グリーンタフ研究の経緯 |
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2022.2.18 |
地質学雑124(10)創立125周年記念特集:グリーンタフ・ルネサンス SPECIAL ISSUE Greentuff Renaissance (まえがき)抜粋 『グリーンタフは佐川(1898)に命名されて以来,層序学的研究を中心に営々と統けられてきた.その後,藤岡(1956)は,グリーンタフの研究が日本列島の新生界グリーンタフ分布地域の地史を総合的に解明するために重要であることを指摘した.実際,石油資源開発や黒鉱開発にも関連して活発な研究が展開され,膨大なデータが善積されていた.それらのデータを整理するために,1983年から1984年に総合研究A「新生代東北本州彈のジオテクトニクス」(代表者:北村信)が実施された.その結果は,北村編(1989)としてまとめられた.これが,グリーンタフ研究の一つのマイルストーンとなった.1990年代初頭までに,整理されたデータをもとに地史,テクトニクス論が展開されたが,(その後)フイールドでのデータの収集はあまりなされなくなり,研究者の数も大きく減少した.』 しかし、『日本列島形成史において日本海の拡大が重要なイベントであり,グリーンタフはその事件に密接に関連して形成されたものである.北村総研以降,グリーンタフに関したフイールドからの1次データの集積の沈滞は,日本列島形成史解明を遅らせるものと考え,あらたな研究の動きを構築するために日本地質学会年会にグリーンタフ・ルネサンスのセツシヨンを立ち上げた.』 『2008年(第115年秋田大会)以後(中略)、10年以上にわたるセッションにおいて,グリーンタフ研究を活性化し新たな日本列島形成史に寄与するための議論が展開されてきた.その中で特に重要と考えられる課題は,@年代論,Aテクトニクス,B水中火山岩類の堆積相解析に関する新たなデータの集積・解析などである. グリーンタフは水中火山岩や砕屑岩類などが混在して露出し,正確な層序を組み立てることもなかなか困難であった.それを解消するためあらたな堆積相解析などの手法が導入され,岩相層序が見直されてくるようになった. 一方,放射年代については,グリーンタフを構成している火山岩類は熱水変質を被っているため,その初生的年代を正確に確定することが難しかった.しかし,近年,放射年代測定法が改良され,確定的な年代値が得られるようになってきた. テクトニクスに関しては,新たに古地磁気のデータや応力場の復元に関わるデータが蓄積されたきた.』 (中略) 『グリーンタフに関連した日本海拡大問題は様々な仮説が提出されているが,いまだ定説はない.日本地質学会の「グリーンタフ」のセッションでの研究の展開が一層必要になっている.今後,このセッションは日本海の拡大との関係に注目しながら新たな展開を目指したい.』 文 献 1)星博幸(Hoshi,H.),2018,中新世における西南日本の時計回り回転(Miocene clockwise rotation of Southwest Japan).地質雑(Jour. Geol. Soc. Japan),124,675-691. 2)藤岡一男(Huzioka, K,), 1956, Green Tuff (緑色凝灰岩)の研究,科学(Kagaku), 26,440-446. 3)北村 信編(Kitamura, N. ed.), 1989, 新生代東北本州弧地質資料集 (全三巻) (Cenozoic Arc Terrane of Northeast Honshu) .宝文堂 (Hobundo). 4)佐川栄次郎(Sagawa, E,),1898, 20万分の1地質図幅「酒田」及び説明書(1: 200,000 Geological Map of Japan, Sakata With Explanatory Text).地質調査所(Geol. Surv. Japan), 58p. 世話人 天野一男(日本大学) |
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最近のグリーンタフ研究 |
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2021.7.11 |
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日本地質学会125周年記念特集 グリーンタフ・ルネサンス (1)鹿野和彦,2018,グリーンタフの層序学的枠組みと地質学的事象.地質雑,124,781-803. (Kano, K.,2018, Stratigraphic framework of the Green Tuff successions in Japan with reference to the associated geologic events. Jour. GeoL Soc. Japan,124,781-803.) (要旨) グリーンタフは主に本州の日本梅沿岸に沿って分布する火山岩主体の地層群で,最近明らかになってきた特徴的な岩相の時空分布に基づけば,下位から順に上部始新統〜下部漸新統(44〜28Ma),上部漸新統(28〜23Ma),下部中新統下部(23〜20Ma),下部中新統中部(20〜18Ma),下部中新統上部(18〜15.3 Ma),中部中新統下部(15.3〜12.3Ma)に区分できる. これらの層序単元は,1)陸孤内リフティング,2)リフティングと火山活動を伴う地殻のドーム状隆起,3)背弧盆の拡大とリフティングの周辺地域への伝播,4)背弧盆拡大とリフティングの急速な進展,背弧側への暖流の本格的流入,5)日本海東緑での急激なリフティングと日本海盆などにおける熱的沈降の始まり,6)フィリピン海プレートの衝突と沈みこみ,火山前線の太平洋岸への移動,短縮変形の始まりを反映している. ![]() 参考表-1.グリーンタフの層序単元とイベント(本文より)
参考表-2.グリーンタフの層序単元と地域・地層名(本文より)
(2)星博幸,2018,関東対曲構造の形成はいつ始まったか?,地質雑,124,805−817. (Hoshi,H.,2018, Kanto Syntaxis: when did it begin to grow?. Jour. Geol. Soc. Japan, 124, 805-817.) (要旨) 筆者は「関東対曲構造の形成はいつ始まったか」という問題について主に地質と古地磁気の両面から最近の研究をレビューし,現状の到遠点について整理した. 伊豆衝突帯の櫛形山地塊の地質より,伊豆孤と本州弧の術突は17Ma頃には始まりつつあったと考えられる.対曲構造の東西両翼から得られた古地磁気データは,対曲構造の形成が約17Maから15 Maまでの間のある時期に始まった可能性が高いことを示す.地質から推定される年代と古地磁気から推定される年代が整合することから,約17Maから15Maまでの間のある時期に本州弧と伊豆弧の衝突が始まり,衝突開始と同時に対曲構造の形成も始まったと考えられる. 伊豆孤衝突と対曲構造の形成開始を約15Maと考える研究者が多かったが,実際には15Maには衝突も対曲構造形成もすでに始まっていたようだ.小論では対曲構造形成に関連する検証可能な仮説についてもいくつか紹介した. ![]() (3)細井淳・中嶋健・檀原徹・岩野英樹・平田岳史・天野一男・2018.岩手県西和賀町に分布するグリーンタフのジルコンFTおよびU-Pb年代とその意味.地質雑,124,819-835. (Hosoi, J.,Nakajima, T.,Danhara, T.,Iwano, Hirata, T. and Amano, K.,2018, Zircon fission-track and U-Pb ages of the Green Tuff in Nishiwaga Town, Iwate Prefecture, and their implications. Jour. Geol. Soc, Japan, 124, 819-835.) (要旨) 岩手県西和賀町周辺に分布するグリーンタフについて,ジルコンFTおよびU-Pbダブル年代測定を実施し,本地域のグリーンタフ履序と堆積年代を再検討した.堆積年代は下位から順に,大荒沢層(20-18 Ma).大荒沢層を不整合に被覆する大石層主部(16-15.4Ma),大石層上部に相当する川尻凝灰岩部層 (15.4-43.6Ma),大石層を整合に覆う小繋沢(こつなぎざわ)層(13.6-12Ma)と推定した, この結果は,近年改訂されたグリーンタフの模式層序の年代と調和的である.本調査地域は16Ma頃にテクトニクスが変化し,急速に沈降した.この変化は15.4-13.6Ma頃に活発な珪長質火山活動と調査地域の回転運動を伴って,12Ma頃に収束した. はじめに 『東北日本には古〜新第三紀の日本海拡大期の層が広く分布している。このうち,中期中新世の海成層(女川層)より下位の地層は火山岩,火山砕屑岩を主としており,その多くが熱水変質を被り,緑色を呈していることからグリーンタフと呼ばれてきた(佐川,1898;後アルブス総合研究グループ編,1966;大沢,1968;島津,1991など).本論でも従来の慣例に従い,岩相を問わず女川層層準より下位の新生界をグリーンタフと呼ぶ. これらの地層については,古くから層序学的研究が盛んに行われ,特に北村(1959)などの研究により,本研究地域の岩手県西和賀町を含む奥羽脊梁山脈の横黒線(北上線)一帯の層序は,グリーンタフの標準層序とみなされてきた』.(注) (注)花崗岩類及び変成岩類から成る基盤岩を不整合に覆うグリータフの地層が連続して分布する数少ない地域のため) 『その後,北村編(1986)は東北日本全域にわたる新生界の層序を,岩相層序のみならず微化石や放射年代測定データを加え,年代層序の観点から再描築した。それ以降,束北日本の新生代テクトニクスは,この年代層序区分,つまり時階区分に従って考察されている(天野・佐藤,1989やSato and Amano,1991など)・・・ 以下略 ![]() 東北地方脊梁地域の地質断面図(北村信,1959) 市川浩一郎・藤田至則・島津光夫編「日本列島地質構造発達史」(1970),築地書館 |
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