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火成岩の最近の研究


火成岩岩石学
2020.12.1
 日本列島周辺では、火山岩のほかに島弧下の上部マントルの岩石学、塩基性深成岩、花崗岩類の研究などが行われている。
 下記にその概説を紹介する地質学会の「125周年記念特集:日本の火成岩研究の最近の進展と将来展望」では、荒井らが、日本列島などの島弧の火山岩の捕獲岩に産出するかんらん岩研究を詳細に整理し、「火山前線〜前弧域の枯渇したハルツバーガイトの存在は上部マントル・ウエッジを特徴づける.それらは高度部分溶融の融け残りである.」として考察を深めている。
 また、小沢らは、スピネルカンラン岩捕獲岩の圧力推定が現状、精度が劣る原因を述べ、改良するため「マントル物質がマグマに取り込まれてから急冷するまでの時間スケールと上昇速度を組み合わせた方法」を提案し研究を進めている。
 海野の総説によると、1990年代以降の日本人による世界のオフィオライト研究によって、例えばオマーンでは高速拡大軸で生じたオフィオライトが島弧的性質を持つことが明らかとなり、世界各地の新たに研究の進んだオフィオライトを含め海洋地殻起源とする旧理論からの飛躍が進んだと説明されている。
 中島は、日本列島の花崗岩分布と最新の年代測定を整理し、かつ日本海のオープニングの研究成果を受けて、日本列島の花崗岩の大部分は白亜紀に成長する大陸縁辺の一連の火成活動であり、玄武岩マグマの分化によって形成されたとする認識を総合的に解説している。

火成岩研究の進展と展望
 地質学雑誌 第124巻第8号「125周年記念特集:日本の火成岩研究の最近の進展と将来展望」, 2018年8月
 
(1)地質学雑誌第124卷第8号551-573ページ,:2018年8月
Jour. Geol. Soc. Japan, Vol. 124, No. 8, p. 551-573, August 2018
総説「島弧上部マントルの岩石学的性質:何が固有か?」
Petrologic characteristics of the upper mantle beneathisland arcs
荒井章司,石丸聡子  Shoji Arai and Satoko Ishimaru

[要旨]
 論文では島弧マグマ中および島弧に噴出した他のマグマ中の捕獲岩,さらに前弧域の海底に露出するかんらん岩を,島弧リソスフエアマントルを代表するものとして,その岩石学的性質(モード組成,鉱物化学組成,平衡条件,酸化還元状態)を総括した.
 特に火山前線〜前弧域の枯渇したハルツバーガイトの存在は上部マントル・ウエッジを特徴づける.それらは高度部分溶融の融け残りである.また,それらの多くは交代作用(シリカの付加および加水作用)を被っている.トレモラ閃石の存在は,低温および/または枯渇した(AIに乏しい)化学組成を示唆し,特徴的である。
 太平洋西部の火山前線〜前弧域のものは比較的高い酸素フガシティーを示し,島弧マントルを強く特徴づけている。ただし,いくつかの島弧かんらん岩は低い酸素フガシティーを示すことが注目される.特に,マントル・ウェッジ深部には強い還元的な流体が存在している。

[はじめに]
島弧は地球上の特異な変動帯であり,マグマ活動,地震活動が盛んである。それらの解明には,マントル・ウェッジと呼ばれる島弧地殻とスラブ(沈み込む海洋プレート)の間にある物質の理解が不可欠である。
かんらん岩捕獲岩はマグマにより地表にもたらされるマントル物質であり,地球深部物質に関する直接的な情報源として極めて重要である.かんらん岩捕獲岩の多くがプレート内または大陸リフト帯マグマ(主としてアルカリ玄武岩)に包有されるものであり,島弧マグマ中のかんらん岩捕獲岩は比較的まれである(Nixon,1987).そのため,必然的に島弧マントル(マントル・ウエッジ)の直接的情報は比較的乏しく,系統性を欠く.さらに,"島弧マントル物質"の認定基準は,島弧発達史の多様性を反映して下記に述べるように複雑である.様々な"島弧マントル物質"を系統的に理解する事は重要であり,本論文ではそれをめざす.島弧下最上部マントル物質はマグマ中の捕獲岩として入手可能である(例えば,Takahashi, 1986; Arai et al., 2004;Ishimaru et al,2007).マントル・ウェッジの最先端のマントル物質は海溝付近の前弧域に露出しておりやはり入手は可能である。
 スラブ直上の,すなわちマントル・ウェッジ下底部の物質は高圧〜超高圧の変成岩コンプレックス中のかんらん岩塊(岩体)として地表にもたらされるであろう(例えば,Mizukami and Walks, 2005).それらは低温高圧変成作用を受けており(例えば,Mizukami and Wallis, 2005; Araiet at, 2012),変成岩的な性質が強くマントル・ウェッジの主要部分とは性質が著しく異なるため本論文では扱わない.
ここでは基本的に島弧起源を疑う必要がない現在の島弧下のマントル物質を中心に検討する.すなわち,主として島弧に噴出したマグマ中の捕獲岩および前弧域の海底に露出するかんらん岩を対象とする。


(2)地質学雑誌第124卷第8号575-592ページ.2018年8月
Jow. Geol. Soc. Japan, Vol,124, No. 8, p. 575-592, August 2018
総 説
スピネルカンラン岩捕獲岩の圧力推定の現状,問題点,解決策・・リソスフェアーアセノスフェア境界域のダイナミクスの理解に向けて
Pressure estimation of spinel peridotite xenoliths, thestatus quo, problems, resolutions: Towards a bertterunderstanding of the lithosphere-asthenosphere boundaryregion
 小澤一仁,佐藤侑人,成田冴理 Kazuhito Ozawa, Yuto Sato and Saeri Narita

(要旨)
 アルカリ玄武岩に普遍的に含まれるスピネルカンラン岩捕獲岩の圧力推定についてレビューを行い,それがどのような理由でいかに困難であるかを共通認識として持てるように,これまで提案されてきた圧力推定方法の問題点をそれぞれの方法について指摘した.さらに,それらの問題をどのようにして解決し,充分な精度を持ったスピネルカンラン岩相の圧力推定方法を確立できるのかについての指針を示した.さらに,その推定値を検証するための方法として,マントル物質がマグマに取り込まれてから急冷するまでの時間スケールと上昇速度を組み合わせた方法を提案し,マグマの上昇に関するこれまでの研究をレビューし,有望な反応過程について考察した.


(3)地質学雑誌第124卷第8号593-601ページ,2018年8月
Jour. Geol. Soc. Japan, Vol.124, No. 8, p. 593-601,August 2018
総 説
日本人による世界のオフィオライト研究
An overview of world ophiolite studies by Japaneseresearchers
海野進 Susumu Umino
Abstract
 The last quarter-century has been a period of worldwide study of ophiolites by Japanese geologists, as described in this paper.
 The Oman Mountains expose the world largest and best preserved ophiolite that provides insights into crustal and mantle processes below a fast-spreading system and transformation of oceanic lithosphere to subarc crust and mantle.
 The Mirdita Ophiolite exposes mantle peridotitcs covered by mid-ocean ridge basalt (MORB) and arc tholeiitic to boninitic lavas, recording the transition from a spreading to a subducdon environment.
 The Luobusa Ophiolite is well-known for its ultrahigh-pressure minerals such as coesite and micro-diamond inclusions in chromite, considered to represent recycling of subducted slab deep into the mantle at >380 km depth.
 The 5-3 Ma ophiolites in the Timor and Tanimbar Islands are the world's youngest, and are considered to have formed the forearc crust and mantle that collided with and obducted onto the northern edge of the Australian continent. Volcanic rocks have geochemical characteristics that are intermediate between arc tholeiite and MORB, although the mantle peridotites are not cognate with the overlying volcanic rocks.
 Another young ophiolite (6-5 Ma) of Taitao, southern Chile, was part of the eastern limb of the Chile Ridge, which was subducted and accreted in an accretionary complex along the western coast of Chile. In spite of their midocean-ridge origin, the lavas and sheeted dikes of ophiolite have geochemical characteristics typical of arc magmas.
 Isua and Pilbara contain the world's oldest accretionary complexes consisting of superposed slices of oceanic crust that form a duplex structure, indicating the beginning of plate tectonics in the early Archean.
 Keywords: ophiolite, Oman, Mirdita,  Luobusa, Timor-Tanimbar, Taitao,Isua, Pilbara

[要旨]
 100周年以降の25年間は日本の地質学者が広く海外に活躍の場を拡げるとともに,新たな分析機器の導入や解析手法の開発により,オフィオライトを構成するマントルカンラン岩の精密な上昇プロセスやマントル中のマグマの移動・反応プロセス,マントルの流動・変形機構,マントル岩中の微小包有物の同定・分析などが勢力的に進められた.
また,フィールド地質学の分野でも,詳細な地質調査に基づいて海洋地殻の形成プロセスや始生代の海洋地殻層序の復元などが行われた.
 本小論ではこれらの日本人によって行われた海外のオフィオライト研究のうち,世界で最も規模が大きく保存状態がよいとされるオマーン,島弧下マントルが露出するミルディータ,リサイクルしたスラブ由来の超高圧鉱物を含むルオブサ,世界で最も新しいチモールとタイタオ,世界最古の付加体からなるイスアとピルバラの各オフィオライトについて紹介した.

[はじめに]
 ペンローズ会議(Anonymous,1972)はオフィオライトを「マフィックから超マフィック岩の集合体」と定義した.完全に発達したオフィオライトは下位から超マフィック複合岩体(通常はテクトナイト),ガブロ複合岩体(通常は集積組織を示し,超マフィック岩類を含む),マフィックなシート状岩脈群,マフィック火山岩(一般的には枕状溶岩)・堆積岩(チャート,頁岩の挟み,少量の石灰岩)の順で累積した一連の複合岩体からなるが,各構成要素が断層で接したり,一部を欠く,あるいは初生的に欠如している場合もある.また,オフィオライトと呼ばれている岩体の多くは「異地性」であり(Coleman,1977).構造的に下位または上位の地層と断層で接する.通例,オフィオライトは海洋リソスフエア(海洋地殻+融け残りマントル)の断片と解釈されているが,ペンローズ会議(Anonymous,1972)によるオフィオライトの定義には成因や起源は含まれない.この点は注意を要する。
 この20-30年間のオフィオライト研究の進展によって,オフィオライトの多くは島弧火成活動を含む複数の火成活動を通じて形成されたことを明らかにした(e.g.,Umino et al.,)
 したがって、「海洋リソスフエアの断片」という表現は必ずしも適切とは言えない場合がある.例えば,オマーン山脈北部のオフィオライトではマントル岩中に島弧マグマの上昇経路となった高枯渇帯や非調和的ダナイト-クロミタイト岩体があり,拡大軸下に上昇した融け残りマントル岩が部分的に島弧下マントルへ改変されている(高澤,2012; Kanke and Takazawa,2014).・・・


(4)地質学雜誌第124卷第8号603-625ペー・ジ.2018年8月
Jour. Geol. Soc. Japan, Vol. 124, No. 8,p, 603-625, August 2018
総 説 日本の花崗岩:2017年における総括
Granites of Japan: A review at 2017
中島隆 Takashi Nakajima

Abstract
 All the granitoids in the Japanese Islands are Phanerozoic and of arc-type. They are part of the Late Mesozoic Circum-Pacific granite superprovince. Most of the Japanese granitoids were formed when the Japanese Islands belonged to the Eurasian continent, as the growing front of the continent. They are mostly of I-type, and S-type granitoids are very small in amount. The origin of these granitoids is mostly partial melt of mantle-derived mafic lower crust of arc without an involvement of ancient cratons or their derivatives.
 The granitic magmatism was quite episodic. 80% of their surface exposure area is occupied with 50-130 Ma, Paleogene to Cretaceous granitoids・ In Southwest Japan, they constitute three arc-parallel granitic provinces called Ryoke, San-yo and San-in belts. A transect from the Ryoke to San-yo belt represents the hypothetical crustal
cross section of the Cretaceous Eurasian continental margin.  The Hidaka belt in Hokkaido is another example of a crustal cross section, exposing the deep Kuril arc at Miocene. On the fore-arc side of the Southwest Japan, 13-15 Ma, Middle Miocene granitic rocks are exposed sporadically but widely. The magmatism was very short-lived,supposed to be generated in an unusual tectonic setting related toback-arc opening and incipient subduction of the Philippine Sea plate. Middle Miocene and stile younger granitoids are exposed in the Izu Collision Zone.
 The Quaternary granitoids of -1 Ma are exposed at the Central Highlands in central Japan. Jurassic and Triassic granitoids occur in the Hida belt, which is the most back-arc side unit of the Japanese Islands. Paleozoic granitoids are rare. They are exposed as geologically isolated small bodies or tectonic blocks.
 Keywords: Granites, Japan, review, U-Pb ages, arc crust, Sr isotopes

[要旨]
 2017年時点での日本の花崗岩の総括を行った.日本列島の花崗岩類はすべて顕生代の造山運動で形成された島弧型花崗岩である.大部分が、日本列島がまだアジア大陸の一部だった時代に大陸の成長最前線として形成された花崗岩類で,ほとんどがIタイプ(火成岩起源:黒雲母+ホルンブレンド+単斜輝石)であり,Sタイプ花崗岩類(堆積岩起源:白雲母+ざくろ石+菫青石)は非常に少ない.
 起源物質はその大部分がマントル由来の玄武岩質下部地殻の部分溶融によると考えられ,古い大陸基盤の存在や関与は考えられない.その活動はきわめてエピソディックであり,地表露出面積では50-130 Maの白亜紀〜古第三紀の花崗岩類が全体の約8割を占め.後期中生代環太平洋花崗岩地帯の一部をなす.西南日本外帯には13-15 Maと極めて限られた期間に活動した花崗岩類が広範囲に露出しており,背弧海盆の拡大に関連した特異なテクトニクスでの活動と考えられている.ジュラ紀と三畳紀の花崗岩類は飛騨帯に見られる.古生代の花崗岩類はきわめて少ない.

[概 観]
 日本列島の地質図では,全国土の約30%が花崗岩類として塗色されている.そしてそのうち面積にして90%以上が中新世以前すなわち日本海拡大前の,日本列島がアジア大陸の一部だった頃に形成された花崗岩類である.したがって日本の花崗岩類の大部分はアジア大陸の花崗岩類と連続している.
 アジア大陸の東縁には,北はベーリング海に面するチュコ卜半島からコリマ山塊,シホテアリン,中国東北部,韓半島,華南,インドシナ半島と続く大規模な中生代後期の花崗岩地帯があり,日本の花崗岩類もその一部をなしている.この花崗岩地帯は太平洋をはさんで南北アメリカの西岸にも続いており,現在の活火山が分布する"Circum-Pacific Ringof Fire"(環太平洋火山帯)になぞらえて"Circuru-Paciftc Granitic Provinces"(環太平洋花崗岩地帯)とよぶこともある.これらは大陸緑辺において海洋プレートの沈み込みを受ける場所に発達したいわゆる太平洋型造山帯(コルディレラ型造山帯ともいう)の主要な構成物である。


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