自重変形解析手法(ALID) |
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2024.9.23改 |
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照査指針・解説 平成24年2月 国交省水 管理・国土保全局治水課は堤防の耐震性 能照査は”静的な”耐震性能照査を基本 的な照査法としている。 1)概要 土砂主体の各地層とその上に構築する盛土主体の堤防を有限要素集合(メ ッシュ)にモデル化し、レベル2地震の水平設計震度(地震加速度/重力加 速度)に対して、液状化の懸念される地層の剛性低下率を、研究者の公表論 文の提案方法で求め、この低下剛性を用いて、静的な有限要素法を行う方法 である。 本方法はALID(Analysis of liquefaction-induced displacement)とも 呼ばれ、液状化に伴う堤防の沈下メカニズムを、地震によって液状化した地 層は剛性が著しく低下するとともに、盛土の自重によって沈下するものと想 定している。したがって、解析では初期応力解析後、液状化に伴う剛性低下 させた状態を線形の静的な有限要素法により評価している。 ・液状化後の剛性の低下率は、液状化に対する安全率FLと液状化強度の関数 として与えられ、地震前のN値(変形係数)および物理特性(粒度分布)が 分かれば沈下量を求めることが出来る。 ![]() 図-1 海岸堤防 ALID変形図の例 左が海,青い破線が潮位 ![]() 図-2 同上 変位ベクトル図の例 ![]() 図-3 同上 鉛直変位コンタ図の例 残留沈下量は天端で約40cm ・地盤の初期剛性は、不かく乱採取試料の土質力学試験、あるいは調査ボー リングと同時に行われる標準貫入試験のN値から推定する。一般には、入手 しやすいN値から静弾性係数(もしくは変形係数という)を、道路橋示方書 に採用されている式:E=4×700×N値(kN/m2)として求め、弾性理論から 剛性率G(せん断弾性係数)を求めて、入力値とする ・液状化判定によって地盤内のFLの分布を求め、液状化すると判定された土 層については、FLと細粒分含有率から液状化後の低下した剛性を求める。非 液状化層の剛性も低下させる。 ・非液状化地層および地下水位以上の盛土提体の剛性低下率は、液状化層の 剛性低下率の1/10〜1/40(すなわち液状化層の剛性低下率が0.01倍であった 場合は0.1倍)とする研究がある。また、別の方法として、地下水位以上の 非液状化層を弾塑性モデルとする考え方がある。この場合、要素内の応力が 破壊則に従い、ある応力を超えると一気に変形・沈下が進む。 ![]() 図-4 液状化層の低下剛性の例 岩盤が浅く一様ではない ・地盤の剛性が低下したことによって盛土が沈下するものと考え、地盤剛性 が低下した状態で堤防沈下量を静的FEMによって求め、これを地震による沈 下量とする。 ・地盤の剛性低下によって生じる盛土の沈下を比較的簡便に計算する方法で ある。 ・解析結果に及ぼす影響要因としては、地震前の土の剛性と剛性低下率が極 めて重要となる。 【重要な原著論文リンク】 安田 進ほか(2016)液状化に伴う残留変形の静的評価法,日本地震 工学会論文集,第16巻,第10号,pp.31-50. 2)留意点 この手法は動的照査法ほどではないが、設定すべきパラメータも多く、ま た試験結果から直接定まらないパラメータも存在し、入力パラメータの設定 法によっては結果が大きく変わる可能性がある。 したがって、解析結果の信頼性を向上させるには、解析過程で、解析コー ド、パラメータの設定方法を細かく記載しておく必要がある。Excel等の一 覧表で設計条件、入力値と根拠を詳細に記載しておき、解析結果に過大や過 小があれば、変更を検討し再解析する。 ・地下水位下の地層が液状化するため、地下水データあるいは潮位データの 評価が重要となる。 表-1 耐震性能照査静的解析(ALID)に必要な試験値・定数
う場合に要する. せん断弾性係数(剛性率ともいう)Gは,ボーリングにより採取された不 かく乱試料から整形した供試体の力学試験による静弾性係数Es×α,あるい はN値から推測される平板載荷試験相当の静弾性係数Ep=α×700N(道路橋 示方書ではα=4)から,弾性理論式 G=E/2(1+ν)で求めることも行 われている. ※Gの定義;せん断応力τ=G×せん断ひずみγ |
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動的解析手法(FLIP) |
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2024.9.23改 |
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1)概要 液状化に伴う地盤および構造物の挙動を忠実にモデル化した手法である。FLIPでは任意方向の単純せん断を仮定した。せん断応力とせん断ひずみ関係のモデル(マルチスプリングモデル)に、塑性せん断ひずみおよびせん断応力比の関数として与える過剰間隙水圧の発生モデルを組み合わせた方法をとっている。地震時の過剰間隙水圧の発生、剛性の低下を考慮し、地盤の変形を時刻歴で計算することが出来る。 ![]() 図-5 堤防のFLIP変形図の例 ・解析底面において入力地震動を設定する。小さな時間ステップ毎に変位や土の応力、過剰間隙水圧、ひずみ、強度、剛性などが地盤内の全ての地点において求まる。 ![]() 図-6 レベル2-1地震波の基盤面への引き戻し例 ・地震中に生じる土の強度・剛性の低下、及び地盤に作用する地震慣性力による地盤の変形が計算される。 ・原理的に実際の現象を最も忠実に表現しうる方法である。計算に用いられる土のモデルは様々な土の挙動を表現しうるが、その反面、比較的多くのパラメータを決める必要がある。 ・パラメータを決めるためには標準貫入試験以外のいくつかの試験が必要であり、また試験だけでは決まらないパラメータがあるので、パラメータ設定にはある程度の経験が必要である。これが解析者によって結果が異なることの原因となる。 ・その他、減衰や境界条件の設定によっても結果が異なるが、これらの決定に際しては、物理現象を十分考慮して決定する必要がある。 表-2 FLIPの解析で指定すべき地盤定数
(引用)H14河川堤防の地震時変形の解析手法,(財)国土技術研究センター,p4-3-1〜11. 2)留意点 この手法は一般的に詳細な地盤調査(注)が必要であり、設定すべきパラメータも多く、また試験結果から直接定まらないパラメータも存在し、入力パラメータの設定法により結果が大きく変わる可能性がある。解析結果の信頼性を向上させるには、解析手法に応じた詳細な地盤調査が必要となる。 (注)砂質土の振動三軸試験などをいう。しかし、砂質土や礫を含む砂質土は、ボーリング孔における三重管サンプリング等、高度な不かく乱試料採取技術が不可欠である。 ・弾性係数、剛性率の決定には、ALIDと同様に十分な経験を持った技術者の判断が必要な場合がある。 ・解析技術が高度なため、十分な地盤評価技術を有しない技術者が担当する場合があり、解析者によって結果が大きくばらつく要因にもなっている。 ・一般に静的解析のALIDを先行して行い、この結果の信憑性が低い場合、あるいは規模の大きな軟弱地盤対策工が予想される場合、または柔構造樋門(じゅうこうぞうひもん)設計[堤防内部を横断する排水路で水路縦断方向の残留沈下対策を要する]が必要となる場合、さらに精度高い耐震性能照査を行うことを目的にFLIPが選択されることがある。 |
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