GEOENG 地質学と建設コンサルタント(理学と工学の融合へ)


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理学と工学



【主に地球科学と土木工学の考え方の差異について】
 
 2011年3月11日の東日本太平洋沖地震津波は、三陸海岸で最大遡上高さ40m、仙台湾で最大浸水高さ10m、浸水域幅4〜5kmの巨大津波であり、太平洋沿岸で関連死含め約2万人の命を奪い、かつ福島第一原発の電源・冷却装置ダウンのためメルトダウンと原子炉爆発を引き起こし、2020年現在も長い廃炉の途上にあります。

 しかし、過去の津波を調査した地質研究者は、1990年には平安時代・西暦869年に巨大な貞観津波が生じた歴史資料を、津波堆積物研究者が裏付け、世に公表していました(安部ほか,1990;Minoura and Nakaya,1991)。その後も1611年の慶長津波や北海道沿岸の古期津波と共に研究が続けられてきました(澤井祐樹ほか,2006.8等)。

 この警鐘は、国の中央防災会議にも東京電力にも報告されましたが、おおかたの工学研究者や技術者(緻密な土木工学[主に構造力学と流体力学]や電気電子工学の専門家)には、単に不確実な夢物語として軽視され続けたのでした。3.11の津波の被害の規模に心を痛めた高名な津波学者は、今や工学研究者は理学研究との総合の必要性を痛感したとの意を述べているようです。

 これに関連し、私事、普段から土木工学の教育を受けた役所の技官や社内の土木設計者、軟弱地盤調査担当者と仕事を共にしている中で、常に悩みが大きいのです。それは地質学や地球物理学的基礎知識が、基礎訓練がないと理解が難しい結論(地層の対比や岩石の同定に基づく地質平面図や地層断面図、地下水位や湧水等の水理構造、各種物理探査・物理検層の方法と解析、土質・岩盤の物性値、地滑り・崩壊・落石の範囲や規模、細分化した地盤物性を重視した地盤変状解析や地震応答解析の類)を基礎資料として土木設計の設計条件の設定が出発するからです。

 一方、土木設計を行う技術者は、緻密な数式、数字で構築される工学は設計条件やモデルを設定し、細かい設計計算(構造物基礎の地耐反力や安定照査、構造体の軸力・曲げモーメント・座屈等の構造計算、降雨強度式による排水計画、等流・不等流計算等の水理計算など)を行ない、次いで道路橋示方書や各種の設計基準書の枠組みの中で工法を選定し(工法比較検討表)、ミリ単位の多数の設計図面集や工事費を求め工事を発注するための数量計算書(土工や各種鋼材やコンクリート、資材)を細かに計画していくのです(実施設計)。

 これに対して、地球科学者や地質技術者は、十数億年の歴史を認識しつつ大局的な自然現象を深く研究し、ある時は大胆に大スケールで、ある時はミクロな現象に着目して、今後の発生する変動を予測するため、未来現象の規模と発生時の推定幅は極めて大きくなる傾向にあります。いわばこの大胆さが理学、特に地球科学の特徴で、緻密な数字の積み上げによる工学者に忌み嫌われる「いいかげん」、「無責任」、「意味が不明」、「趣味の世界」と言われる要因にもなっていると思われるのです。

 地球科学分野の理学方からは、土木工学分野の工学方が自然現象や原理に疎く、設計条件が調査結果の違いでいくらでも異なる、と思うことが少なくありません。例えば、世界最大水深に建設した釜石湾港防波堤(津波で1/2が倒壊した)に限らず、防波堤や防潮堤を破壊する津波に対して、土木技術者は「そのような高水位の津波は計画に用いた設計条件以上のものであるので、土木関係者の非ではない」と言われても、腑に落ちないところがあります。2011年3月の津波でも事前に大津波を考慮し、高い標高に主要施設を建設し致命傷を免れた震源に近い宮城県女川原発の例もあるからです。あの大津波で福島原発のみならず女川原発が被災すれば、三陸沿岸南部〜石巻市〜仙台市周辺の住民(宮城県庁と国交省東北地方整備局は50km圏)は避難を免れず、復旧・復興はさらに困難になったと考えられるのです。

 このサイトでは、一介の建設コンサルタントが大変僭越ではありますが、上記の問題意識から、理学と工学の有益な融合について試みてみたいと思います。

当初 2014.5.17
追記 2020.5.5
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