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福島原発処理水



【福島第一原発のALPS処理水の放出方法について】
 
 2011年3月11日の東日本太平洋沖地震津波からもうじき12年となりますが、福島第一原子力発電所の電源喪失事故後の燃料デブリの取り出しが困難を極める(※1)中、原子炉を冷却した多量の水の「多核種除去設備等処理水(ALPS処理水)」の海洋放出の開始が、3か月後、2023年春期に予定されている(東京電力)。処理水には装置で処理できないトリチウム(三重水素)が含まれているとのこと。システムの正しい運用、処理水の放射線核種濃度、モニタリングの透明性の高い公開が、福島沿岸を中心とする海洋環境、漁業環境、風評被害防止につながることを期待します。

 東京電力ホールディングス(株)HP 廃炉プロジェクト

※1 廃炉の核心である燃料デブリの現状と処理計画
 1号機:燃料デブリの大部分が格納容器底部に存在
 2号機:圧力容器底部に多くが残存し、格納容器底部にも一定量が存在
 3号機:圧力容器底部に一部が残っている可能性があるが、2号機と比較して多くの燃料デブリが格納容器底部に存在
 2021年に試験的取り出し装置を英国から輸送し、所員による遠隔ロボットの操作訓練を実施し、2022年中に試験的取り出し作業を行い、順次、拡大する予定とされている。
 【出典】東京電力ホールディングス(株)廃炉推進カンパニー 福島第一原子力発電所 計画・設計センター 副所長 堀内友雅 「福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水・処理水対策の現状」土木学会誌,第107巻,第1号(2022)


 2号プラントの状況図;土木学会誌,第107巻,第1号(2022)


 重層的な汚染水対策の概念図;土木学会誌,第107巻,第1号(2022)
 東京電力ホールディングス(株)HP 汚染水対策の状況
 
 上の概念図からは、報道された原子炉建屋周辺の連続遮水壁を施工し、建屋に流入する地下水を減少させ、原子炉建屋内の滞留水のセシウム除去、淡水化、浄化処理を行っている。合わせて、建屋周辺の揚水した地下水の浄化処理も実施していると見られる。


 東京電力ホールディングス(株)HP ALPS処理水の海洋放出方法
  ALPS処理水の処分

 堀内友雅,土木学会誌,第107巻,第1号(2022)によると処理水対策の概要は次のように述べられている。
 「(処理水対策は)まず、タンクに保管されている水のトリチウム以外の放射性物質について、希釈する前の段階で安全に関する基準を満足するよう、ALPSや新設する逆浸透膜装置により、何回でも浄化する。浄化した水は、測定・確認用設備にてトリチウム以外の放射性物質が基準を満足していることを測定・確認する。(当社ならびに第三者機関)」
 「ALPS、逆浸透膜装置では取り除けないトリチウムについては、現在排水している地下水バイパスやサブドレインのトリチウム濃度の運用目標値(1500Bq/L)、年間トリチウム放出量(22兆Bq)を下回るよう、100倍以上の海水で充分に希釈する。具体的には5号機取水路に海水ポンプ(17万m3/日×3台)を新設して海水を取水・希釈し、放水立坑・海底トンネルを通じて、沿岸から約1km先に放出する。また、設備に異常が発生した場合や海域モニタリングで異常値が確認された場合に速やかに放出停止が出来るよう緊急遮断弁を設置する。」
 「海域トリチウムの拡散状況や海洋生物への放射性物質の移行状況を確認するために、トリチウムを中心にモニタリングを強化していく。モニタリングの強化は、放出前後の比較が行えるよう、放出開始の1年前から開始する。」

[当サイトの感想]
 東京電力は日本の中核的電力巨大企業で、電力中央研究所ならびに日本原子力研究開発機構と連携し高度な技術力をもつことは誰の目からも周知の事実と思われます。しかし、原発事故は100%起こしてはならない、起こるはずはない、として事故対応ロボットシステムの開発を中断したとする、震災前の企業判断があったとの話を聞いたことがあります。
 このような考え方の存在が事実とすれば、処理装置や排水システムの不具合が生じたとき、事件を隠して問題のある処理水を放流し続け、数か月や数年後、発覚するという不祥事は起こりえるのではないか、と心配する国民が無いとはいえないのではないでしょうか。したがって、日本初の原発事故の汚染水海洋放出という高度な対策について、日本国的な、役所的な、大企業経営者的な隠ぺいは起こりえることに常に留意し、国、東京電力の誠実な心がけが地元との確執を乗り越える姿勢として重要なのではないかと思われるのです。基本理念、思想、哲学的なことですが、そのように思われます。海洋放出、海は福島沿岸のみにあらず、東日本沿岸全域、ひいては日本全域の沿岸、周辺諸国周辺の海洋とつながっている訳ですから、なおさらです。

2023.1.1



【原子炉から排出される放射性物質一般について】
・重水素について
 重水素は水素Hの同位体で、質量数が2および3のものを言う。なわち、陽子1個+中性子1個から成る核を持つものをジゥテリウム Deuterium といい、Dで表し、自然界に約1/5000含まれる。陽子1個+中性子2個の質量数3のものは、トリチウム Tritium といいTで表し、半減期12.3年といわれる。
 DOは重水という。重水は融点が3.82℃、沸点が101.42℃、比重が1.11の値をもつ。重水は原子炉において(ウラン燃料の核分裂を起こす確率を上げるため)中性子の速度を落とすために使われる。
 核融合反応(水爆に応用)を起こさせるためにはジゥテリウムとトリチウムとを圧縮し、高温(約10万度)で反応させる。この高温は現在のところ核分裂反応を用いて得られる。
 2D+3T=4He+1n+4.1×108kcal

・原子炉で生じる重水素以外の主な放射性物質
 ヨウ素 I131 半減期 8日
 セシウム Cs 137 半減期 30年
 ストロンチウム Sr 90 半減期 30年
 プルトニウム Pu 239 半減期 24,000年

・原子の壊変
 原子核の大きいものの中には、核内素粒子間の結合が不安定であり、自然に壊れていくものがある。そのとき、α線(He原子核)、β線(電子線)、γ線(x線より波長の短い電磁波)を放出する。

・崩壊と質量数
 α壊変(α-decay);放射性の原子でα粒子を1個放射すると、原子番号が2小さく、質量数が4小さい原子に変わる。
 β壊変(β-decay);β粒子1個を放射すると、質量数は変わらないが、原子番号が1大きい原子変わる。

・核分裂の例
 1)原子力発電用燃料棒:ウラン235(通常のウランに約1/140含まれる)をアメリカで3%程度に濃縮し、日本で成形加工している。
 2)ウランU235に速度の遅い中性子を当てて核分裂させる。
  235921092Kr36141Ba56+3・1n0
    n:中性子、Kr:クリプトン、Ba:バリウム
    質量数:左上の数字、(原子番号:下,ウランでは92)
  ここで生じた中性子がさらに他のウラン原子を壊変させる(連鎖反応)
 3)プルトニウム239Pu(原子番号94)の発生
  23892+1n023992239Np930e→239Pu940
    Np:ネプチウム(原子番号93)

【福島原発HP 処理水ポータルサイト】概要について
 https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/

 参考までに、サブドレン・地下水ドレンに関するサンプリングより、処理水の運用目標あるいは基準上限値について転載してみます。日々の水質検査データなど、詳しくは上記の福島原発HPの処理水専門サイトで御確認ください。

 表-1 運用目標あるいは基準上限値
核種
目標値・基準
セシウム
Cs134
セシウム
Cs137
全β
ストロン
チウムSr
トリチウム
一時貯水タンク
運用目標
1Bq/L
1Bq/L
3Bq/L
1,500Bq/L
(参考)
告示濃度
60Bq/L
90Bq/L
30Bq/L
60,000Bq/L
WHO飲料水
ガイドライン
10Bq/L
10Bq/L
10Bq/L
10,000Bq/L
(注1)Bq(ベクレル):放射線源量,1秒間で原子核1個が崩壊して放射線を出すと1Bqとなる。1kg当たり、ないし1L(リットル)当たり
(注2)Sv(シーベルト),μSv(マイクロシーベルト):放射線被爆量,1時間当たり、ないし積算量




 処理水は100倍以上の量の,放射性物質を含まない海水で希釈する.

ALPS処理水測定例
measurement_confirmation_231019-j.pdf

(学習中)2023/11/29
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