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堆積学及び堆積地質学


津波堆積学の最近の25年について
2021.7.11
日本地質学会125周年記念特集 堆積学・堆積地質学の日本における進展と展望から

 後藤和久・菅原大助,2021,津波堆積学の進展.地質雑,127.199-214. (Goto, K.and Sugawara, D., 2021,Progress in tsunami sedimentology. J. Geol. Soc. Japan, 127,199-214.)

(要旨)
 過去約25年で津波堆積物の研究は大きく進展し,日本各地の沿岸部の古津波履歴や規模の解明が進められてきた。一方で,2004年インド洋大津波や2011年東北地方太平洋沖地震津波等の最近の津波イベントにより形成された堆積物の調査研究も活発に行われ,堆積学的特徴や堆積過程等が検討されてきた。津波防災計画の立案にも堆積学的研究が活用されるようになった現在では,学術的研究の推進のみならず,いかに迅速に成果を社会に還元するかも重要になっている。次の25年間に我が国のいずれかの地域で巨大津波が発生する可能性は十分に考えられ,地質学的研究成果を踏まえた適切な減災対策が講じられることが望まれる。

Abstract
 During the past 25 years, sedimentary records have formed the basis for abundant research on the history and size of paleotsunamis. Recent events such as the 2004 Indian Ocean and 2011 Tohoku-oki tsunamis have provided valuable opportunities to study the sedimentary features and processes of modern tsunami deposits.
 Tsunami sedimentology is now a key part of tsunami risk assessment, and it is important to provide these scientific results to governors and to the public. The expeditious contributions of geologists to disaster mitigation efforts are of vital importance as large tsunamis may be generated along Japanese coasts over the next 25 years.
Keywords: tsunami, deposit, sedimentology, hazard, risk assessment

はじめに
 津波堆積物研究は,我が国における近年の堆積学的研究のでも進展が著しく,国際的にも注目される分野である。この研究分野は,歴史学や考古学・地展学,津波工学等と融合し新たな展開を見せつつあり,本稿では津波堆積物を取り巻く各種研究分野を含む広義の津波堆積物研究を "津波堆積学"と称する。
 学術的には津波堆積学の目的は明確であり,津波による堆積物形成過程および形成要因,認定基準を解明することである。一方,防災上の目的は「過去の津波の発生時期を特定し,かつ津波の規模や浸水範囲,あるいは波源を明らかにすること,そして,その情報をもとに将束の発生予測を行うこととなるであろう。
 この目的の中で,津波堆積学の根幹は津波堆積物の認定にあると言える。地層中から津波堆積物を正しく認定できれば,次に発生履歴や規模等の多様な学際的研究に発展できるからである。しかし,似た特徴を持つ堆積物は台風の高波浪や洪水等によっても形成されることが指摘されており(例えば,Nanayama et al, 2000),津波堆積物をどのように認定するかは,現在に至るまで大きな課題である。
 認定の困難さを克服するため,また津波堆積物から抽出可能な津波に関する情報を明らかにするため,2011年東北地方太平洋沖地震津波(以下,東北沖津波)等の最近の津波に伴う堆積現象の記載が行われ,多くの知見が得られてきた。津波直後の調査では,津波で堆積したことが自明な堆積物を確認でき,認定において解釈の余地がほとんどない津波堆積物の特徴を調べることができるからである。
 なお,津波直後に地質学的な現地調査が行われるようになった1960年チリ津波以降を現世津波堆積物,それ以前を古津波堆積物と区分することが多く(澤井,2012),本稿でもこの区分に基づき議論を行う。
 本稿では,特に現世の陸上津波堆積物に注目して認定および形成過程に関する現状の理解を整理し,防災上の利活用を含めた津波堆積学の今後の課題と方向性を述べる。

(内容)
津波堆積学の研究史
 第1期 2004年インド洋大津波以前
 第2期 2004年インド洋大津波以後
 第3期 2011年東北沖津波以降
津波堆積学の現状
 1.堆積構造
 内陸薄層化・細粒化、級化・逆級化構造、層(ユニット)構造、葉理、偽礫
 2.形成過程
 津波堆積物の形成過程は、大局的には沿岸部での津波の入射波条件(主に波高と波長)、土砂の粒径と初期分布、海底・陸上地形に依存する。潮位低下、津波遡上による土砂移動について。
 3.津波堆積物の認定
 高潮、高波によるものとの識別
津波堆積学の学術的課題
 1.どのように認定するか
 2.堆積構造と形成過程の解釈
 3.古津波履歴
 4.古津波規模
社会的役割
 1.”最大クラスの津波の考え方”
 中央防災会議が提言し検討すべきとする最大クラス地震・津波は、地震学的知見に基づく規模と津波堆積物研究から想定される規模とは異なっている。
 2.非地震性津波  火山性、海底地すべり起源津波、隕石の海洋衝突など
次の25年(の課題)
 1.津波堆積学の追及と知見の蓄積
 2.津波防災に係わる国民の意識改革
 国や地方自治体の行政の立場から、津波堆積物から直接得たい情報は、「その地点の津波高、あるいは浸水域、そして再来間隔」である。数値計算技術と連携した「事前予測型」の津波堆積物研究の効率化が求められる。


堆積相解析とシーケンス層序学
2021.7.11
日本地質学会125周年記念特集 堆積学・堆積地質学の日本における進展と展望から

(1)保柳康一,2021.砕屑性堆積物の地層観察研究に基づく堆積相解析とシーケンス層序学の日本への導入と展開.地質雑,127,215-224. (Hoyanagi, K., 2021,Introduction and progress of facies analysis and sequence stratigraphy based on the studies of observation of siliciclastic strata in Japan . J. Geol. Soc. Japan, 127, 215-224.)

(要旨)
 1980年代には堆積相解析に基づく堆積環境復元の研究は,日本においても高いレベルに達していた。さらに,シーケンス層序学研究が1990年代に盛んになることによって,地層の形成環境を時間軸に沿って動的に復元するダイナミックな地層研究がなされるようになった。また,この時期には日本人著者の堆積地質学論文の国際誌への掲載が増加した。2006年には国際堆積学会議(ISC2006)が福岡で開催され,東アジア各国はじめ国外の研究者との交流が盛んになった。分析機器の進歩による豊富なデータ,数値解析を含む実験,そして野外調査に基づく地層の詳細な観察が堆積地質学の急速な発展をもたらした。しかし,近年,社会と自然の環境変化が研究者の野外調査に困難をもたらしている。

(内容)
1.堆積相解析とシーケンス層序学の導入と普及:2000年まで
 1980年代までに堆積相解析による堆積環境復元で飛躍的な進歩を遂げた堆積学分野は、さらに1980年代後半のシーケンス層序学の登場によって新たな展開をむかえた。
 堆積相解析は、Kuenen and Migliorini(1950),Heezen and Ewing(1952)の混濁流発見と混濁流から堆積した地層の堆積相とその水理学的特徴との関係をモデル化したバウマシーケンス(Bouma sequence,Bouma,1962)の提唱は新たなパラダイムであって、堆積相解析確立につながった。日本の研究者によってもタービダイトやチャネル堆積物の復元研究が行われた。
 一方、北米では、地震探査によって取得された地層断面図(震探断面)中に認められる反射面を時間面と捉え、反射面の斜交関係から不整合を認定し、不整合で区切られた層序単元を識別する震探層序学(seismic stratigraphy:Payton ed.,1977)に、相対的海水準変動と堆積環境変遷の関係を組み入れたシーケンス層序学(sequence stratigraphy:Nummedal et al.eds,1987;Wilgus et al eds,1988)が体系化された。世界ならびに日本国内の堆積学研究者は石油開発業界などの産業界と連携して活発な研究が進められた。
2.地層情報の多様化と砕屑性堆積物研究:国際堆積学会議福岡(ISC2006)開催まで
3.2007年から2018年まで
4.まとめと今後の進展


(2)高野修・荒戸裕之,2021,石油探鉱開発技術における堆積学的手法の進展.地質雑,127,225-235.(Takano, 0. and Arato, H., 2021, Recent development of sedimentological approaches in petroleum exploration and development technology. J. Geol. Soc.Japan, 127, 225-235.)

(要旨)
 1992年頃から2017年頃の間の,本邦における「石油探鉱開発技術ほかかる堆積学関連手法の進展」を概観した。この期間における石油探鉱開発技術にかかる堆積学的手法の進展で特筆できるものとして,シーケンス層序学の導入と実適用,三次元地震探査データを用いた震探地形学の進展と適用,貯留層堆積モデルの精密化・高度化,三次元地質/貯留層モデリング技術の進展,石油システムの概念に基づく堆積盆解析の視点の拡大,非在来型炭化水素資源開発にかかる珪質岩堆積学およびメタンハイドレート貯留層分布・性状に関する研究の進展をあげることができる.

(内容)
シーケンス層序学の導入と適用
 1.シーケンス層序学の導入
 2.実フィールドへの適用事例
三次元震探地形学の進展
 1.震探地形学とは
 2.実フィールドへの適用事例
貯留層堆積モデル精度の向上
三次元地質・貯留層モデリング技術の進展
 1.石油業界における三次元地質・貯留層モデリング
 2.本邦における適用事例
石油システム要素としての貯留岩・根源岩・堆積盆解析技術の進展
非在来型炭化水素資源開発における堆積学の進展
 1.珪質岩研究の進展
 2.メタンハイドレード開発に伴う堆積学研究の進展
まとめ



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