境界要素法によるトンネル周辺主応力分布(Hoek & Brown,1982) |
---|
2024.5.8 |
(1)単一空洞の周辺応力分布〜主応力線を用いた流線アナロジー 「地下の岩盤に空洞を掘削するとそれまで岩盤内に存在していた応力は乱され、空洞のごく近傍の岩盤には新しい応力状態が発生する。この新しい応力場を説明する方法の一つに主応力線(principal stress trajectry)を用いる方法がある。主応力線とは、応力を受けた弾性体内部に主応力方向を連ねて描いた仮想の線である。さまざまな断面形状をもつ単一地下空洞周辺の応力分布を詳しく検討する時には、応力場の概念を理解する必要がある。その場合に役立つ類似の考え方は、滑らかに動いている水の流れを流線で表す方法である。」 図-1 円孔周辺に発生する最大および最小主応力線 図-2 円柱形障害物の周辺に発生する流線の曲がり (注)障害物直径の3倍の領域とは、図から障害物外壁から半径の2倍、すなわち直径の1倍(1D)の領域を表している。 (2)境界要素法による主応力分布図の特徴 著者は、「二次元境界要素応力解析法(2D boundary element program)は、応力開放をうける空洞周面を細かな線分要素に区分けし、一つの線分要素では同一応力とする解析方法で、有限要素法に比較し経済的な解析法」とした。 解析条件は、a)材料は等質、等方かつ線形弾性体、b)平面ひずみ状態、c)媒体は無限連続か、あるいは任意形状の有限外部境界で囲まれている、とした。また、初期地圧条件は深さ方向に増加する応力場により重力をシミュレートすることも可能としている。 図-3 境界要素法の概念モデル [A1]解くべき問題;応力場P(鉛直方向),kP(水平方向),奥行方向の長い空洞の任意の断面における周辺応力を求めること [A2]掘削予定線上の支保応力.σは垂直方向応力でτは接線方向応力.これらの応力は掘削予定線上の各部分の方向により各点で異なる. [A3]最終的な応力状態は、a)元の一様な外力状態とb)逆方向単位表面力(-σ,-τ)に発生する応力の重ね合わせたもの [A4]空洞の無いもう一つの無限プレートにおける仮想状態で,[A3]の空洞形状に対してプレート面上に仮想境界線を描き、要素に分割し順番に番号を付ける.要素1においてσ1=-σ1,τ1=-τ1となるような外力Fn1,Ft1を求め,順に各要素に計算を行い、これを境界の周りに何サイクルか繰り返し計算させ収束を確認する. 逆方向単位表面力による応力分布の計算が終わると,この応力分布に元の一様応力場の応力分布を加えて,求めるべき掘削後の応力を計算し,次いで弾性変位量を標準解を利用して求める. 図-4 円形トンネルの境界要素法による周辺の主応力分布 Pz:Ph=1.0:0.5,よって側圧係数k=Ph/Pz=0.5 実線コンタ:最大主応力/Pz,点線コンタ:最小主応力/Pz (感想)右半球側の主応力線図、右半球側の主応力コンタの分布はS.L.で上下対称に見える。壁面内空側の数字はKirschの解の類推で、壁面周方向の主応力値と推察される。 図-5 三心円トンネルの境界要素法による周辺の主応力分布 解析条件は図-4と同じで、空洞の形状が異なる。 (感想)主応力線図および主応力コンタから、トンネル中心線上で、主応力値及び壁面周応力は上半天端に比較し、下半底盤で、若干低下しているように見える。 [参考文献] 1)E.フック&E.T.ブラウン「岩盤地下空洞の設計と施工」小野寺透・吉中龍之進・斉藤正忠・北川隆 共訳,土木工学社(1985,S60) |
|
有限要素法(FEM)によるトンネル周辺主応力分布 |
---|
2024.5.8 |
(1)FEMによる円形トンネル周辺の主応力分布 外力(上載荷重1000kN/m2),k=0.5,上下左右対称 γt≒0(FEMソフトの都合でγt=1.0E-11kN/m3入力) 自重解析(h=50m,γt=20kN/m3),k=0.5,上下非対称 (2)「山岳トンネルのFEMにおける底盤の変位・応力を考慮した地山剛性領域モデルに関する弾性論的2,3の考察」2024.9.9 地質学会山形大会 【概要とスライド】 山岳トンネルFEM地山剛性領域モデルの弾性論的考察PDF ※万一,お使いのブラウザで上記PDFが括弧他の文字化けがある場合は、拡張機能の追加(Google ChromeならPDFviewerなど)で文字化けが解消するときがあります. (3)実際のトンネル周辺の地中応力について これまでの考察から,従来のトンネル工学の基礎的弾性理論は,地山の自重,寸法効果を考慮せず,主に円形断面で均一な二軸応力場を前提としたものであることが分かります。 一般的な土木設計計算の対象となる土被り100m以下程度の地盤状況に則する自重下のトンネル掘削に対し,FEMから類推される実際の地中応力と変位について次の仮説を示します。 (仮説1)トンネル掘削時の地中応力は,断面形状,側圧係数,土被り圧が同じ場合,施工ステップ(断面分割)や支保構造の違いにかかわらず,トンネル周辺で概ね同じ強度と分布をもつ. (仮説2)トンネル掘削時の壁面変位は,剛性領域の分布,支保構造,施工ステップ(掘削解放力の分割率)に大きく影響される.底盤直下地山は除荷時の剛性アップがあるが,その後,除荷剛性の低下と応力再配分が進み,底盤隆起量が最終的に絶対値で天端沈下量と同等かより大きくなる. (仮説3)膨張性地山の施工時の後荷現象は,地中応力分布の変化は小さいが,応力開放(粘弾塑性的挙動)や地山の劣化(吸水膨張)によって,剛性領域の強度と分布が大きく変化するために生じる. 【展望】トンネル周辺の地山挙動を適切に把握するためには,地中応力の初期値が重要であり,Terzaghiの地山分類によるトンネル荷重表を計測結果で深掘りする実務的研究が重要と思われる. [参考文献] 1)E.フック&E.T.ブラウン「岩盤地下空洞の設計と施工」小野寺透・吉中龍之進・斉藤正忠・北川隆 共訳,土木工学社(1985,S60) (研究中) |
|