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福島原発津波災



【福島第一原発の地震津波災害について】
 
 今回のロシアのウクライナ侵略による世界的なエネルギー危機からいっても、福島原発の津波による事故は、国家のエネルギー政策上のことで、電力会社以前に電力行政を推進した日本国政府の責任が重大だと広く認識されるべきと思われます。東京電力の当時の経営トップが、この原発事故に関する裁判で、事故以前に津波被害の影響について土木学会に相談していたとの報道がありましたが、設計条件(津波の規模)を定めてはじめて行う工学は、理学的な歴史津波学の指摘について、大変残念な事ですが、本音としては「工学的な正確さがないため評価能わず」だったのではないかと思います。平たく言えば、「繰り返し発生せず、確認できない規模の津波は、設計条件として責任が持てない。」とする常時と同じ判断だったものと思われます。道路橋示方書の耐震設計編など、新潟地震、宮城県沖地震、阪神淡路大震災など大きな地震被害を精査し責任ある改定が行われて来たことからも分かります。土木学会のキーワードは責任ある技術指針の国民への提供にあるからでしょう。

 同様なことが、今、過去の津波堆積物調査の研究成果に基づき被害想定が改められている千島海溝−三陸沖巨大津波にも当てはまると思うのです(仮に想定規模が大きすぎるとの研究者がいればその点も謙虚に充分な再評価、審議が必要と思われます)。工学教育カリキュラムの延長上の高度な工学技術の研究者は、理学的で、花粉・珪藻分析、火山灰編年法、変動地形学を含む細かな地史学および堆積学(総じて第四紀地質学)に基づく古津波研究を正しく評価・批判するための基礎知識にかなり乏しく、逆に津波堆積物研究者は海岸工学・港湾工学等の土木工学における精緻な技術体系、その再現性を良く知る必要があると思われます。
 この課題は、阿蘇山などの巨大噴火(未だ有史に発生していない大規模火砕流やAD79年のベスビアス火山で発生したようなプリニー式の大規模降下軽石・火山灰)の原子力施設や社会生活に対する影響評価についても同じことが言えます。
 このような言い方は、一介の建設コンサルタント、役所の請負業務で生活する”影武者”がずいぶん偉そうに発言していると思われることでしょうが、今後の国のため、若い人たち、子供たちのため、学術的レベルは高くなくとも理学部教育を受け土木工学者の圧倒的多数の中で業務を行ってきた経緯から、理学と工学をまたにかけて技術的課題に取り組んできた技術者なら誰しも、はっきり現実について申し上げねばならないと思うのです。
 何故、東日本大震災の波源に最も近い原発・女川発電所は被害を免れたのか?また、何故、東日本大震災直前までの地震学学会は、東日本太平洋沖の地震規模を過去の宮城県沖地震程度に過小評価していたのか?、何故、東日本大震災以後、国が最大規模の地震被害を想定する方針に改めたといって、千島列島沖地震の被害が東日本大震災のL1、L2想定をしのぐ規模であると警告を出したとき、どれだけ厳しく過去の地震痕跡データを精査したのか?工学のトップの方々が、理学研究を無視することと、盲目的に利用することは、同じことではないのか。そして、この警告は10年前の東日本大震災復興の計画時に何故、発表できなかったのか?何故なら道東の過去地震津波の研究は東日本大震災の前から発表されていたはずでは?

 東日本太平洋沖津波後の防潮堤建設に1兆円、避難や復旧に役立つ造りの復興道路に1兆円、原子力施設の復旧・復興関連に7兆円強、さらに全体的な多方面の復興予算に巨額な国民の税金が使われています。このように、巨大な観測施設を持つ原子物理学や地震工学と連携の良いリアルタイムな地震学・地震計測技術を除き、理学は工学と国民経済に直結する規模が大きく異なり、かつ学問体系自体が大きく異なります。それゆえ難しいことではありますが、理学研究と工学研究がよりよく融合することが、理工学的な研究者と技術者の養成が、頻度が少ない巨大災害に対する必要十分な対策を進める上で望まれます。巨大災害には高い設計条件を定めてハードで対策する対象(原子力施設、行政中核施設、避難所施設等)とリスクを保有する対象(中規模レベルの防護施設、住民の避難に係わるソフト対策、および災害保険による対策)を認識して対策する基本方針が、総合技術監理思想として知られています。

2023.1.1,追記2023.9.18

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