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津波堆積物U


日本の古津波研究その1(地質学雑誌2017年10月)
                        2019.2.17
地質学雑誌 第123巻 第10号 2017年10月号(その1)
 地質学会創立125周年記念特集「日本の古津波」の前半部

1)菅原大助;2011年東北地方太平洋沖地震による津波の堆積作用と堆
積物:広田湾と仙台湾の事例,p781-804
2)高清水康博;北海道太平洋岸の津波堆積物研究:北方四島の津波堆
積物と北海道西部太平洋岸の断層モデルの検討,p805-817
3)澤井祐紀;東北地方太平洋側における古津波堆積物の研究,p819-
830

1
)本稿では,2011年東北地方太平洋沖地袋の津波について,特に土砂の動
態や収支,水埋量と堆積物の関係に着目し,異なる地形・津波の特徴をもつ
二つの地域を対象に,これまでの調査・研究による知見を整理した。
 三睦沿岸の広田湾では,海域から陸上への堆積物の移動が起こったことが
古生物学的データ,ビデオ映像および数値解析によって明らかにされた。ま
た,引き波の影響が大きく,巨視的には沖合方向への堆積物の移動距離と量
が卓越する特徴を持つ。
 一方,仙台湾沿岸では,海底から陸上への堆積物の移動は非常に限られてい
たことが,地質学的データおよびビデオ映條と数値解折によって示された。
また,砂質堆積物の沖合方向と内陸方向への移励距離は同程度であった。津
波堆積作用における両地域の差は,主に陸上・海底地形と津波の波形の違い
によって生じた。

2)北海道太平洋側の古津波堆積物研究の現状と課題を北方四島と北海道太
平洋側の断層モデルに焦点を当てて示した。過去7000年間における国後島と
色丹島の津波堆積物の層数は色丹島の方が多いことは,色丹島の方が海溝に
近いため,規模の小さな津波でも地層中に記録されたためである。一方,国
後島には規模の大きな津波のみが到達するため,巨大津波の履歴がよく記録
されている。
 北海道の太平洋側の津波堆積物の分布を説明するために設定された複数の
断層モデルの復元からは,北海道西部太平洋岸の波源として東北北部沖断層
モデルの重要性が指摘された。北海道胆振海岸と青森県東通の津波堆積物履
歴をあわせて考えると,少なくとも過去2500〜2800年前以降に北海道西部太
平洋岸に来襲した津波堆積物は1層のみであるということが見えてきた。

3)本論は東北地方太平洋沿岸で行われた古津波堆積物に関する研究につい
て総括する。東北地方における古津波痕跡に関する地質調査は,1980年代の
日本海側で始まった。その後津波堆積物に関する調査は太平洋側で行われ,
1611年慶長津波,1454年享徳津波,869年貞観津波の痕跡が見つかってい
る。
 1611年慶長津波については,三陸海岸沖に波源を想定する一方で,千島海
溝の巨大地震によるものという説もあり,未だ決着がついていない。
 1454年享徳津波および869年貞観津波については,日本海溝中部に波源が
あると考えられ,その規模はM8クラスである。
 1454年および869年の津波より前には,幾つかの古津波の痕跡が見つかっ
ているが,その波源についてはまだ明らかになっていない。


日本の古津波研究その2(地質学雑誌2017年10月)
2019.2.17
 地質学雑誌 第123巻 第10号 2017年10月号(その2)
 地質学会創立125周年記念特集「日本の古津波」の後半部

4)藤原 治・谷川晃一朗;南海トラフ沿岸の古津波堆積物の研究:その
成果と課題,p831-842
5)後藤和久;琉球海溝沿いの古津波堆積物研究,p843-855
6)川上源太郎・加藤善洋・卜部厚志・高清水康博・仁科健二;日本海東
縁の津波とイベント堆積物,p857-877


4)津波堆積物を使った南海トラフ沿岸での古地震・津波の研究は,過去6000
年間にわたる津波の履歴解明に貢献してきた。それにより,100年〜150年間隔
で発生する"通常の"巨大地震以外に,より大きな地震が300〜500年間隔で繰り
返していると言う"ハイパー地震サイクル"仮説の提唱といったトピックもあっ
た。このレビューでは,南海トラフ沿岸での津波堆積物研究について今後解決
すべき2つのテーマを提案した。
 一つ目は,過去の地震の破壊域の正確な復元が改めて重要である。例えば,
1707宝永地震以降は東海地震と南海地震がベアで存在するが,古い時代にはど
ちらか一方の記録しかないことが多い。歴史記録から漏れた地震がないかを地
震記録から検証し地震履歴を補完することは,巨大地震の発生パターンを知る
ために重要である。
 もう一つは,古津波の規模(遡上高や遡上範囲)を定量化することである。こ
れは"ハイパー地震サイクル"仮説の検証や,我々が備えるベき津波の規模を検
討するために重要である。
(私のコメント)日本でも産業の盛んな太平洋沿岸地帯。土地の開発、改変に
より津波堆積物が消失している場合が多いのではないだろうか。

5)琉球海溝沿いの古津波研究は約50年にわたり行われてきた。特に,津波石
と呼ばれる沿岸巨礫群の研究から,先島諸島では数百年間隔で巨大津波が繰り
返したと考えられる。その一方で,奄美・沖縄諸島では少なくとも約2300年も
の間,巨大津波が発生した痕跡が見られないことが指摘されている。この結果
は地震学的研究によっても支持されており,琉球海溝においては巨大地震・津
波発生履歴と規模に大きな地域差があることを示唆していると考えられる。一
方,砂礫質津波堆積物の研究は,調査適地が少ないという問題からあまり実施
されておらず,中小規模の古津波履歴を把握するためにも,今後の調査研究が
望まれる。

6)日本海東縁の沿岸域では,津波起源とされるイベント堆積物の報告が急増
している。その時間-空間分布を整理し,地域間の対比と推定される波源を提
示した。19〜18世紀にはいくつかの歴史津波が知られ,地点数は多くないが対
応するイベント堆積物が報告されている。18世紀以前は歴史記録に乏しいが,
イベント堆積物から14〜9世紀の間に次の4つの津波イベントの存在が示唆され

 14世紀:青森〜山形北部,12世紀:北海道南西部,11世紀(西暦1092
年?):佐渡/新潟〜山形南部,9世紀(西暦850年?):(佐渡〜)山形〜青
森。
 これらのイベントは日本海盆の地震性タービダイトにも記録されている。よ
り古いイベント堆積物は,奥尻島や佐渡島などの離島で認められている。現時
点では堆積物の起源の認定や正確な年代決定などに多くの問題が残っており,
この総説が今後の問題点の解決と日本海東縁の古津波像解明の一助となること
を期待する。



2019.2.17


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