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津波堆積物T


日本国内の津波研究の現状
後藤和久ほか「日本の津波堆積物研究」文献リストの公表
 地質学雑誌特集号,第118巻,第7号,pp431-436(2012年7月)
り。
 日本国内の津波研究論文を整理し、現在の日本国内の津波研究の現状と
問題点を指摘した論文。

 過去の巨大津波が注目された東北地方や沖縄では1960年代から津波堆積
物に関する研究が始まっているのに対し、北海道や南海トラフ沿いでは、
1990年代中頃から研究がスタートし、文献数も依然少ないことが分かる。

 岡村 眞、松岡裕美(高知大学)
 津波堆積物からわかる巨大南海地震の歴史



 仙台平野沿岸の津波堆積物調査サイトの例


澤井祐紀ほか(2006)慶長と貞観の津波浸水域 
2017.9.16
仙台平野の堆積物に記録された歴史時代の巨大津波
−1611年慶長津波と869年貞観津波の浸水域−地質ニュース 624
号、36-41頁、2006年8月
 澤井祐紀・岡村行信・宍倉正展・松浦旅人・Than Tin Aung
 ・小松原純子・藤井雄士郎


 2011年の東日本太平洋沖地震津波の発生以前に、仙台湾の砂浜海岸に強
大な歴史津波(慶長及び貞観)の痕跡(津波堆積物、浸水域)を明らかと
した研究の概要紹介論文

1.近年における仙台平野の津波被害
 宮城県の仙台平野は、三陸海岸に比べて津波による被害が少ないと考え
られている。
【過去の津波波高】
・1933年3月3日 昭和三陸津波;三陸海岸・大船渡 28m超、仙台平野 
最大3.9m(山本町磯)
・1986年 明治三陸津波;大船渡 38.2m(一説50m以上)、仙台平野 
5m以下
・2005年8月16日 宮城県沖地震(震度6弱);石巻市鮎川 0.1m

 これらの近年における「仙台平野は津波被害が少ない」という認識に反
して、歴史記録には巨大な津波が仙台平野を襲ったという記述がある。

2.歴史記録に残っている巨大津波
2.1仙台平野を襲った貞観津波の歴史記録
2.2江戸時代に三陸海岸・仙台平野を襲った津波

3.調査地域の地形 浜堤列間の「堤間湿地」;集落と水田地帯

4.先行研究による古津波痕跡の発見とその問題点
 Minoura and Nakaya(1990)、阿部ほか(1990)、菅原ほか(2001)は、貞
観津波を地質学的アプローチから検討した事が画期的であった。これらの
研究は浸水域を平面的に復元することが課題として残った。

5.津波堆積物の認定−貞観津波の堆積物−
 主にピートサンプラー、ハンドオーガー、小型ジオスライサー(長さ2
〜3m)による試料採取を行い、貞観津波堆積物を認定した。
 津波堆積物と認定した堆積物の状況と特徴は次の通り。
1)泥炭層の中に明瞭な火山灰層とその直下の石英質の粗粒〜細粒砂層の
セットが連続的に観察された。
2)海生生物の化石が豊富に含まれ、沿岸域に生育する珪藻種が優占す
る。
3)砂層の鉱物組成は石英に富み、現在の海岸の砂に酷似する
4)海岸に近い地点から得られた砂層は顕著な級化構造をもつ(菅原,
2004)

6.津波堆積物直上の火山灰
 10世紀頃の東北地方広域テフラ(火山灰・火山砕屑物);
 灰白色火山灰層は十和田a火山灰(西暦915年降下説が有力)とみなさ
れる。

7.津波来襲時における海岸線の位置

8.地質記録から推定された古津波の浸水範囲
8.1貞観津波来襲時の海岸線と津波浸水域
1)山元町・亘理町地域;海岸線は現在より1km内陸にあった。津波遡上距
離は少なくとも2〜3km
2)名取市・岩沼市・仙台市地域;旧海岸線は特定できなかったが、津波
堆積物は現在の海岸線から4kmほど内陸に追うことが出来た。

8.2江戸時代に発生した津波の浸水域
 山元町・亘理町における調査測線から、十和田a火山灰より上位に津波
堆積物を認定した。これの砂層は1611年慶長津波によると推定され、現在
の海岸線から500mほど内陸側に分布する。

 最期に著者は「今後は採取した試料の放射性炭素年代測定を行うことに
よって、津波堆積物の対比、海岸線位置の詳しい復元を目指す。さらに、
復元した津波浸水域をシミュレーションで再現し、津波波高や津波の到達
時間を推定することによって津波防災に貢献したい。」と決意を述べてい
る。


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