日本列島の古生層、骨格について |
---|
2021.3.28 |
125周年記念特集 日本列島の形成過程 地質学雜誌第124卷第9号655-673ページ,2018年9月 Jour. Geot. Soc. Japan, Vol.124, No. 9, p. 655-673, September 2018 総説 日本の古生代腕足類の古生物地理学的研究とその構造地質学的意義:総括 Palaeobiogeographical studies on the Palaeozoic brachiopodsof Japan, and their tectonic significance: A review 田沢純一(Jun-ichi Tazawa) Abstract We reviewed 124 studies (based mainly on brachiopods) of the Palaeozoic biogeography of Japan. The data indicate four tectonic events; 1) during the Silurian-Permian, Proto-Japan was located within the Central Asian Orogenic Belt, near North China; 2) after the late Permian, Proto-Japan was rearranged through large-scale, sinistral strike-slip faulting, probably during the Early Cretaceous to Palaeogene; 3) Akiyoshi-type limestone-basalt blocks were derived from early Carboniferous to middle Permian reef-seamounts in the northern Panthalassa, near Proto-Japan; and 4) Mino-type limestone-basalt blocks were derived from late Carboniferous to late Permian reef-seamounts in the equatorial Panthalassa, near North America (Texas). Keywords: Brachiopoda, Japan, palaeobiogeography, Palaeozoic,tectonics (要旨) 日本の古生代動植物群(おもに腕足類)の古生物地理に関する124篇の論文について総括した.これらの研究から以下の4つの構造地質学的なできごとが示唆される. (1)原日本はシルル紀〜ペルム紀には北中国地塊周辺海域の造山帯(中央アジア造山帯)に存在した. (2)原日本はペルム紀に奥只見一飛騨外縁帯一南部北上帯一黒瀬川帯の順序で北から南へ1列に並んでいたが,後期ペルム紀以降,おそらく前期白亜紀〜古第三紀の左横ずれ運動によって再配列をした. (3)秋吉帯の石灰岩-玄武岩ブロックは前期石炭紀〜中期ペルム紀に,原日本に近い北半球のパンサラッサで礁−海山として形成された. (4)美濃帯の石灰岩−玄武岩ブロックは後期石炭紀〜後期ペルム紀に,北アメリカに近いパンサラッサ赤道地域で礁海山として形成された. まえがき 現在,日本の地質に関する最大の未解決の問題は,原日本(Proto-Japan)がどこで形成されたかということである。その場所について多くの研究者は南中国(揚子)地塊付近であると考えているが(例えば,Otoh et al.,1999; Ehiro, 2001;磯崎ほか,2011), 北中国(中朝)地塊付近とする説(田沢,1993, 2000a, 2004; Tazawa, 2005)もある.筆者はこの間題の解明には,古生代,とくに日本の資料が比較的豊富なシルル紀〜ペルム紀の動植物群の古生物地理学的研究が有効であると考える. 日本列島の構造発達史をまとめるうえで化石の役割は大きいが,古生物地理学的研究は,地塊や地体群の過去の地理的配置について制約条件を与え,それがテクトニクスの議論に直結することから,きわめて重要である。腕足類は古生代に緊栄した底生の海生無脊椎動物で,赤道から極地までの広範な海域に分布し,比較のための化石資料および文献資料が膨大であることから(例えば,Kaesler, 1997, 2000a, b,2002, 2006; Selden, 2007),古生代の古生物地理学的研究においては最適の分類群である。 わが国から産出する古生代腕足類の研究は,1900年に矢部長克が南部北上帯(南部北上山地),宮城県気仙沼市松川および同石巻市雄勝町八景島(やけじま)のペルム系からLyttonia(=Leptodus)を記載したこと(Yabe,1900)にはじまる.以来,今日までに約290篇の論文が印刷されている.それらのうち1900-2006年に印刷された207篇については田沢(2007)のまとめがある.古生代腕足類フォーナの古生物地理に関しては,最近の約20年間に分類学的研究が進展し,いくつかの重要なデータが加えられた. この総括では.日本の古生代動植物群の古生物地埋に関する124篇の論文(腕足類95篇,ほかの分類群26篇,両方を含む3篇)を取り上げて検討した.本稿では,日本の古生代腕足類フォーナの古生物地理学的研究におけるこれまでの成果を,シルル紀,デボン紀,石炭紀,ペルム紀と時代ごとにまとめ,適宜ほかの分類群による研究と比較し,古生代腕足類が産出する地域(帯)ごとにフォーナの特性を明らかにする.さらにそれらのデータにもとづいて,原日本の形成場および日本列島の先新第三系地体構造とその形成について考察を加える.化石産地の構造的.古地理的理解のために,日本の先新第三系地体区分図(Fig.1)と世界のシルル紀へ"ペルム紀古地理図(Fig. 2)を用意した. (内容) シルル紀 デボン紀 石炭紀 1.前期石炭紀 (1)飛騨外縁帯,(2)南部北上帯,(3)秋吉帯 2.後期石炭紀 (1)飛騨帯,(2)飛騨外縁帯,(3)南部北上帯,(4)秋吉帯 ペルム紀 1.前期ペルム紀 (1)南部北上帯,(2)秋吉帯,(3)美濃帯 2.中期ペルム紀 (1)飛騨外縁帯,(2)南部北上帯,(3)日立(南部北上帯南方延長) (4)美濃帯,(5)黒瀬川帯 3.後期ペルム紀 (1)水越(飛騨外縁帯西方延長),(2)南部北上帯,(3)秋吉帯,(4)舞鶴帯,(5)奥只見(舞鶴帯東方延長),(6)黒瀬川帯,(7)美濃帯 まとめと考察 1.古生代腕足類の古生物地理学的研究 2.日本列島造構論 |
|
第三紀の日本海のオープニングと堆積盆 |
---|
2021.3.28 |
125周年記念特集 日本列島の形成過程 地質学雜誌第124卷第9号675-691ページ,2018年9月 Jour. Geol. Soc. Japan, Vol. 124, No. 9, p, 675-691, September 2018 総 説 中新世における西南日本の時計回り回転 Miocene clockwise rotation of Southwest Japan 星博幸 Hiroyuki Hoshi (要旨) 西南日本の15 Ma高速回転モデルは現在も日本列島の地質学研究に大きな影響を与えている.しかし,微化石層序や放射年代測定の進展,および回転を示すと考えられていた中期中新世残留磁化方位の最近の解釈は,回転年代が従来考えられていたよりも古くなる可能性を示している. 今回筆者はこの四半世紀に西南日本から報告された古地磁気と年代のデータをレビューした.重要な結論は,回転が18~16Maの間のある時期に起こったということだ.西南日本が東西縁辺部を除き剛体的に回転したと仮定すると,回転量の上限は41.7±5.4°で,実際にはそれより数度程度小さかったかもしれない.回転の平均角速度は約21°/Myrか,より大きかった可能性がある.日本海拡大初期(始新世〜漸新世)に西南日本はほとんど回転を伴わずに大陸から分裂・移動し,約l8~16Maに時計回りに40°程度回転しながら現在の位置まで急速に移動したと考えられる. はじめに 西南日本(Fig.1)と東北日本が中新世にそれぞれ時計回り,反時計回りに回転しながらアジア大陸東縁から分裂・移動したという理解は,日本地質学会が創立100周年を迎えた1993年当時すでに日本の地球科学界に広く浸透していた.この理解は80年代に精力的に行われた古地磁気研究が基礎になっていた.とりわけ西南日本と東北日本の回転が約15 Maの短い期間に同時に起こり,それに伴い日本海が観音開き様式で拡大したというOtofuji et al.(1985a, b,c)のモデルは,日本の地質研究者の多くに衝撃を与えた.特に西南日本の時計回り回転については,Otofuji et al.(1985a)と鳥居ほか(1985)が「14.9 Maが回転のクライマックスで,60万年間に47°回転した」という具体的な推定を与えたことにより,日本海の「15 Ma高速拡大説」が日本の多くの地質研究者の脳裏に焼きつくことになったと思われる.乙藤洋一郎らを中心とした80〜90年代前半の古地磁気研究はOtofuji(1996)がレビューしている. しかし,93年当時には15 Ma高速拡大説と整合しない観測事実が多数存在することも認識されていた.日本海(Fig.la)での観測データは日本海拡大が15 Maより前に始まっていた可能性を示唆していた(Tamaki,1986,1988).ドレッジで採取された海底(特に海山の)火山岩の放射年代にも15 Maより前の背弧海益拡大を示唆するデータがあった(Kaneoka, 1986; Kaneoka et al.,1990). 80 年代末に実施された日本海掘削(ODP Legs 127,128)により,日本海の一部に21〜18 Ma頃あるいはそれ以前に海が侵入していたことが確実になった(Ingle, 1992; Kaneoka et al.,1992;Nomura, 1992; Tamaki et al.,1992). こうした新しい結果を踏まえ,日本海拡大には島弧の平行移動(ドリフト,20〜16 Ma)と回転移動(16〜14 Ma)という2つのステージがあったとする2段階拡大説が提唱された(Hayashida el al.,1991).・・・・ (内容) 15Ma高速拡大説の根拠になった残留磁化方位と年代データの見直し 1.東偏磁化方位の年代 2.瀬戸内火山岩類 3.室生火砕流堆積物と熊野酸性岩類 4.残留磁化偏角の時間変化 中新世古磁気研究の進展 1.北陸,2.山陰,3.東海 議論 1.西南日本回転時期,回転量,回転速度 2.日本海拡大との関連 3.太平洋側(南海プレート側)プレートとの関係 結論 地質学雜誌第124卷第9号693-722ページ.2018年9月 Jour. Geol. Soc. Japan, Vol. 124, No. 9, p. 693-722, September 2018 総 説 日本海拡大以来の日本列島の堆積盆テクトニクス Tectonics of sedimentary basins in and around Japan sincethe opening of the Sea of Japan 中嶋健 Takeshi Nakajima (要旨) 近年の高精度年代測定により,始新世〜中期中新世にかけ,日本海拡大に伴って日本列島の陸域では多段階のリフティングが生じ,不整合で区切られたリフト堆積盆の発達があったことが明らかになった.これらは,大陸リフト,日本海盆の拡大,大和海盆の第1期および第2期の拡大そして東北本州リフト系の活動に終わる,一連の日本海リフト系の多段階のリフティングに応じて形成された. 瀬戸内区には,古第三紀の広大な堆積盆が形成されたことが明らかになった.15 Maに西南日本弧は隆起し,沈降する東北日本弧とのコントラストが顕著になった.直後に外帯火成活動や瀬戸内火山岩類の特異な火成活動が西南日本弧で生じた.東北日本弧では,12Ma頃より奥羽山脈の隆起と日本海沿岸の沈降を伴う圧縮テクトニクスが生じ,半閉鎖的-還元的日本海が成立して根源岩が形成された.6Ma頃より東北日本,西南日本弧ともに圧縮場が強まり短縮変形が進んできた。 当サイト注;rift(地質構造的な割れ目、地溝). 例えば、東アフリカ地溝帯(East African rift zone; rift valley)が有名 (内容) 周辺背弧海盆の発達史とプレートの配置 1.日本海 日本海盆,大和海盆,対馬海盆,日本海の拡大モデルの進展 2.千島海盆 3.四国海盆 古典的モデル,プレート三重点移動モデル,第三のプレート仮説 リフト期の日本列島の層序とテクトニクス 1.初期リフト期(43-30Ma) 2.漸新世広域不整合期(30-21Ma) 3.前期リフト期(21-18Ma) 4.急速なリフト堆積盆形成期(18-15Ma) 5.リフト・ポストリフト遷移期(15-13.5Ma) 東北日本弧のポストリフト期のテクトニクスと環境変動 西日本弧のポストリフト期のテクトニクスと環境変動 おわりに |
|