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地震断層及び活断層研究


地震断層の摩擦係数及び内部構造について
2021.3.28
日本地質学会125周年記念特集 構造地質学の最近25年の成果と今後の展開(その2)

(1)高橋美紀・廣瀬丈洋・飯尾能久,2018.断層の強度に関する論争と学際的アプローチの必要性.
地質雑,124. 725-739. (Takahashi, M., Hirose, T. and lio, Y., 2018, A debate on the fault strength and necessity of multidisciplinary perspectives. Jour. Geol. Soc.Japan,124, 725-739.)
(要旨)
 断層にかかる応力が地震サイクルのどの段階にいるかは,滑り始めるために必要な応力(静摩擦強度)にどれだけ迫っているかで決まる.断層の強度を知ろうと,様々な手法が試みられているが,手法ごとで強度の意味合いが異なるにも関わらず直接比較されていることに,現在も続く断層強度に関する論争の根本的な原因があると思われる.
 この問題を再整理する上で,高速摩擦実験の知見が果たした役割は大きい.最近の詳細の地震波解析から,強度は空間的に一様ではないことが示されるようになった.今後,断層面上の強度の不均―とそれを起因とする応力の不均一を生じさせるメカニズムについて考察する必要が出てくるだろう.詳細の地震波解析と岩石力学からの解釈を得た時,地質学がその正しさを検証できるよう学問分野の垣根を越えた学際的な視野の必要性について訴えたい.

1.はじめに
 地震とは,地下深く大地にかかる力に岩石が耐えられなくなり破壊し滑ることによって解放されたエネルギーの一部が波となって地表を揺らす現象である.そして破壊と滑りは断層として大地に刻まれ.地震の証拠として地質学的に保存される.地震と断層の理解のためには.岩石の破壊と滑りの物理の理解を基礎に,つまり岩石力学を基礎に,地震学・地質学など様々な学問分野からの多角的なアプローチが必要である. 本論は,1960年代以降,今も論争が続く「地殻応力問題」にフォーカスする.
 一般に,地殻の上部には色々な方向を向いた多数の割れ目があって,応力が最も滑りやすい方向を持つ断層の強度に達すると破壊・すべりが発生するので,地殻の強度は断層の強度で近似されると考えられている.よって.本論では,地殻の強度に関する問題を「断層の強度問題」として論じたい.この問題,つまり,断層はByerleeが室内実験(Byerlee,1978)で示したように摩擦係数にして0.6以上の強度を持つほど強いのか,それとも地殻熱流量測定などから推定されるせいぜい0.1程度の弱いものなのかについての論争は,地震学・地質学・岩石力学のそれぞれの手法によるアプローチがされているものの,未だにこの両極端の強度の証拠の間を議論が行ったり来たりしているのである(例えば,Journal of Geophysical Research v.85, B11(1980)での特集や,Geophysical Monograph, 170, (2006)の特集参照).(以下略)

2.断層の強度と応力
3.震源パラメーターとしての強度と応力
 
地震学からのアプローチが示す応力降下量とそこから推察される初期のせん断応力τ0は、ボアホールでの応力測定や室内実験から想定される降伏強度と比較すると低く、大きなギャップがある。
4.San Andreas断層の強度問題
5.地震学からのアプローチ
6.高速摩擦実験
7.弱い断層の要因と地震発生
8.終わりに



(2)重松紀生・大谷具幸・小林健太・奥平敬元・豊島剛志,2018.陸域断層の内部構造.
地質雑,124, 759-775. (Shigematsu, N., Ohtani, T.,Kobayashi, K.,Okudaira, T. and Toyoshima, T., 2018, Architecture of onshore fault zones . Jour. Geol. Soc. Japan, 124,759-775.)
(要旨)
 断層の内部構造に関し,この25年間における主として日本地質学会員の成果を中心にまとめた.脆性断層の研究において,野島断層掘削をきっかけに内部構造のみならず,断層の水理学的性質や摩擦の研究がさかんに行われ,断層研究における大きな転機となった.より深い脆性領域の断層岩内では圧力溶解クリープと,雲母類の塑性変形が報告され,そのダメージは結晶内歪を周囲の岩石に与えることなどが明らかになった.
 また脆性一塑性遷移領域に対しては応力や歪速度の条件を地質学的の評価しようとする試みが行われ,破壊開始過程や変形の空間的不均質が明らかにされている.さらに下部地殻では斜長石や輝石の転位クリープの一方で,変形中の細粒物質の生成による変形機構遷移の重要性が指摘されている.近年,下部地殻における破壊現象の痕跡が見つかっており,地震による応力集中が一つの可能性として考えられている.その理解には今後の研究が期待される.

はじめに
 日本地質学会の100周年から,しばらくした1998年に地質学論集第50号「21世紀の構造地質学に向けて」が出版された.この中で断層の内部構造に関連した内容として,清水(1998), Takeshita et al.(1998),金川(1998),高木(1998),嶋本(1998)が総説をまとめている.その後の約20年間に,1995年の兵庫県南部地震後に野島断層,1999年の台湾集集地震後にチェルンプ断層において行われた断層掘削の成果が公表された.さらにさまざまな断層帯での研究が行われることにより断層の内部構造に関する理解が深まった.断層の内部構造に関する研究は,断層岩類の分布に留まらず,断層岩の物性,脆性一塑性遷移,下部地殻における変形など多岐にわたる.本総説はこれらのうち,陸域断層の内部構造に関する研究に関し,この約20年間の日本地質学会会員の成果を中心に,地殻浅部から下部地殻の順序で紹介する.
 なお付加体を含む海溝沈込み境界断層についても,大きな進展があったが(例えば,Chester et al.,2013; Ujiie andKimura, 2014),本総説では取り扱わない.

脆性領域:地表付近の断層帯の内部摘造
1.内部構造
 地表付近の脆性断層は固結性に乏しい断層ガウジや断層角礫から構成される.その内部構造は,断層の変位の大部分をまかない透水性の小さい断層コアと,亀裂が多く透水性が大きいダメージゾーンに分けられる(例えば,caine et al.,1996).国内における脆性断層帯の内部構造の研究は,1995年兵庫県南部地震の後に行われた野島断層掘削がひとつの契機となった(例えば,Ohtani et al., 2000).その後,断層掘削は,1999年台湾集集地震後のチェルンプ断屈細削(例えば,徐ほか,2009),アメリカサンアンドレアス断層における San Andreas Fault Observatory at Depth (SAFOD)(例えば,Bradbury et al.,2011).ニュージーランドのアルパイン断層掘削(例えば,Sutherland et al., 2012).中国における泣川地震断層掘削(WFSD)(例えば,Xue et al.,2013)と続いている.ここではまず,野島断層掘削の成果を,その後に他の断層帯の研究による成果を紹介する・・・・
2.断層破砕帯の透水構造
3.高速摩擦を示す構造
4.断層の摩擦溶融時期

脆性領域:浅部から深部への断層帯内部構造の変化
脆性から塑性領域への断層帯内部構造の変化
下部地殻の断層帯内部構造
今後の課題



活断層研究の25年
2021.3.28
日本地質学会125周年記念特集 構造地質学の最近25年の成果と今後の展開(その2)

 堤浩之・近藤久雄・石山達也・2018,我が国における活断層研究の最近25年の成果と今後の展望・地質雑,124, 741-757. CTsutsumi, H.,Kondo, H. and Isliiyama, T・,
2018, Progress of active fault studies in Japan in the past 25 years and fiiture prospects.
Jour. Geoi Soc. Japan, 124, 741-757.)
(要旨)
 本論文は,主に1990年以降に公表された論文や活断層図などを基に,日本の活断層研究の最近25年間の動向をまとめたものである.1995年の兵庫県南部地震以降,国の地震研究体制が大きく変化し,それに伴い活断層研究の体制が大きく変わった.それ以前とは比較にならない多額の予算が投入され,活断層の分布や活動履歴,地下構造に関する情報が急増し,活断層から発生する地震の長期予測に資するデータが蓄積された.
 一方,近年続発した内陸直下型被害地震は,活断層から発生する地震の規模や発生様式が多様かつ複雑であることを示しており,固有地震モデルに基づく地震の長期評価の妥当性の検証が必要である.活断層研究は,空中写真判読による地形解析と現地踏査を基礎にしながらも,近年急速に発達している宇宙測地学・物理探査・詳細地形データなどを取り入れて多面的に展開される必要がある.

はじめに
 活断層に関する研究は,最近の地質時代のテクトニクス(アクティブテクトニクス)や地震性地殻変動およびそれに伴う変動地形や地質構造の形成を理解する上で不可欠であり,地形学・構造地質学・第四紀地質学などの分野で重要な位置を占めている.それと共に,活断層から発生する大地震の場所・規模・時期などの長期予測を通じて,地震被害の軽減や防災に資するデータを提供しており,固体地球科学の中でも社会との接点が多い学問分野である.
 そのために,我が国の活断層研究は純粋に科学的な側面のみならず,社会的な要請や研究体制の制度的な変革を受けて大きく変化してきた.特に,1995年に神戸市街地直下に横たわる六甲−淡路断層帯の活動により引き起こされ,阪神淡路大震災と呼ばれる甚大な人的・物的被害を引き起こした兵庫県南部地震を契機に,活断層調査が国の地震調査研究の一環として進められるようになり,活断層の分布や活動履歴に関するデータが飛躍的に増加した.それ以前と比べて多額の調査研究費が活断層研究に投資されるようになり,20年以上が経過した.それらの調査結果は,地震調査研究推進本部が公表する主要な活断層から発生する地震の長期評価の基礎資料となり,長期評価の結果は地域の地震防災の基礎資料として広く活用されている.
 一方,2000年以降には,多くの内陸直下型大地震が発生したが,その多くは長期評価の対象外の活断層の活動によるものであったり,想定されていた規模とは異なったりしており,活断層から発生する地震の予測の課題を顕在化させた(遠田,2013).
本稿では,我が国における活断層研究の過去四半世紀の動向をレピューすると共に,現状での課題を整理し,今後の調査.研究の進展の一助としたい.

(内容)
我が国における最近25年間の活断層研究の動向
 1.研究推進体制の変化
 2.論文数から見た研究成果の概観
 3.活断層図の作成
我が国における最近25年間の活断層研究の主な成果
 1.活断層研究への新手法の導入
 2.活断層の地下構造探査と震源断層像
 (1)活断層の浅層反射法地震探査の動向と技術的な進展
 (2)浅層反射法地震探査により明らかとなった活断層の浅部構造
 (3)海域における活断層調査
 (4)活断層の地下構造探査の今後の課題
 3.最近の被害地震が示す活断層から発生する地震の規模や
  発生様式の多様性
 (1)2014年長野県北部の地震
  (2) 2011年福島県浜通りの地震
我が国の活断層研究の今後の課題



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