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高階微分方程式(1) 


定数変化法による解法
2024.8.27
引用元「解析学教程 改版」,第7章微分方程式,大学自然科学教育研究会(1972)
1)定数変化法による線形微分方程式の解法
[定義 1]
2階以上の微分方程式を高階微分方程式といい、そのうちで
 y(n)+p1(x)y(n-1)+p2(x)y(n-2)+・・・+pn(x)y= q(x) (式3.1)
をn階線形微分方程式という. またq(x)≡0のとき、すなわち
 y(n)+p1(x)y(n-1)+p2(x)y(n-2)+・・・+pn(x)y= 0  (式3.2)
を同次n階線形微分方程式という.
微分方程式(式3.2)のn個の任意定数を含む解の存在と一意性はすでに知られている。そして,線形微分方程式には特異解は存在しないことが知られている.
[定理 1]y1(x) , y2(x) , y3(x) ,・・・, ym(x)が同次線形微分方程式(式3.2)の解であれば,これらの一次結合
 C1y1(x)+C2y2(x)+C3y3(x)+・・・+Cm ym(x)
もまたこの方程式(式3.2)の解である.
ここで,C1,C2,C3,・・・Cmは任意定数である.

[定義 2]関数の一次独立と一次従属
ある区間で定義されているm個の関数y1(x) , y2(x) ,・・・, ym(x)
において,
λ1y1(x)+λ2y2(x)+λ3y3(x)+・・・+λm ym(x) ≡0 (式3.3)
が,λ123 =・・・=λm =0でなければ成立しないとき,これら
m個の関数は一次独立であるという.一次独立でないとき,λ123 =・・・=λm =0以外にも,(式3.3)を成立させるλ123 ,λmが存在する,すなわち,λ123 ,λmのうち少なくとも一つが0でなくとも(式3.3)が成立するとき,これらm個の関数は一次従属であるという.
(例)eαxとeβxは一次独立か,一次従属か判定せよ.
[解]α ≠ βであれば一次独立である.
 1)eαxとeβxは,e>0であるから eαx>0,eβx>0
   かつ eαx≠eβx
  よって,λ12 = 0のときのみ,λ1αx+λ2βx ≡0
 2)α = βであれば一次従属である.
 恒等式は(λ1+λ2)eαx ≡0となるため,
 λ1+λ2=0すなわちλ1=−λ2≠0が存在する.

[定理2]ある開区間で(m−1)回微分可能なm個の関数 y1(x),y2(x),
y3(x) ,・・・, y m(x)が一次従属であれば、この区間で
次の行列式W[Wronskian:ロンスキアン]≡0の恒等式となる.
行列式W(y1(x) , y2(x) ,・・・, y m(x))=
 [1行目 y1(x) y2(x)・・・y m(x)
  2行目  y1'(x) y2'(x)・・・ y m'(x)
  3行目  y1"(x) y2"(x)・・・ y m"(x)
  m行目 y1 (m-1)(x) y2 (m-1)(x)・・・ ym (m-1)(x))]≡0
[証明]一次従属の仮定から少なくとも一つが0でないm個の定数λ1 ,
λ2 ,・・・ ,λmがあって,この開区間で,
λ1y1(x)+λ2y2(x)+λ3 y3(x)+・・・+λmy m(x) ≡0 となる
この式は恒等式のため、左辺と右辺の導関数も一致する.
したがって,
λ1y1'(x)+λ2y2'(x)+λ3 y3'(x)+・・・+λm ym'(x) ≡0 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
λ1y1(m-1)(x)+λ2 y2(m-1)(x)+λ3 y3(m-1)(x)+・・+λm ym(m-1)(x)
≡0
ここでm個の式をλiについての連立方程式とみなすと,
少なくとも1つのλi≠0であるから,yi(0〜m-1) (x)=0すなわちWの少なくとも一列が0となり,行列式の性質からW≡0となる.

[解説;行列式の性質]次の場合行列式の値は0となる.
1)1つの行(または列)のすべての元が0のとき
2)2つの行(または列)の元が等しいとき
3)2つの行(または列)の元が比例するとき

[定理 2]同次n階線形微分方程式のn個の一次独立な解を,その方程式の基本系とよぶ.(式3.1)のn階線形微分方程式の特殊解の1つをψ(x)とし,(式3.2)の同次n階線形微分方程式の解の基本系をy1(x), y2(x),
・・・yn(x)とすれば,
 C1y1(x)+C2y2(x)+・・・Cnyn(x)+ψ(x) (Ciは任意定数)(式3.3)
が(式3.1)の一般解となる.

(式3.2)の同次n階線形微分方程式の一般解
  C1y1(x)+C2y2(x)+・・・+Cnyn(x)
   (Ciは任意定数) (式3.4)
は特に(式3.1)の余関数とよばれる.

解の基本系が分かっている場合に,特殊解ψ(x)の求め方を,応用面の広い2階線形微分方程式の場合について示されている.
いま,2階線形微分方程式
 y''+ p1(x)y'+ p2(x)y = q(x)   (式4.1)
の余関数をy=C1y1(x)+C2y2(x)とする.
ここで,任意定数C1,C2を関数u1(x),u2(x)で置き換えて得られる関数
 y=u1 y1+u2 y2      (式4.2)
を考え,これが(式4.1)の微分方程式を満たす(解となる)ように,
u1(x),u2(x)を定めよう.
(式4.2)をxで微分してy', y"を求め(式4.1)に代入し,(式4.1)の同次方程式はq(x)≡0であることに留意して整理すると
 p1(x)(u1'y1+u2'y2)+(u1'y'1+u2'y'2)+(u1'y1+u2'y2)=q(x) (式4.3)
ここで求めたいものは(式4.1)の特殊解の1つであるから,次の条件
   u1'y1+u2'y2=0     (式4.4)
を付けて(式4.3)を考えると
   u1'y'1+u2'y'2=q(x)   (式4.5)
と簡単になる.すなわち連立方程式
   u1'y1+u2'y2=0
   u1'y'1+u2'y'2=q(x)   (式4.6)
を満足するu1',u2'は(式4.3)したがって(式4.1)を満足するから,このu1',u2'を用いた(式4.2)は微分方程式(式4.1)の特殊解の1つとなる.

 

定数変化法による解法の例
2024.8.27
2)解法例その1
Q;y"−(2/x)y'+(2/x2)y=1を解け.ただし,同次微分方程式の解の基本系は既知であって,x, x2とする.

A;y = u1(x)x+u2(x)x2とおく.次の連立方程式,
     u1'(x)x+u2'(x)x2=0
     u1'(x)・1+u2'(x)・2x=1 →u1'(x)+2u2'(x)x=1
の解は,u1'(x)=−1,u2'(x)=1/xであるから,
xで積分し,u1(x)=−x,u2(x)=log[x] ([  ]は絶対値)
よって,与えられた微分方程式の一つの特殊解は,
  y = −x2+x2 log[x]である.
したがって,求める一般解は,
y = C1x+C2x2−x2+x2 log[x]
∴y = C1x+( C2−1)x2+x2 log[x]

3)解法例その2
Q;トンネルの弾塑性問題の一例を検討する.
 Coulombの降伏条件式で,内部摩擦角=0のとき,
 応力関係式は σθ−σr=Sとなる.
 ただし,σθは円周方向応力,σrは半径方向応力,rは円形空洞の中心からの距離,Sは地山の一軸圧縮強度(定数)とする.
 この関係式に,軸対称問題のAiryの応力関数
 σr=(1/r)∂φ/∂r   (式 Airy1)
 σθ=∂2φ/∂r2      (式 Airy2)
を代入すると,∂2φ/∂r2−(1/r)∂φ/∂r=Sとなる.
この微分方程式をφについて解け.
【引用文献】:今田 徹(2010)山岳トンネル設計の考え方,土木工学社,第2章トンネル掘削による周辺地山の挙動,2.3弾性範囲を超える場合のトンネル周辺の応力pp.15-18;(ただし,以下の微分方程式の解法は当サイトの試行)


   図-1 弾塑性領域モデル

A;ここで,φ=f (r)とし,与えられた偏微分方程式は,2階線形常微分方程式として解く.
したがって,
d2φ/dr2−(1/r)dφ/dr=S
同次微分方程式の解の基本系は,r2/2およびA(定数)とする.
 ここで,φ=u1(r)・A+(1/2)・u2(r)・r2 とおき, ・・・(式1)
次の連立方程式を設定する.
   u1'(r)・A+(1/2)・u2'(r)・r2=0 ・・・(式2)
   u1'(r)・0+u2'(r)・r=S ・・・(式3)
式3より,u2'(r)=S/r  ,積分し,u2(r)=S・log[r]・・・(式4)
                    ※[  ];絶対値
また(式2)より,u1'(r)・A+(1/2)・(S/r)・r2=0
整理して,u1'(r)=−(1/2A)Sr となるから,
      u1(r)=−(1/4A)Sr2 ・・・(式5)
よって,φの特殊解は(式1)に(式4),(式5)を代入し,
   φ=−(1/4)Sr2+(1/2)Sr2log[r]
したがって,φの一般解は次式の形をもつ.
   φ=C2A+(C1/2)r2−(1/4)Sr2+(1/2)Sr2log[r]
  ∴φ=(1/2)Sr2{log[r]−(1/2)}+(C1/2)r2+C'2 (C'2=C2A)
               ・・・・引用文献 式(2.23)
 または
   φ=(1/2)Sr2log[r]+(1/2)(C1-(S/2))r2+C'2

 さらに,σrおよびσθを,Airyの応力関数で求め,境界条件を代入して積分定数を決定する.
先にφの一階偏微分と二階偏微分を求める.
∂φ/∂r=∂[(1/2)Sr2log[r]+(1/2) r2(C1−(S/2))+C'2]/∂r
     =Sr・log[r]+(1/2)Sr2・(1/r)+r・(C1−(S/2))
     =Sr・log[r]+Sr/2+rC1−Sr/2
∴∂φ/∂r=Sr・log[r]+rC1

 ∂2φ/∂r2=S・log[r]+Sr・(1/r)+C1
∴∂2φ/∂r2=S・log[r]+S+C1

したがって、軸対称問題(側圧係数k=1)のAiryの応力関数から
 σr=(1/r)∂φ/∂r=S・log[r]+C1
 σθ=∂2φ/∂r2=S・log[r]+S+C1

ここで,引用文献(2.14)にある掘削面の境界条件は
 r=aのとき,σr=pi(内圧)
  ※pi(内圧)は掘削面に作用する半径方向の支保圧力
この条件から
 σr=pi かつ σr=S・log[a]+C1
∴C1=pi−S・log[a]  ・・・積分定数の決定
したがって,当問題の解は次の通り.
σr=S・log[r/a]+pi ,σθ=S(log[r/a]+1)+pi
                ・・・・引用文献 式(2.24)

ここで距離c,すなわち半径cの円を弾塑性境界とすると,
σr,c=S・log[c/a]+pi ,σθ,c=S(log[c/a]+1)+pi
次に
弾塑性境界の条件式は次の通り.
σθ,c=2p(初期地圧)−σr,c ・・・引用文献 式(2.19)

したがって,弾塑性境界までの距離cが次のように導かれる.
 log[c/a]=(2p−2pi−S)/2S
    c/a=exp{(2p−2pi−S)/2S}
∴c=a・exp{(2p−2pi−S)/2S} ・・・引用文献 式(2.25)

 例として,p=50m×20kN/m3=1000kN/m2,pi=0(素掘り),
 S=1.0MPa=1000kN/m2,a=5mのとき
 c=5×exp{(2000-0-1000)/2000}=5×(1/2)=8.24m
 ∴壁面からの塑性域c−a=3.24m

 同様なモデルで,S=2.0MPa=2000kN/m2のとき
 c=5×exp{(2000-0-2000)/4000}=5×(0/4000)=5.00m
 ∴壁面からの塑性域c−a=0.00m すなわち塑性域は生じない

以上

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