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地質学の近代化


地質学の近代化
2017.5.13
 本来、博物学及び鉱山・鉱床学を中核とした地質学は、岩石学、鉱物学の分野で著しい発展を遂げていますが、地形・地質学全般においては、活断層・活褶曲を扱う変動地形学(地質学)、地球温暖化対策や土壌汚染対策を念頭とした環境地質学の発展により、近代化が生じています。また、高度な数値計算や全地球的地震波トモグラフィーを可能とするコンピューター技術の発達がプレートテクトニクスからプリュームテクトニクスへと発展を続ける構造地質学、変動帯の防災技術を支える地震地質学に大きな発展をうながしています。


実験及び数値解析による地質学
2017.5.13
 近年、地震発生機構解明に関する岩石実験や高度な数値解析による造山帯の変動地質学が行われています。(木崎甲子郎編著,「上昇するヒマラヤ」,築地書館,1988.など)

 造山運動の詳細で具体的な数値解析は、プレート運動、地震及び火成活動(花崗岩の上昇)の統合で全体像を表現するわけですが、解析技術上、本来は粘弾性解析と温度応力解析を行う必要もあり、いまだ研究途上にあると思われます。また、コンピュータ技術の急速な向上で三次元解析が可能な時代となりました。

 以下に、ヒマラヤ山脈の応力場についてのFEM解析による研究論文を一部分紹介します。



 「ネパールヒマラヤにおける応力分布と地震断層の形成:有限要素法モデルによる考察」
 Stress distribution and seismic faulting in the Nepal    Himalaya:insights from finite element modeling
 Md.Mahmudul.Alam* and Daigorho Hayashi*,2003,Japanese   Journal of Structural Geology,No.47,37-48.
 Received 8 April 2002;accepted 16 January 2003
 * Department of Physics and Earth Sciences, University of the Ryukyus, Okinawa,Japan.

要旨 Abstract
 この研究でわれわれは二次元有限要素モデルを使用し、ヒマラヤの南北短縮期間における応力分布と断層の発達を予測(predict)した。最大圧縮応力場(σ1)の方向は2つのモデルの浅いレベル内で水平方向である。変位境界条件を様々に変えることによって、浅部地殻の応力が変わらない間に、深い地殻の主応力方向は変化する。
 モール・クーロン破壊は、MBT,MCT及びSTDSの地表付近の小崩壊を伴って、シワリーク,テーチス、花崗岩質の基盤の地表に近い断面に観察される。破壊は、the Higher Himalaya,the Lesser Himalayaあるいは花崗岩質基盤層の深部において、岩石層のレオロジーが変化するにもかかわらず、静水圧条件に原因があるために発生しない。
 ヒマラヤ地域における地震の発震機構解析Focal mechanism solutionsはヒマラヤの下方、北側に傾く面を伴いEW方向へ伸張した衝上逆断層の存在を示唆する。本シミュレーションはヒマラヤ上部に沿う衝上逆断層の類似の分布を予言している。

 Keywords;
 Finite Element Method(FEM),Mohr-Coulomb failure,Main Boundary Thrust(MBT),Main Central Thrusut(MCT),Sauth Tibetan Detachment System(STDS),Focal mechanisum


 Fig.1  Simplified geologic map of the Himalaya

はじめに  Introduction
 有限要素法モデルは地殻の地質構造的変形を研究するための有効なツールである。
 ヒマラヤ山脈はインドとユーラシアプレートの衝突に引き続き形成した。(Fig1;Dewey and Bird,1970;Windley,1984,1995). 二大陸の始新世Eoceneの衝突に引き続き、さらなる収束と地殻の短縮化は、ヒマラヤ山脈の形成を導く主要な大陸間サブダクションの中で起きた。(Pecher,1989)
 チベット高原を上昇させる大陸−大陸衝突モデルはEnglandや他の人々によって数多く提案されてきた。(England and Mckenzie,1982,1983;England and Hanseman,1985,1986).これらの研究において、彼らはインド及びアジア大陸を非圧縮性の非Newton流体として仮定し、この衝突は薄い粘性シート解析によって三次元解析され、アジア大陸内部の構造を説明する目的をもっていた。
 ガンガベイズン(Ganga Basin)とヒマラヤにまたがる大きな負の重力異常は、インド大陸地殻がいくつかのスラストゾーンに沿ってヒマラヤ山脈に15゜±5゜でunderthrustするモデルによって復元された。このモデルによってヒマラヤ地域は等静水圧的isostaticallyな補償はなされず、300〜400kmの地殻短縮は造山帯に沿って生じたものと計算された。
 Hayashi(1987,1992)は有限要素法によってチベット高原とヒマラヤの上昇を数値シミュレーションした。この時、インドプレートの北部方向への移動は固いrigid、上部マントル上の非圧縮性ニュートン流動体として挙動し、上に載るアジア大陸を変形させるものと仮定した。このモデルにおいて、上部マントルリソスフェアは、一次的な近似によれば(for the first appriximation)、固い物体を成しており、変形可能な地殻が上部マントル上に載っているとする。地殻の変形はその時、高地や山脈を形成することが期待される。このような仮定の下、アイソスタシーの再調整(isostatic readjustment)が可能となり、地表の上昇の計算値が大きく見積もられがちになる。さらに、固い地殻の仮定(assumption)は、0.1Ma(10万年)より長い期間に関してのシミュレーションを妨げる(prohibit)。
 本研究の目的は、二次元平面ひずみFEMの手段によって、ネパールヒマラヤにおける応力分布と断層発達のパターンをシミュレートすることにある。FEM解析において、地殻の岩石は粘弾性的(visco-elastic)であるが(Makel and Walter,1993; Bott and Stern,1992; Ghose et al.,1990)、ここでは地質物質は均質で弾性的とした。この仮定はシンプルであるが、モデルはinstructive(教訓的、有益)であって、ヒマラヤのわれわれの理解に貢献する。
 計算された主応力と破壊要素は断層のパターンを同定するために利用される。われわれは、次の3つのポイントに対して観察の焦点を絞った。
(1)様々な境界条件下のネパール・ヒマラヤに沿った主応力の強度と方向性
(2)断層の発達
(3)シミューレートした応力分布とヒマラヤ地域の発震機構focal mechanism解析との比較


Fig.2.Models,the upper model1 by Seeber et.al.,1979,anather model2 by Kaneko,1997. A-A’section of Fig.1.


Fig.3.FEM Analysis,Stress distribution figs by Δx=-75m &-375m.
the india plate convergence rate;10〜20mm/yr(average 15mm/yr)

Table1 Rheology of rock units for model2
Tectonic

unit
including

rock
Poisson's

ratio
Density
Young's

Modulus
Angle
of
internal

friction
Cohesion
kg/m3
GPa
degree
MPa
SH
SS,SLS,
MS
0.25
2600
40
35
18
LH
SS,LS
0.30
2600
60
48
15
HH
GN,GR
0.35
2900
80
50
17
TH
SS,ILS
0.25
2600
50
45
20
GR
GN,GR
0.35
2900
80
58
10
(※)SS:Sandstone,SLS;Siltstone,MS;Mudstone,LS;Limestone,
 ILS:Impurelimestone,GN;Gneiss,GR;Granite

方法 Methods
1.収束速度 Covergence rate

 インドプレートは現在、50mm/年の速度で北に移動しており、チベットにもぐり込んでいる(Thakur.et.al.,2000)。全収束量に関して、〜20mm/年がヒマラヤ山脈の横断方向に提案されてきた(Bilham.et.al.,1997;Lave and Avouac,1988)。そして、残存収束がさらに北方に起きている(Peltzer and Saucie,1996;Yeats and Thakur,1998).
 Lyan-Caen and Molnar(1985)は、最近15〜20Maの間、10〜15mm/年の衝上運動の速度を示唆した。
 短縮見積り量3〜400kmが、ヒマラヤ山脈において生じた(Gansser,1966;Warsi and Molnar,1977)。なおかつ、underthrustingもぐり込みは漸新世Oligoceneあるいは後期始新世Late Eoceneに始まったと仮定すると(Gansser,1964)、短縮の速度は約10mm/年である。この比率は、Molnar(1977)によって、かつ地震の速度モーメントから(Chen and Molnar,1977)推論された率10〜20mm/年と一致している。
 地質学的時間スケール(5Ma)にわたり、山脈を横断して20mm/年以下と見積もられた短縮率(Cattin and Avouace,2000)は、主ヒマラヤ衝上断層(MHT)に沿って配置された衝上断層によって適応する。
 以上の議論から、われわれは最も妥当な収束率は10〜20mm/年であると結論して良く、平均値15mm/年をわれわれのシミュレーションに採用する。


Fig.4. Focal mechanism solution of Himalaya.

(以上 抜粋)

【汎用FEMソフトによる試行解析】2023.2.28

 第四系の短い地質学時間スケールでは、地盤工学や岩盤力学に適用する汎用有限要素法ソフトで数値解析を容易に試行することが出来ます。なお、地層や衝上断層の物性、解析モデル、地中応力状況等を研究中です。ただし、本来は深部地質のダイヤピルや部分溶融による山脈の上昇が表現出来ないといけない訳です。(また、このモデルは通常行わない大領域、大深度のトンネル掘削解析を兼ねています。)


Himalaya.Mts FEM-model ,2tunnels in LH(h=6.2km)and Gr(h=10km)

表-1 解析条件とステップの試行例
ステップ
イベント
時刻(年)
強制水平変位
累積
解析手法
S1
自重解析



E
S2
トンネル掘削
5000年
-75m
-75m
E
S3
トンネル支保工
5000年

-75m
E
S4
弾性解析
25,000年
-300m
-375m
E
S5
粘弾性解析
50,000年
-450m
-750m
VE
(※)自重解析 K0=1.15;トンネル掘削 D=20m 馬蹄形,土被りH=6160m(LH)
 ;トンネル支保工 合成支保工;強制水平変位 右端部境界条件
 ;E 弾性解析,VE 粘弾性解析


 各地層の物性値は上記論文に準じた。


 三要素粘弾性解析 Creep condition (Visco-elastic analysis)


Thrusts;MBT(red),MCT(green),STDS(blue), Revers Fault;BKTH
 各断層は、曲線による不連続面(接触面)モデルとした。

表-2 断層(不連続面)の入力物性値の例
物性名
記号
単位
入力値
断層名

STD
BKTH
MCT
MBT
【母岩】上層

TH
TH
HH
LH
ヤング率
GPa
50
50
80
60

kN/m2
5.0E+7
5.0E+7
8.0E+7
6.0E+7
ポアソン比
ν

0.25
0.25
0.35
0.3
単位体積重量
γt
kN/m3
26
26
29
29
粘着力
kN/m2
2.0E+4
2.0E+4
1.7E+4
1.5E+4
内部摩擦角
φ
deg
45
45
50
48
引張り強度
kN/m2
2.0E+3
2.0E+3
1.7E+3
1.5E+3
一軸圧縮強度
qu
kN/m2
4.0E+4
4.0E+4
3.4E+4
3.0E+4
【断層】





一軸圧縮強度
Qu
kN/m2
4.0E+2
4.0E+2
3.4E+2
3.0E+2
弱面粘着力
Cf
kN/m2
63.2
63.2
53.8
47.1
弱面摩擦角
φf
deg
30
30
30
30
弱面残留摩擦角
φfr
deg
15
15
15
15
弱面引張り強度
Tf
kN/m2
40
40
34
30
断層の厚み
Hf
1
1
1
1
法線方向剛性
Kn
kN/m2
5.0E+7
5.0E+7
8.0E+7
6.0E+7
接線方向剛性
Ks
kN/m2
2.0E+7
2.0E+7
2.96E+7
2.31E+7
(※1)岩 T=C/10,qu=2Cとした。
(※2)不連続面 Qu=qu/100,Cf=1/2*√(Qu*Tf),Tf=Qu/10とした。
(※3)固着状態Kn=E,Ks=G=E/2(1+ν);すべり状態Kn=E,Ks≒0
   (Sharma et.al.1976)


 境界条件水平変位、経過時間による鉛直変位(上昇変位)
 Displacement, Boundary condition; rightend Δx=-15mm/year
(1)5,000year,Δx=-75m,elastic analysis;Δy=7m(peak),9m(MBT)
(2)25,000year,Δx=-375m,elastic;Δy=33m(peak),90m(MBT)
(3)50,000year,Δx=-750m,visco-plastic,α=10,β=2.5E-7
   ;Δy=83m(peak),113m(MBT)


 主応力分布図 Main stress distribution
 境界条件の短縮変位が375mの場合は、主応力は水平方向が卓越する。


 最大せん断ひずみγmax
 硬質岩の限界ひずみは一般に0.1〜1%程度とされている。地表面に近い地層に1〜2%の最大せん断ひずみが見られる。


  S4における弾塑性試行解析による塑性域(赤線領域)
  MBT前面のシワリク層とヒマラヤ山脈背後の一部が破壊域に


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