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南海トラフ地震津波


南海トラフ地震津波の被害予想と防災・減災
2020.5.4
秋山充良・石橋寛樹著「南海トラフ地震 その防災と減災を考え
る」東京安全研究所・都市の安全と環境シリーズ5,2019年3月,初
版発行,早稲田大学出版部

 今後30年間に70〜80%の確率で起こると予想される南海トラフ地
震。その大地震と大津波による被害から人々を守る方策を考え、防
災と減災についての提案をしている。本書の概要は次のようであ
る。
1章 切迫する南海トラフ地震
 はじめに、マグニチュード8〜9と推定される南海トラフ地震の発
生メカニズムと再来周期(100年〜150年)について述べ、2018年1月
1日時点で発生確率は70〜80%とされ、切迫性は日々増しているとし
ている。
 次いで内閣府「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による予想
し得る最大規模の地震と津波の解析結果について解説している。
 この検討会は強震断層域を駿河湾から日向灘までの6ブロックとし
た。強震断層の平均応力低下量を、2011年の既知のマグニチュード8
クラスの海溝型地震の平均値3MPaであったが、これより大きい4MPa
とした。解析の結果、静岡県や高知県など10県で震度7が想定され
る。
 また、津波における断層の平均応力低下量を東北地方太平洋沖地
震より大きい3MPaとして、津波の最高水位は高知県で34.4m、静岡
県や三重県でも25m級が襲来すると予想した。
 これらをもとに東日本大震災をはるかに超える被害想定額を算出
し、南海トラフ地震に係わる特措法の内容や高知県の取り組みが紹
介されている。

2章 過去の大震災とその教訓
 加速度応答スペクトル等から見た1995年の阪神淡路、2003年の三
陸南地震、2004年の新潟中越地震、2011年の東北地方太平洋沖地
震、2016年の熊本地震の被害状況と教訓が整理されている。

3章 インフラ構造物の現状・復興の限界
 特に道路橋や鉄道橋を例として、インフラ構造物の老朽化と古い
耐震基準による既存不適格構造物の維持管理と補修・補強の現状と
課題について述べられている。

4章 南海トラフ地震に備える
 南海トラフ地震のように地震想定被害が非常に大きい場合、減災
の考え方が重要であり、「リスク」と「レジリエンス」の指標が重
要である。「リスク」は「災害発生確率」×「結果(損失コスト
等)」で表せる。「レジリエンス」は災害後の「機能性」や「回復
性」を表す指標であり、さらに「サスナビリティ(持続可能性)」
が重要となり、復興までを考慮した事前対策をどこまで行うか議論
が必要となる。

5章 南海トラフ地震を想定した確率論的解析シミュレーション
 委員会の最悪の被害想定に対して、確率論を取り入れた解析シミ
ュレーションによって強震動と津波を連続的に考えた解析を行い、
三重県尾鷲市と高知県黒潮町を例として、複数の道路ネットワーク
の被害想定を行った。
 解析結果、津波高の確率分布は、委員会報告の1/3〜1/2と低く、
尾鷲市で4〜8m、黒潮町では4〜16mがピーク値であることを示して
いる。
 被害想定には「リスク」と「レジリエンス」の両指標で評価し、
経済性を重視する場合はリスク、復旧・復興活動に重点を置き、道
路ネットワークの機能を優先する場合はレジリエンスに着目して対
策優先度を同定することが可能であることを示した。


高知県黒潮町と三重県尾鷲市


津波伝播解析の一例

(以上)

南海トラフ地震津波による被害軽減策(土木学会)
2020.05.06
【土木学会誌 第105巻第1号 2020年(令和2年)1月】
特集 巨大地震・自然災害に備える−災害時情報の収集・伝達と早期復旧への活用−

本特集では、次の紹介を行っている。
1)土木学会「レジリエンス確保に関する技術検討委員会」の報告書の概要
2)内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期の課題「国家レジリエンス(防災・減災)強化」(衛星コンステレーション)等の概要
3)四国地方整備局の取り組みや静岡県総合防災訓練及び大阪府地震防災アクションプラン
4)災害時情報の収集・伝達技術システムの構築(Nerve Net,SIP4D)
5)民間企業における事業継続計画(BCP)の取り組み状況
6)都市丸ごとシミュレーション技術(理化学研究所)の活用
7)参考文献

1)では、南海トラフ地震津波による被害を「資産被害(建築物等、内閣府試算)170兆円」、「経済被害(道路・港湾交通破断、生産施設毀損による)1240兆円」、「財政的被害(税収減)131兆円」、「人的被害(死者32万3千人、内閣府試算)」に分けて想定した。被害軽減推計においては「南海トラフ地震対策」を「道路対策」、「海岸堤防対策」、「港湾漁港耐震強化対策」、「建築物対策」の枠組みを定めた。南海トラフ地震に対する総合対策による道路網と資産毀損に伴う被害の軽減効果を試算し、海岸堤防L2耐震化(ランクS)+道路強靭化+建築物新基準耐震化+港湾漁港耐震強化(ランクS)の組み合わせが最も経済被害が縮小し(509兆円減)、総死者数14万人減(ソフト対策強化で23万人減)となり、この場合の総事業費が38兆円以上と推計した。ただし、これらの対策による被害軽減は4割程度で、残る6割の被害を縮小させ、国難・南海トラフ地震を乗り越えるには地方への高規格交通ネットワーク強化を含めた国土分散化・強靭化への投資推進が求められるとした。

【土木学会誌 第100巻第7号 2015年(平成27年)7月】
特集 巨大地震に備える−想定される南海トラフ巨大地震とその対策−

1)南海トラフ巨大地震研究の最前線−減災科学の勧め−(名古屋大学・金田義行)
 南海トラフ地震・津波は、およそ1年で2〜6cm沈み込むフィリピン海プレートによるもので、最大マグニチュードM9が想定される。南海トラフ地震・津波は歴史的に100年〜200年で繰り返しているが、各地震・津波規模に「バラツキ」と「多様性」があり考慮すべき点である。
 津波堆積物調査は、湖沼内に堆積した津波堆積物を明らかにしたが、堆積物の層厚から津波規模を推定することは難しく、今後は平野における広域な津波痕跡調査が必要である。
 最新の技術として、地球深部掘削船「ちきゅう」による南海トラフ震源域の深海掘削、地震津波観測・監視システムの整備、大型計算機「京コンピュータ」を活用した先端的な巨大地震及び津波シミュレーションの高度化が挙げられる。


 1)図1 南海トラフの海底地形と震源域


 1)図2 南海トラフ歴史地震(発生周期100年〜200年)

2)南海トラフ巨大地震・津波の被害想定について(内閣府政策統括官)
 2011年3月の東北地方太平洋沖地震津波の被害の甚大さを受けて、「あらゆる可能性を考慮した最大クラス地震・津波」を想定し中央防災会議の下に設けられた「南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ」による被害想定及び対策検討の最終報告(2013年5月)の概要が述べられている。
 被害想定の結果、津波平均高さは10m以上が21市町村、津波浸水面積は東北地方太平洋沖地震時の1.8倍の約1000km2に及び、震度6弱〜7が広範に発生する。資産被害と経済活動への影響の被害額は、それぞれ地震発生源が基本ケースで約100兆円および46兆円、陸側の場合で最大170兆円および68兆円と試算し、死者は約8万人〜32万人と想定した。
 政府はこの被害想定を踏まえて2014年3月、特措法を制定し、基本計画策定を行い、関係機関が一体となって地震防災対策を推進している。


 2)図1 中央防災会議2013年5月,南海トラフ巨大地震による最大クラスの地震・津波の考え方


 2)図2 中央防災会議2013年5月,南海トラフ巨大津波予測例
(赤点:津波予想高10〜20m)

 内閣府 南海トラフ地震津波対策サイト

 H24.8.29南海トラフ巨大地震による津波高震度分布等

次に関係機関の対策概要が述べられている。

3)道路における地震対策と技術開発(国交省道路局)
4)巨大地震に備える−鉄道の耐震設計と危機耐性−(鉄道総合技研)
5)港湾における地震対策(港湾空港技研)
6)大規模災害発生時における電力事業継続への取組み(中部電力)
7)建築における長周期地震動対策(建築研究所)
8)石油コンビナート地区の強靭化について(資源エネルギー庁)
9)高知県における南海トラフ地震対策
10)参考文献

【課題】私見ですが東日本大震災の被災経験からは、次の点が課題であるように思われます。

1)市井・産業電源の確保、通信中継局・津波地震観測機器・警報装置・津波保全施設(防潮水門や陸閘等)の非常時電源確保と性能向上について
2)原子力発電所、原子力関連施設の耐震化・耐津波強靭化
3)港湾漁港地域の津波避難路、避難タワー等の避難所整備状況
4)港湾・漁港・海岸施設および道路ネットワークの強靭化計画と維持管理のライフサイクルコスト(地震発生周期)を考慮した具体の総合計画
5)地球規模の広範な細菌感染(新型コロナ、インフルエンザウィルス等のパンデミック)の対策も視野に入れた国土分散に関する首都機能分散、複数の副首都機能分散の具体的な計画(政策)。


2020.5.6 新型コロナウィルス感染対策自粛下にて

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