形し、補強工を施工する場合がある。地圧の作用より変形し たトンネルの補強工として裏込め注入工、ロックボルト工、内巻き 工、インバート工などがある。これまでに実施した模型実験、数値 解析、現地計測などの結果によると、これらの補強工により、トン ネルの変形を抑制することが出来ると言えるが、その設計体系がま だ確立されていないという課題がある。 補強工の解析に関していえば、『変状トンネル対策工設計マニュ アル』においては、変状の程度(内空変位速度)に応じて補強工を 組み合わせて使うことが示されているが、これにより、どの程度の 変位抑制効果があるかは示されていない。また、マニュアル上は数 値解析法も確立されたものは示されておらず、骨組解析により簡易 的に補強効果を定量的に相対比較するまでにとどまっていた。 本稿では、補強工の設計体系を確立することを目的とし、補強工 の効果に関する計測事例を踏まえて、数値解析により各補強工の効 果を評価し、覆工補強の考え方と、覆工補強効果の簡易な予想法を 提案したので(※)、その概要を報告する。 (※)野城・嶋本・大原・水谷:供用後の変状山岳トンネルの補強 工の効果の評価と簡易な設計法に関する研究,土木学会論文集F1 (トンネル工学),Vol.77,No.1,pp.1-16,2021. 2章 補強工の効果に関する計測事例 文献調査により収集した10トンネル13か所について、補強工の種 類・仕様、年間変位速度の変化を整理した。盤ぶくれのみの事例を 除外し、補強後の変位速度(mm/年)を補強前の変位速度で除した 値を「変位速度比」と定義し、補強工の変位抑制効果を図に整理し た。この結果、補強工を組み合わせて施工した事例では変位速度比 が30%以下と効果が比較的大きい。 一方で、単独で施工した事例のうち、裏込め注入工とセントルは 変位速度比が60%以上で効果が小さくなっている。裏込め注入工は 計測結果によると変形抑制効果は明確でない。ロックボルト工はほ かの補強工と組み合わせて施工される事例が多いが、単独であって も20〜40%程度の変位速度比となり、単独でも効果が比較的現れて いる。 3章 数値解析による各種補強工の効果の評価 解析には、3次元有限差分コードFLAC3Dを用いた。トンネルの変形 はモール円における地山劣化法を用いて表現した。解析領域は水平 方向20m(半断面)、鉛直方向40mとし、トンネル延長方向に1m のみをモデル化した。境界条件はすべてりローラー支持とし、土被 り100m相当(側圧係数1.0)の初期応力状態を表現した。トンネル 断面は鉄道トンネルを対象とし、新幹線トンネル(R1=4.8m)、単線 トンネル(R1=2.38m)の2断面とした。 補強工の効果に与える影響は次式で定義される変位速度比RDにより 評価した。変位速度比RDが小さいほど補強効果が大きいことを意味 する。 RD=DBn/DAn ここで、 DAn:補強工なしの変位量(解析ステップnまで) DBn:補強工有りの変位量(解析ステップnまで) [補強工なしの変位量を1としたとき、補強工有りの変位量の比率 で1以下] 今回の解析結果によると、変形抑制を目的とするのであれば、一 般にロックボルト工が適しており、ロックボルト工だけでは対応で きない場合に、裏込め注入工と併用しつつ内巻き工やインバート付 加を適用するのが良いことがわかる。 裏込め注入工は圧ざ防止や天端の緩み拡大の防止工として基本的 な対策であるが、単独では内空変位速度低減効果が限定的である。 ロックボルト工は単独でも内空変位速度の低減効果があり、本数 を増加すると効果も増大する。 内巻工はある程度の巻き厚(10cm以上)があって変形抑制効果が 期待できるが、単独での効果は小さい。しかし、裏込め注入工と組 み合わせて用いると効果が顕在化することから、変形が大きく、大 きな変位抑制効果が必要な場合に、裏込め注入工やロックボルト工 と併用して用いることが基本となる。 4章 覆工補強効果の予測法の提案 はじめに、補強工の設計に必要な構造条件(支保構造・材質,巻 き厚不足などの欠陥,背面空洞)、地山条件(岩種・岩質,一軸圧 縮強度2MPaと8MPaも2種,変形モード4種,変状程度)、補強条件 (裏込め注入,ロックボルト,内巻き厚)のパラメータを簡素化し て設定し、3章と同様な解析を行い、変位速度比RDのデータベース を構築した。 現場での適用には、このデータを元に、自動計算プログラムを作 成し、パラメータの選定により、対策後の予測内空変位速度(mm/ 年)と変位抑制効果(%)を表示できるようにした。 5章 結論 1)裏込め注入工は、単独では変形抑制効果が限定的である。 2)ロックボルトは、単独でも内空変位速度の低減効果があり、本 数を増加すると効果も増加する。 3)内巻き工は、ある程度の巻き厚(10〜15cm)があって変形抑制 効果が期待できるが、単独での効果は小さい。しかし、裏込め注入 工と組み合わせて用いると効果が顕在化することから、変形が大き く、大きな変形抑制効果が必要な場合に、裏込め注入工やロックボ ルト工と併用して用いるのが良い。 4)実務で想定される条件を設定して、補強工の効果を予測する解 析を行い、その結果に基づき、内挿を利用して補強工の効果を予測 する自動計算プログラム手法を提案した。また、実際の変状トンネ ルの検証解析を行い、その妥当性を確認した。 |