今村文彦著 「逆流する津波」 |
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2024.4.16 |
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<基礎編> 第1章 津波とは? 日本及びインドネシア等の世界沿岸での過去の津波被害、東日本大震災を例にした海溝型地震津波のメカニズムのほか、1741年の渡島大島、インドネシア、グリーンランド等での火山活動や氷河崩壊に伴う津波などの解説がある。 また、津波の諸現象や津波の繰り返し押し寄せる性質について説明し、波長、波高、遡上高、浸水高、到達時間、波形勾配、水深波高比、水深波長比など海岸工学上の津波の特性を表す指標や用語についてまとめている。 「津波強度」(表1.2)は、津波の大きさと建物、漁船、防潮林、沿岸集落などの被害に着目した指標として提案されている(首藤,1993)。これは 6段階での津波強度を2のべき乗の津波高に関係づける。この関係より、どの程度の津波がどのような被害を出すかの目安を与えている。 表1.2 津波強度と代表的な被害(首藤,1993)
第2章 河川津波のメカニズム 河川津波は,先端部での水位差が高くなり2タイプの段波となって遡上する。 ・砕波段波〜先端部が激しく崩れながら遡上する。津波先端部の高さはほとんど変わらない。 ・波状性段波〜先端部が数十メートルほどの波長をもつ複数の波に分かれる。非常に安定した波であるためなかなか砕波に至らず,したがって津波のエネルギーはあまり減衰しない。段波の波高は,2倍程度まで急激に高くなる場合がある。 また、河川津波との実例として次の例が、震災前のハザードマップ、被災状況写真、および再現シミュレーションを用いて詳しく説明されている。 ・東日本地震津波の被災メカニズム例;新北上川河口付近(大川小学校) ・東日本地震津波の多賀城市都市型河川津波 ・黒い津波の実態;海底に沈殿していたヘドロを含む海水(密度1130g/リットル)であった。大規模な津波は生存者も重い「津波肺」の苦しみを与えた。 <応用編> 第3章 河川津波による被害 ・津波災害の詳細について解説し、なぜ繰り返し多大な被害が繰り返されるかを考察している。津波は地震等の原因によって発生する災害であり、(チリ地震津波のような遠地地震や日本海溝付近の地震による津波の場合)地震発生から数時間後に来襲するが多いという時間的余裕があるにかかわらず、避難が遅れ犠牲者を出す。これには、大きく二つの理由があります。 (理由その1)まず揺れたからといって津波が常に発生するとは限らず、津波を懸念する中で、どうしても沿岸の様子を見る、または[家族の動向や津波の発生や規模等の]情報を得るなどをしている間に[避難]行動が遅れる傾向があります。[ ]当サイト注 (理由その2)津波の威力やパワーを甘く考えてしまう傾向がある。ひざ下ぐらいの水深であれば逃げ切れるのではないか?自分の所には強い津波は来ないのではないか?と思いがちです。(「正常性バイアス」という) 水槽による水理実験では、水深30cm程度の流れであっても、流れの速さが毎秒2m[2m/s×60×60=7200m/h,時速約7km.軽いランニングや自転車の低速走行の速さ]であると、大人であっても足がすくわれ倒れてしまう結果が得られる。津波より威力の小さな高潮の場合であるが、1959年(昭和34年)の伊勢湾台風が引き起こした高潮から逃げてきた人たちは、「避難できる水の深さは成人男性では60〜80cm、成人女性では40〜60cm、小学校5・6年の児童では20〜30cm」と話しています。津波は高潮より威力が大きいので、さらに浅い水深の流れで危険性が高くなる。 さらに、大きな津波になると建物が破壊され、その残骸(漂流物)が流される。この残骸により人々は傷つけられ、あるいは水面を埋め尽くした残骸により水面上に顔を出すことが出来ず溺れてしまう危険もある。 ・女川町などの複合災害事例;津波と液状化、漂流物などが連鎖し複合的な災害となった状況が解説されている。 第4章 津波の観測と予測 津波の観測と予測の重要性が記されている。観測システムは、沿岸部での潮位計や波浪計、やや沖合でのGPS設置波浪計、沖合海溝付近の海底津波計(S-net)がある。特にS-netは、東日本大震災後、房総沖から釧路沖の日本海溝までの2000kmの沖合に150個の地震・津波計を付けた海底ケーブル(約5700km)が蛇行して敷設された。このシステムは日本海溝海底地震津波観測網と呼ばれ6か所の地上局でこのデータを収集する。現行のシステムより海域地震動を最大で30秒、津波発生を20分早く検知することが期待される。 津波の予測では今後危惧される南海トラフ地震津波のシミュレーション等が紹介されている。 <対策編> 第5章 津波からの防災・減災、そして身を守る 東日本地震津波ほかの津波襲来地域での津波防災と課題,安全な沿岸地域づくりの事例が挙げられている。 また、巻末の付録に、東日本大震災の地域に加え奥尻島、東京、大阪、和歌山県における津波防災伝承施設の簡潔な解説表および参考・引用文献が添えられている。 |
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目次と内容 |
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【目次】 第1章 津波とは? 1.1 歴史に残された津波 1.2 国際語になった「Tsunami」(津波) 1.3 津波の発生メカニズム 1.4 2018年インドネシアで発生した津波の事例 1.5 国境を越えて伝わる津波 −太平洋津波警報センターの設立 コラム@ エイプリルフールに発生した津波 1.6 深海から浅海に伝わる津波 −津波の速さ 1.7 津波はなぜ大きくなるのか? 1.8 どのような地形と現象で津波は大きくなるのか? 1.9 津波は何度も押し寄せる コラムA 稲むらの火 濱口悟陵の偉業をしのぶ 1.10 陸上と河川の遡上とは? 1.11 津波の規模の尺度は? −津波強度 1.12 津波の特性を表す指標や用語(波と津波諸元) 第2章 河川津波のメカニズム 2.1 河川津波とは? 2.2 河川を遡上する津波の代表例 2.3 東日本大震災:新北上川河口付近 −大川小学校への影響 2.4 東日本大震災:多賀城市砂押川 −都市型河川津波の恐怖 2.5 黒い津波の実態 <応用編> 第3章 河川津波による被害 3.1 陸と海への影響と被害 3.2 津波による犠牲がなぜ繰り返されるのか? 3.3 建物等への被害 3.4 津波による流体力と漂流物 3.5 越流による被害 −裏側の洗堀 3.6 河口部での被害 3.7 蛇行部での被害 3.8 複合災害と連鎖 −女川町での事例 第4章 津波の観測と予測 4.1 予報・予測の重要性 4.2 数値シミュレーションによる津波予測 4.3 予測結果の利用 4.4 南海トラフ巨大地震津波で想定される脅威 4.5 陸上での浸水を予測する 4.6 土砂移動とその予測シミュレーション <対策編> 第5章 津波からの防災・減災、そして身を守る 5.1 津波に対する防災対策 5.2 安全に避難するまでのプロセス コラムB;8つの生きる力−災害を生き抜くために必要な力とは? 5.3 危険を知らせる情報−いかに危険性を察知できるか? コラムC;インド洋大津波から命を救った少女の話 5.4 津波からの生還例−高速道路(高台)への避難 5.5 車避難は必要か? 5.6 そのとき、逃げ場は? −認知マップの修正と活用 5.7 オレンジフラッグの活動 5.8 津波緊急避難ビルについて 5.9 防災施設である防潮堤・防波堤の役割 5.10 安全な沿岸地域づくりを −「津波防災地域づくりに関する法律」と地域的な備え 5.11 今できる備えとは何か?−まずは避難訓練をしてみませんか? 5.12 震災伝承の取り組み コラムD;津波ものがたり−じぶん防災プロジェクト 付録 ・(全国の)津波に関する伝承施設や博物館 ・参考・引用文献,索引 |
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