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上昇するヒマラヤとアジア・モンスーン


ヒマラヤのテクトニクス
2022.8.31
125周年記念特集 構造地質学の最近25年の成果と今後の展開(その1)
地質学雜誌 第123巻 第6号,353-421ページ,2017年 6月


酒井治孝・今山武志・吉田孝紀・朝日克彦,2017,ヒマラヤのテクトニクス.地質雜,123. 403-421. (Sakai, H., Imayama, T., Yoshida, K. and Asahi, K., 2017, Tectonics of the Himalayas. Jour. Geol. Soc. Japan, 123,403-421.)

はじめに
 約5000万年前のインド亜大陸とアジア大陸の衝突によって形成されたヒマラヤ山脈では,現在も大陸の衝突と沈み込みが継続中であり,ヒマラヤは大陸衝突型造山帯の研究にとって世界で最も良い対象となっている。近年,ヒマラヤ・チベットの地城でも奥地まで道路網が延び,ラサまで鉄道が引かれるようになり,その研究者の数は爆発的に増えている。それとともに,様々な分野の先端的な手法を用いた新しいデー夕や斬新なアイデアに満ちた論文が続々と発表されるようになってきた。そこで専門外の分野の研究者のために,またこれからヒマラヤを研究したいと思っている若い人達のために,「ヒマラヤのテクトニクス研究の最前線」を紹介することを目的に,研究が最も進んでいるネバールにおける研究成果を中心に本総説を執筆した。
 本論文では最初にヒマラヤの主要断層と変動地形を(朝日克彦分担),次にヒマラヤの中核を成す変成帯の形成とその上昇,およびそれに伴う花崗岩の生成について解説した(今山武志分担)。さらに変成帯が地表に出てから形成された巨大なナッブの運動と熱履歴(酒井治孝分担),および山脈形成のテクトニクスと削剥の歴史が記録された前縁盆地堆積物について解説した(吉田孝紀分担)。そして最後に,衝突以来の山脈上昇の主要なイベントを整埋し,そのメカニズムについて説明を試みた(酒井治孝分担)。
 ヒマラヤ山脈とチベット高原のテクトニクス,および両者の上昇に伴う環境とモンスーン気候の変遷については,1997年に地質学雑誌の特集号「ヒマラヤ山脈とインド洋に記録された環境変動」, 2005年に同誌特集号「ヒマラヤ−チベットの隆起とアジア・モンスーンの進化,変動」を出版してきた。ヒマラヤのテクトニクスに関心をお持ちの方は,この2つの特集号も参照して頂きたい。

(要旨) 
 現在,ヒマラヤの造山運動は次のように考えられる。ヒマラヤの4つの地質帯 (Tibetan Tethys sediments, Higher Himalaya, Lesser Himalaya, Sub-Himalaya) を画するブレート境界断層の活動が,北から南へと移動するのに伴い山脈は上昇・隆起してきた。1)大陸衝突以前に深度100kmを超えるマントルまで沈み込んだテチス海の海洋プレートがslab break-offしたことにより,約50〜35 Ma (Eocene)にチペッ卜前縁山地が急激に上昇した。2)次にインド亜大陸の北縁の上部原生界の地層が沈み込み,地下約40kmに達し中圧型の変成作用を被ったが,デラミナーション(delamination)を起こし,22〜16Ma (Early Miocene) に急激に上昇した。3)約15Ma (Middle Miocene) に地表に露出した変成帯は上昇を続け,南方のレッサーヒマラヤを構造的に覆い変成岩ナップを形成したが,その運動は11〜10Ma(Late Miocene) に停止した。4)それ以降ナップと下盤の弱変成したレッサーヒマラヤ堆積物は,その先端から北方に向け約10km/Myrの速度で冷却した。5)また運動停止後,その前縁に生じたMBT (Main boundary Thrust) に沿ってインドブレートの沈み込みが始まり,3〜2.5 Ma (Pliocene) には南方のMFT (Main Frontal Thrust) に移動し,それによってヒマラヤ前縁山地とシワリク丘陵が誕生した.
(注)地質相対年代は当サイトによる補足

Abstract
 The Himalayan range was formed and uplifted in association with the southward migration of plate boundary thrusts that separate the Himahiya into four belts. Initially, during 50-35 Ma, the Tibetan marginal mountain range vas uplifted after slab break-off of the Tethyan oceanic plate, which was subducted under the Asian continent to depths of up to 100 km.
 During the second stage at -35-25 Ma, the Mesoproterozoic sediments deposited on the northern passive margin of the Greater India were subducted and underwent moderate-pressure metamorphism at depths of -40 km.
 Subscquent to metamorphism, metamorphosed continental crust was separated from the underlying mantle by delaminalion, and its rapid exhumation and associated amphibolite facies metamorphism occurred during 22-16 Ma, Partially melted metamorphic rocks generated granitic melt that intruded both metamorphic rocks and Tibetan Tethys sediments during the Miocene. Exhumation of the metamorphic belt continued after its exposure at -15 Ma, forming an extensive metamorphic nappe covering the Lesser Mimalayan sedimcnls.
 After ceasing movement at 11-10 Ma, the Indian plate started to subduct along the Main Boundary Thrust (MBT), which was newly formed in front of the southern margin of the metamorphic nappe. At the same time, the nappe and weakly metamorphosed underlying Lesser Himalayan sediments started to cool laterally from the southern front to the root zone at a rate of -10 km/Myr. At 3-2,5 Ma, the plate boundary fault shifted to the Main Frontal Thrust (MFT) to the south of the MBT, causing rapid uplift of the marginal range of the Lesser Himalaya and the Siwalik Hills. Today, the Indian Plate is converging with the Asian Continent at the rate of 58 mm/yr, and half of this convergence is consumed by uplift of the Siwalik Hills along the MFT,
Keywords: Himalayas, collision, orogeny. inverted metamorphism, nappe, tectonics, foreland basin

(内容)
・はじめに
・ヒマラヤの主要断層と変動地形
 ネパールでは南から北へ、主前縁衝上断層MFT (Main Frontal Thrust)、主境界衝上断層MBT(Main boundary Thrust)、主中央衝上断層MCT (Main Central Thrust)が東西走向、北傾斜でほぼ平行に並び、地形・地質境界をなしている。これらの主要な衝上断層に挟まれる地帯は、サブヒマラヤ帯 (Sub-Himalaya)、レッサーヒマラヤ帯 (Lesser Himalaya)、高ヒマラヤ帯 (Higher Himalaya)に区分される。ネパールの活断層分布については、Nakata(1982)によって、明らかにされ、概ね上述の断層に沿って発達していることが知られている。その後、熊原・中田(2002)によって活断層の分布と変位様式が再検討されている。


 Geo-tectonic division of the Himalayan range

・巨大地震と活断層の関係


 Main Active Faults of Himalaya

・変成作用と変成帯の上昇
・変成帯の部分溶融と花崗岩の生成
・変成岩ナップの運動と熱履歴


 Model of northward cooling of Himalaya metamorphic nappe

・前縁盆地からヒマラヤのテクトニクスを読む
・ヒマラヤの上昇・隆起とそのメカニズム

(作業中)

ヒマラヤ山脈の形成とアジア・モンスーン気候
2022.8.31
 ヒマラヤ山脈とチベット高原のテクトニクス,および両者の上昇に伴う環
境とモンスーン気候の変遷について
(1)1997年 3月 地質学雑誌 第103巻,第3号,特集号「ヒマラヤ山脈と
インド洋に記録された環境変動」,p191-327

口 絵
・ヒマラヤ山脈に記録されたテクトニックイベ ントと環境変動 XI―XU
 酒井治孝・ 金子慶之
・インド洋の海底地形とヒマラヤ・チベット高原・・・pXV―XIV
 野村律夫・平 朝彦・原田 靖


  Geological map of Himalayan Range


     掲載論文の研究地域位置図

目次

1)インド亜大陸のラジマールヒルとマハナディ地濤帯 における古地磁気研
究と40Ar/39Ar年 代−ゴンドワナ大陸の復元− ・・・p192−202
酒井英男・ 船木 實・佐藤友紀・ 瀧上 豊・酒井治孝・広岡公夫
2)Two-step exhumation model of the Himalayan metamorphic Belt,
central Nepal・・・p203−226
Yoshiyuki Kaneko
3)A discovery of deformed oolite from metamorphic rocks of the Main
Central Thrust zone in Western Nepal・・・p227--231
Harutaka Sakai,Haruka Yamaguchi and Yoshiyuki Kaneko
4)ヒマラヤ変成岩,花崗岩の40Ar−39Ar年代における問題点・・p232--239
 瀧上 豊・ 金子慶之
5)エベレスト直下のデタッチメント断層とそのヒマラヤ造山運動におけるテ
クトニ ックな意義・・・p240--252
 酒井治孝
6)Uplift of the Himalaya and climatic change at 10Ma―Evidence from
records of carbon stable isotopes and fluvial sediments in the
Churia Group,central Nepal・・・p253--264
 Satoshi Tanaka
7)Miocene leaf-fossil assemblages of the Churia(Siwalik)Group in
Nepal and their paleoclimatic implication・・・p265--274
Masahiko Konomatsu
8)インド洋における国際深海掘削計画(ODP)の成果と展望・・p275--279
平 朝彦
9)インド洋の新生代古海洋−モンスーン発達以前の古海洋の変遷―
 ・・・p280--303
 野村律夫・瀬戸浩二・西 弘嗣・竹村厚司・岩井雅夫・本山 功・丸山俊明
10)モンスーンとインド洋の第四紀古海洋学・・・p304--312
 高橋共馬・岡田尚武
11)インド洋の古海洋変動とヒマラヤ山脈のテクトニックイベントの対応
・・・ p313-327
 西 弘嗣・酒井治孝


(2) 2005年11月 地質学雑誌 第111巻,第11号,特集号「ヒマラヤ−チ
ベットの隆起とアジア・モンスーンの進化,変動」,p631--724



口絵
・ヒマラヤ・チベット山塊の高度上昇実験によるケッペンの気候区分
の変化・・・]T],鬼頭昭雄
・古カトマンズ湖ボーリング計画・・・]]
 酒井治孝・藤井理恵・桑原義博
・完新世におけるメコンデルタの発達・・・]]T
 グエン ヴァン ラップ・タ チ キムオーン・立石雅昭・
 小林巌雄・斎藤文紀
・北中国の後期新生代風成堆積物・・・]]U
 孫 有武・強 小科・多田隆治

目次
1)日本海堆積物に記録された東アジア冬季モンスーン変動のシグナル
・・・p633--642
 池原 研・板木拓也
2)ルミネッセンス年代測定法の最近の進歩−適用年代の拡大と石英のOSL成
分について・・・p643--653
 塚本すみ子・岩田修二
3)チベット高原の隆起がアジアモンスーンに及ぼす影響に関する気候モデ
ルシミレーション・・・p654--667
 鬼頭昭雄
4)アジア・モンスーンの進化と変動−そのヒマラヤ−チベット隆起とのリ
ンケージ−・・・p668--678
 多田隆治
5)レス・湖沼堆積物記録からみたアジアモンスーンと氷期−間氷期サイクル
の関係・・・p679--692
 山田和芳・福澤仁之
6)宇宙線照射生成核種を用いた地球表層プロセスの研究・・・p693--700
  横山裕典・安瀬貴博・村澤 晃・松崎浩之
7)ヒマラヤ山脈とチベット高原の上昇プロセス−モンスーンシステムの誕
生と変動という視点から−・・・p701--716
   酒井治孝
8)ヒマラヤ・チベットの隆起とアジアの大規模デルタ:デルタの特徴と完
新世における進展・・・p717--724

(以上)

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