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東日本大震災復興10年(その2)


土木学会誌特集号 東日本大震災 復興の10年
2021.10.25
【土木学会誌 第106巻第3号 2021年(令和3年)7月】
対談「釜石港の被災から学ぶ教訓−航路啓開と湾口防波堤の復旧−」
村上明宏氏 当時:国交省東北地整釜石港湾事務所長
柳田良一氏 当時:埋立浚渫協会東北支部長 五洋建設東北支店長

1.津波高を半分に抑えた湾口防波堤
 村上氏:(2011年3月11日、午後2時46分、)私は釜石港湾事務所の2階に
ある所長室で執務をしていた。最初は小さい揺れが椅子に座っていられない
ほどの大きな揺れとなり、地鳴りを含んだ震動が襲ってきて、「これ以上揺
れたら建物が危ない」と思ったときに揺れが収まった。事務所の机の上や棚
から書類などが飛び出し床一面に広がっていた。
 直ちに、東北地方整備局の港湾空港部に電話を入れ状況を伝え、その後、
職員を会議に集めて無事を確認した。防災担当者より、「釜石は震度6、岩
手県沿岸に大津波警報3m以上が発令」と報告があり、事務所の災害対策支
部運営要領にのっとり災害対策支部を設置した。1階は浸水の恐れがあり、2
階で業務を行うよう指示した。
 港湾事務所は周辺住民の第1次避難所に指定されており避難者が来たら屋
上に誘導するように指示を出した。
 20分ほどして、計測班から「GPS波浪計で7mの津波を観測」との報告があ
った。GPS波浪計は釜石の沖合約20km(水深204m)に浮かぶブイに設置され
ています。ここで観測した津波が陸に到達するときには、高さは約3倍にな
ります。すなわち20mもの津波がやってくる。ならば2階建てのこの建物の屋
上も超えることになる。(中略)
とっさに考えたのが湾口防波堤の効力です。この湾口防波堤は「明治三陸大
津波」に相当する高さ8mの津波に対処できるように設計されていましたが、
仮に津波が防波堤を越波した場合も津波高は1/2程度に抑えることができ
る。それでも津波高は10m。2階にいては危ないため、全員屋上に上がり、さ
らに屋上より高い展望塔に避難した。(中略)
 事務所は1階の天井(+8.1m)まで浸水した。日が暮れると寒さが増したた
め、避難住民には2階の会議室に入っていただいた。夜間にも数回余震があ
り、夜通し緊張した状態で朝を迎えました。

2.航路啓開で7.5mの深さを確保せよ
 村上氏:釜石港の岸壁は本来深さ-11mの岸壁であるが、第一弾の緊急物資
を受け入れるための航路啓開は暫定的に-7.5mと決められた。3月16日夕方に
啓開を終え、翌17日から緊急物資船が次々入港した。
3.綿密なる連携による早急なタンカー受け入れ
柳田氏:本格的な航路啓開は、道路が断たれていた宮古、釜石及び特定重
要港湾の仙台塩釜港を最優先とし、必ず1バースは着岸できるようにする方
針で進められた。航路内の漂流物の沈没状況の調査にはナローマルチビーム
という測深機が役立ち、障害物確認の迅速化が図られた。整備局、県の管理
者、自衛隊、海上保安部、埋立浚渫協会の施工部隊が一体となり、3月21に
は仙台塩釜港に2000キロリットル級タンカーが入港・着岸し、その後も次々
と市場への燃料供給が再開された。
4.スピード復旧に貢献したハイブリッド工法
 陸側倒壊した釜石湾口防波堤(最大水深63m;ギネス記録)では、990mあ
る北堤はほぼ全壊し、南堤は陸側のケーソンの半分が内側に倒壊・傾斜し
た。
 ハイブリット工法は遠方の造船所で組み立て、釜石に曳航できる利点があ
る。従来のRCケーソンの外壁や隔壁部材を鋼・コンクリートの合成版やSRC
部材に置き換えたもの。高強度、軽量、何よりコンクリート工事を省力化す
るメリットがあった。また、ケーソン1函を延長50m物にする事が可能とな
り、据え付け作業を省力化し、従来比で1.7倍速く防波堤を復旧できた。
5.非常時に規制や手続きを緩和する措置を
村上氏 1)非常事態を想定した職員の訓練の常態化
2)非常時における規制や手続きの緩和、省略できるルール作り
柳田氏 3)港湾復旧における国、港湾管理者(地方自治体)、施工者など
の綿密な連携が求められる。今回、東北の航路啓開は無事故で終えることが
出来た。これは適切な連携の結果だと思う。

(以上 当サイト抜粋)

津波対策工の施工状況(震災後10年)
2021.10.25
1)釜石港、釜石漁港の津波対策工

 防潮堤の堤内側に避難盛り土

2)陸前高田市の震災復興祈念館と高田松原再生に向けて

 高田松原の植生回復作業

3)唐桑半島漁港の津波防潮堤施工状況

 TK漁港の傾斜堤 太平洋側 計画高約TP=10m


 同上 TK漁港防潮堤(坂口組HP)河川堤防に連結している
  傾斜堤末端は重力式擁壁(岩着)、天端背後は復旧県道


 I浜の浮上式のフラップゲート式陸閘


 TH漁港防潮堤(直立堤とフラップゲート式陸閘)


自立するフラップゲート式陸閘現地動作確認

(気仙沼市唐桑半島太平洋側漁港の例)



一般的な防潮堤陸閘の電動横引きゲート(釜石港)



震災後、防潮堤や防潮水門の400基が自動化された

(読売新聞2020.9.12)

 震災後の整備で自動化した防潮堤陸閘や防潮水門ゲートは、岩手県で
187基、宮城県212基、福島県7基の406基で、年間の点検や維持管理費
に、岩手県で年間5億円(平均267万円/基)、宮城県で3億3000万円(平
均155万円/基)、で震災前の5倍ほどに膨らむ。

 さらに、国や市町村管理の陸閘・水門があり、維持費はさらに増え、
また20年ごとと言われる遠隔自動監視・操作システムの更新(コンピュ
ータシステム、センサー一式)に多額の経費が懸念される。


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