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東日本大震災復興10年(その1)


土木学会誌特集号 東日本大震災 復興の10年
2021.5.31
【土木学会誌 第106巻第3号 2021年(令和3年)3月】
「特別企画 復興の10年」

 2011年3月に発生した東日本大震災から10年を受けて次の特集記
事が掲載された。

1.特別企画 復興の10年−土木学会・日本建築学会共同編集

 防潮堤や土地のかさ上げを計画した土木分野と復興住宅や地域再
生を担った建築分野の専門家の方々の座談会によって、主にハード
分野の復興内容と問題点が話された。

1)復興の10年間の歩み[座談会メンバー]家田 仁,石川幹子,
竹脇 出
・建築・土木・都市計画の専門家として復興を支援
・学会の役割。災害の歴史から得た教訓を生かす
 土木学会の総合調査団の調査による提言のうち、大きな進展と言
えるのが津波防災にL1/L2(注)の概念を導入したことで、
「津波防災地域づくり法」として結実した。[(注)当サイト注
釈;津波の規模と発生頻度で分類した]
 今なら南海トラフ地震や首都圏直下地震などについては被害想定
に基づき事前復興に投入すべき予算と被災後にかかる予算を分けて
考えることができる。しかし、歴史的に見て大地震が起こる確率が
低い地域までが事前復興へ動きだしたら経済が追い付かない。発災
確率を考慮しつついかにしてリスクと向き合うかが今後の課題。
・震災の知見を生かした「事前復興」のあり方を問う
・インフラの概念を超えた将来のまちづくりビジョンを
 事前復興が重要なのは切迫した対応が求められる被災後ではな
く、事前に将来のまちづくりについて十分な議論をして、空間設計
に落とし込めると一番よい。
 そういうビジョンが東北にはなかったし、気候変動・直下型地
震・コロナと危機に瀕している巨大な首都にも残念ながらない。
 原発事故も含めて、次の大災害に対して日本はどういうビジョン
をまとめ成し遂げるかが学会の責務ではないか。

2)建築と土木の復興 [座談会メンバー]貝島桃代,佐藤愼司,
内藤 廣,三宅 諭
・防潮堤における土木と建築のクロスオーバー
 岩手県が全般的に自治体の判断にゆだねた防潮堤計画を取ったの
に対し、宮城県は県全体で足並みをそろえた。これは、海岸法で海
岸管理者は都道府県と定められており、またエリヤによって経験や
地形が異なっているためだ。
 漁業の町で結束の強い地域の場合は、150年程度に一度生ずる頻
度のレベル1津波に対するような高い防潮堤を作らず、集落全体を
高台移転させ、低地は漁業作業域とする方針が早期に打ち出されて
復興が行われた。しかし、多くは地域ではまとまらず、県や国が計
画を代行することになり、マニュアル的な復興とならざるを得なか
ったとする反省がある。
・高台移転事業・区画整理に見る建築・土木・都市計画の関連性
 政策的には、防潮堤・高台移転事業・区画整理を三種の神器のよ
うに組み合わせ、復興計画における防潮堤寄りの土木が主体とな
り、人々の暮らしに近い建築は部外者にされた。また、これらを有
機的にまとめるべき「都市計画」が十分でなく、ハード偏重だっ
た。
・技術を手の内に取り戻す
 次の災害時の復興に向けて、各専門技術をまとめる包括性・統合
性、住民が使える身近な技術が必要だ。
・他分野との協働から生まれるもの
 三陸の復興でいえば、建築はコミュニテーの離散をリスクと捉
え、土木は自然災害に対する危険度をリスクとみなし、ゴールの設
定に乖離があった。
 土木学会では、この反省から、減災アセスメント委員会を立ち上
げ防潮堤の設計理念を見直し、将来の人口減少や自治体の競争力ま
で見据えた学術的な検討をはじめ、南海トラフ地震に生かそうとし
ている。
 東日本大震災で予想を超えたトラブルにあったことを教訓として
次に生かしたい。例えば、停電。電力がないと何もできない。電力
への依存度は非常に高く、南海トラフ地震では、見通しが脆弱な印
象がある。
 津波、地震、洪水だけにフォーカスするのではなく、ほかの想定
外の大きな災害、火山噴火や深層崩壊(大規模な土砂災害)なども
考えておきたい。その意味で普段から他分野と交流し災害に対する
知識を深めておくべき。

3)危機の中の領域史−小さなインフラを見直す多段階的なアプ
ローチ−

[座談会メンバー]伊藤 毅、北河大次郎
・1945年の戦後復興、1959年の伊勢湾台風、1995年の阪神・淡路大
震災、1986年のチェリノブイリ原発事故など、戦後の日本、世界の
歴史の中での復興の10年を見直す必要がある。
・東日本大震災特有の問題として、@津波災害が三陸沖では100年
のインターバルで発生してきたが、南の沿岸、福島原発が被災した
地域などでは1000年のインターバルで津波災害が生じていた。Aこ
の震災では、東日本沿岸全域といえるような広範囲な地域が一挙に
被災した。B原発事故やCOVID-19のような目に見えない災害が同時
発生したことがあげられる。
・100年間の防備は可能であるが、1000年後のことを予想して備え
ることは不可能である。このため、広い範囲を長い時間の中で見直
す試みが大事。例えば東日本大震災で高台にあるあちこちの神社が
残ったが、そこの高台に登れば助かるということがあった。このよ
うな小さなインフラを、領域と長期持続の概念で、都市工学として
考えていかねばならない。
・戦後、GHQに河川総合開発の指導を受けた頃、日本で行われてい
た川の変化を見つつ整備する河川対策のように、ゼロイチではない
多段階的なアプローチを、建築、土木、都市工学が一緒になって進
めていくことを期待する。

4)土木の復興 今後に生かす東日本大震災復興の反省点−構
想・計画・実施の各局面−

[座談会メンバー]奥村 誠、岸井隆幸、中井検裕、柄谷友香
 主に岩手、宮城県内の復興の流れについて話し合われた。
・土木系・建築系の諸学会が共同で緊急声明を発表
・財政支援がなかなか決まらず復興方針を示せないもどかしさ
 5月に第一次補正予算が決まり国土交通省の直轄調査が6月に始ま
った。8月末にはL1/L2の議論がオーソライズされたが、11月
に第三次補正予算が決まり、復興交付金などの制度が見えて、よう
やく地元へ具体的な復興の説明ができるようになった。
・区画整理事業をより機動的に使えるよう検討を
 現行の区画整理では換地照応の原則など手続きに制約が多いた
め、次の災害に備えて制度を煮詰めておく(変えていく)必要があ
る。
・リスクコミュニケーションやスプロール化への対応(被災者の視
点で見た復興の流れ)
 復興の長期化で、被災者の居住地移動、人口減少や少子高齢化を
考慮した持続可能な戦略・方策が希求された。
・時間の制約が土木と建築の連携を生んだ
 多くの皆さんの努力によってここまで復興できた。支援に入った
UR都市機構の存在も大きかった。




2.特集 被災地から未災地、次世代へとつなぐ

 次の三つの切り口から東日本大震災がもたらした復興の姿に迫っ
ている。
 1)原子力災害被災地「福島」の復興の課題
 原発事故後の福島復興の現状と課題、福島イノベーション構想が
切り拓く福島の未来
 2)生活や生業の復興に目を向けた土木隣接分野への視座
 農業と農村、漁業と漁村の復興。産業の復興と創出
 3)南海トラフ地震の事前復興
 今後予想される南海トラフ地震に対する事前復興は全国的に進ん
でいないが、次の事例が報告された。
・高知県の黒潮町(最大津波高さ34mが予想されている)の住民や
役場および公営住宅の高台移転の取り組み(現在は役場のみが完成
している)
・浜松市の延長17km、標高13〜15m高さのCSG工法を採用した防潮
堤(傾斜堤)の建設が2020年までのわずか7年で完成した。

  


 土木学会誌 2021年3月号表裏表紙 「陸前高田市の高田松原の
跡地に立った防潮堤の風景〜太平洋広田湾と防潮堤と北上山地」

(以上 当サイト抜粋)

津波痕跡調査の果たした役割(今村文彦・高橋智幸)
2021.5.31
【土木学会誌 第106巻第5号 2021年(令和3年)5月】
[インタビュー]
 津波痕跡調査の果たした役割
 [語り手]津波工学研究者
 今村文彦(東北大学災害科学国際研究所所長)
 高橋智幸(関西大学副学長)
 [聞き手]土木学会編集委員 倉原義之介・村上亮

1)津波痕跡調査の概要と当時の状況
 今村:東日本大震災以前から、1992年のニカラグア地震、インド
ネシア・フローレンス島地震、2004年のスマトラ島沖地震・インド
洋大津波などの世界の大規模津波の現地調査に参加してきたが、東
日本大震災は別格と感じた。広域的かつ複合的な災害で復興への課
題が多くあった。
発震三日後に防災ヘリで上空から現地を確認したが、震災前から訓
練などの防災(活動)を地域の人たちと一緒に行っていたので、今
回の甚大な被害は大変残念であり忸怩(じくじ)たる思いがあっ
た。
 高橋:(今村先生と同じ東北大学の津波の研究をしていたの
で、)自分のよく知る三陸沿岸、社会が、町が、人々の生活が津波
で一夜にして破壊された。南海トラフ地震で津波被害が懸念される
地元関西のことを思い恐怖を感じた。
 高橋:調査地域の割り振りには、被害の大きな地域も小さな地域
もデータはどちらも重要であり、心苦しいところもあったが調査担
当者にご理解いただいた。
 今村:震災以前から津波防災対策を地元と共に実施してきたの
で、地元の方には行政や学術に対する不信感もあったと思うが、地
元には学術的調査の意味と地域の復旧・復興計画に必要なデータ・
情報の入手の重要性を説明し、理解を得ることに努めた。

2)津波痕跡調査における土木学会の役割
 高橋:過去の津波災害調査の経験をもとにした津波痕跡調査のマ
ニュアルが以前から整備されていて研究者にはよく知られていた。
今回はデータの信頼性の評価を付けた。
 高橋:土木学会、特に海岸工学委員会からの参加者は、海岸災害
の現地調査経験が豊富で、連携が取れており、率先して調査を引っ
張っていただいた。
 今村:調査結果を活用する場面では、信頼性のある情報を提供
し、防災における社会インフラを含めた総合的対策の必要性を理解
いただくことが重要だった。当時はまず土木学会が中心となって東
日本大震災の特別委員会を結成し、調査結果を整理し発進した。調
査で得られた多くの知見が現在利用されており、土木学会の考えが
基軸となり行政でも利用されている。

3)津波痕跡調査の果たした役割
 高橋:@北海道から沖縄までの広域な津波高さの分布が得られ、
地震メカニズムや津波断層モデルの推定に寄与した。A各地で詳細
なデータ、すなわち浸水域、遡上高、流速、被災状況がわかり、防
潮堤の被災外力が明らかとなり、災害復旧・復興を進める上で基準
の見直し等に生かされた。B地域行政ではハザードマップ、復興計
画、避難計画、防潮堤高さの設定など広域な防災計画から地域レベ
ルの対策にまで広く活用された。
 今村:当初は既存の防潮堤が役に立たなかったとか避難が遅れる
原因となったとする意見が多く出されたが、調査により津波高さの
低減や到達時間の遅延に役立ったことが明らかにされた。
 今村:復旧・復興計画を立てる上で津波シミュレーションを行う
ことが前提だった。これは過去にない役割だった。調査結果の積み
重ねとシミュレーション技術の進歩が、得られた結果の精度向上と
信頼性の評価につながり、計画作成の根拠としての利用を可能にし
た。

4)事前復興へのシミュレーション技術の活用
 高橋・今村:発生が懸念される南海トラフ地震津波のシミュ―レ
ーション結果は衝撃的だった。内閣府が出した高知県での高さ30m
を超える津波高さの想定に対して、地元ではどうしようもないとす
る意見も出た。
 高橋:最新の技術による津波高の予想と過去の津波の痕跡(石碑
など)の比較により、地元民に感覚的に知ってもらうことも必要
だ。
 今村:国が進めるバーチャル技術の推進で見えないリスクに対す
る低減策や対応策を検討することができる。最大クラスのみなら
ず、高頻度におこる災害への備えなどに意識を高めることが重要
だ。

5)ハードとソフトのバランスが取れた防災へ
 高橋:調査の結果、ハードウェア対策が被害の低減、減災に大き
く貢献したことが明らかとなった。このため、ソフトウェアとハー
ドウェアのバランスの取れた防災を行わなくてはならない。また、
ハードウェア対策の限界(防潮堤に対する設計外力以上が働くと破
堤するなど)を住民に正しく伝えることがことも重要だ。
 今村:ソフトウェア対策だけでは、経済被害、インフラ被害は減
らせない。復旧復興を見据えてのハードウェア対策も必要だ。ハー
ドウェア対策は町を守る、資産・建物を守る役割がある。
土木技術者として専門性を高めることはもちろんだが、総合性を考
え、安全・安心のために果たすべき役割を明確にして市民の皆さん
が理解し協働できるように発信し続けることが大切だ。「今後も大
きな被害が予想される中で、何をどこまで守るか?」それを決めな
いと次の一歩を踏み出すことができない。震災10年の節目に改めて
議論することが必要と考えている。

(以上当サイト抜粋要約、一部簡略化)


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