造山運動論の変遷(古典的) |
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2024.12.22 |
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何故、山脈はそこにあるのか、どのように山脈は形成さえるのか、これは「造山運動論」(Theory of Orogenic movement)と呼ばれています。 歴史的には、山脈の形成は、第二次世界大戦前から戦後の1960年代まで、地球収縮論(地球全体が断続的に収縮することで地球にしわ、すなわち山脈が形成される)、および地向斜論(地向斜における厚い堆積物の堆積とその後の花崗岩体貫入による隆起により山脈が形成される)、が学会として主流となっていました。しかし、アルフレッド・ウェーゲナーの大陸移動説が、戦後の1970年代にプレートテクトニクス論によって拡張されてから、この新しい概念といわゆる放散虫革命と呼ばれる地質年代の見直しにより、造山運動の地史が再構築され全く書き直されることになりました。 【出典】都城秋穂・安芸敬一編「変動する地球V−造山運動−」岩波講座 地球科学12,265p,1979.1) 第1章 pp.1-34 第1章 古典的造山論(執筆 ジェラル・シェンゲォル A.M.Celal Sengor, 訳 都城秋穂) §1.1 Eduard Suessより前の時代の造山論 a)19世紀より前の地球科学的観察 Niels Stensen(Nicolaus Steno) "De solido intra solidum naturaliter contento(1969)" 岩石がその生成後に変形を受けることを明らかとし、さらに 北イタリアEtruria地方の構造的発達を論じ、「変形は地下の空洞に 落ち込むか、火山作用で押し上げられたときに起こる」考えた. b)19世紀の,Suessに至るまでの造山論 i) Wernerの水成論 ドイツ/Abraham Gottlob Wernerの水成論(Neptunism) フライブルク鉱山学校,全ての岩石は水成・堆積岩 A)マグマの押上げによる隆起説 ・スコットランド /James Huttonの火成論 著書「地球の理論」 ・Leopold von Buch(Wernerの学生だった)の水成論から火成論へ 「火山の成因は、隆起火口説を提唱」 「すべての山脈は火山作用によって引き起こされた垂直上昇運動 によって生じた」と主張 ・Bernhard Studer:1851〜53年,スイス・アルプスの地質構造は、 中軸帯に多くの花崗岩体が露出し、その両側、北と南には堆積岩 と変成岩の地帯が分布し、アルプスの隆起は中軸の花崗岩マグマ の押し上げによる考えを説いた. B)しかし「地球収縮説」がその後100年世界の造山論を支配した。 〜Elie de Beaumont "Notice sur les systemes des montagnes(1852)" 「地球の収縮(contraction)によって生じる横圧力で山脈が出来る」 「山脈の形成年代は変形を受けている最も若い地層より新しく, それを不整合に覆う非変形の地層より古いものとして経験的に 決定できる」, 「山脈の形成は全世界的規模で同時に起こると考え、それによって 地球の歴史を時代に分けることが出来る」と考えた. そのころ、北アメリカ、アパラチア山脈では、横圧力による山脈の 形成という考えは広く受け入れられた(Rogers兄弟,1843). また,James Dwight Danaは鉱物学や動物学でも権威であったが、 地球収縮に基づく水平圧による山脈形成説の熱心な支持者であった (1866,1873). ただし,Charles Lyellは"地質学原理(Principles of Geology)" のすべての版で、この造山の世界同時性という考えに反対した. この時代までのテクトニクスは,わずかな局所的観察と大量の思弁 に基づくものであった. §1.2 Eduard Suess(1831-1914)と彼の時代 a) 地向斜の観念の始まり ・イギリスの天文学者John Herschelによる堆積物の重さによる 地殻の押し下げ説(地向斜およびアイソスタシーの観念の萌芽) ・ニューヨーク州地質調査所所長のAlbanyのJames Hall(1859) アパラチア山脈の西縁に異常に厚い浅海性古生層が堆積している ・J.D.Dana(1894)は地球収縮説に基づき,地殻の水平方向の短縮が 細長い沈降地帯の形成の原因と考えた.その沈降地帯は一種の向斜 であって,それに伴う背斜が出来る.アパラチアでは背斜は向斜の 東側にあって,そこからの堆積物が向斜を満した. これらの巨大な地殻褶曲の形成後,造山変形が激発するとし, 巨大な向斜をgeosynclines(地向斜),背斜をgeanticlines (地背斜)と呼んだ. b) Suessの"Die Entstehung der Alpen"の出版 ・Suessはボヘミアや東アルプスの注意深い観察で知られた. ・アルプスの成因と造山帯やテクトニクスに関して一時代を画する 概念や考え方を提唱した. ・世界の造山帯の大部分は非対称構造をもつことを示し,その原因を 地球の収縮による地殻の水平運動に帰した. 例えば,アルプスの場合,北部は褶曲を受けスラスト(衝上断 層)が発達し,南部は急傾斜で断層運動を受け部分的に沈降して いる.ヨーロッパの山脈の主なフェルゲンツVergenz(背斜軸面の 倒れ,スラストや押しかぶせ運動の方向)は北向きで,アジアで は山脈のVergenzは逆に南向きである. ・Beaumontは造山運動は世界的規模で短時間に起こるとしたが, アルプスの場合は山系の発達は中生代に始まり,おそらく洪積世 までの長い期間続いた事を示し反証とした. c) Albert Heimの著作 チューリッヒ工業大学教授 Heim 山脈構造論(1878) 詳細な野外観察と豊富なスケッチから成る構造地質学上の古典 d) Marcel Bertrandの2つの新解釈 @)ナップ構造の発見 参考図-1.スイスアルプス Glarus(Helvetナップ群)の褶曲構造2) 上図 始新統にペルム系〜白亜系の完全な地層が乗る. 南北に対向した二つの押しかぶせ褶曲とした解釈 チューリッヒ工業大学教授 Heim 山脈構造論(1878) 下図 南から北に大規模に移動したナップ(nappe) フランス地質調査所の技師 Marcel Bertrandの新解釈 A)大陸の安定化(stabilization) Suess, Bertrand ヨーロッパ大陸が北から南に順次発達し安定化した. 参考図-2.ヨーロッパ大陸原剛塊・バルト楯状地の安定地塊と 造山帯(礫印:カレドニア,砂:ヘルシニア、網:アルプス)3) e) Suessの大著"Das Antlitz der Erde" 世界の各所から報告されつつあった地質学上の文献やデータを 整理,解釈した大事業を才能と資力によって遂行した. 第1巻;変形や火山などの理論的問題,世界の山脈の記載 第2巻;古生代,中生代,第三紀の大洋に関する詳しい記述 世界的な広域の海進と海退をユースタティック(eustatic) な運動と呼んだ. また,太平洋と大西洋の海岸地形を比較し,前者はいつも 褶曲山脈をもち,後者はもたない事を論じた. 第3巻(T);大部分はユーラシアの造山運動を論じた. シベリアIrkutsk円形劇場と呼んだ地域が全アジア大陸の 成長の核で,この核を中心に同心円状に新しい造山帯が つけ加わった. ・アジアの後期古生代山系 Altaids ・ユーラシアの古い核を含む北方大陸 Angara-Land ・アフリカ-インドを含む南方大陸 Gondwana-Land 寒冷気候を示すグロソプテリス-シダ植物群化石共通 ・上記二つの大陸の間の海:テーチス海 Tethys 参考図-3.古生代石炭紀のゴンドワナ大陸と北方大陸 4) 南のゴンドワナ大陸と,北のアンガラ大陸・ローレンシャ大陸 (北大西洋大陸)の間の東西に細長い海がテーチス海 第3巻(U);世界の造山運動,テクトニクスを論じた. ・東アフリカ沈降帯〜断層によって限られたグラーベン(地溝) ・太平洋の周りの深い海溝は大洋底が大陸に向かってunderthrust ・地球の内部構造〜地球の核nife,シマsima,シアルsial ・バソリスbatholith(広域な深成岩体)の術語を造語し, 先カンブリア時代安定大陸のグリーンストーンを論じた. ・火山地域を扱い,火山現象を構造運動に伴う二次的現象とした. ・造山運動におけるアイソスタシー説を否定 ・造山帯の安定化を論じた. ・横圧力によって向斜を作った海は地球上に見当たらないとして, 地向斜の存在を完全に否定した. §1.3 Eduard Suessより後の古典的理論 (1)Hans Stille, Leopold Koberの地向斜造山論 ・Stilleの世界像 1)地殻を変動性の高い地帯である地向斜(Geosyncline)と 変動性の低い地帯のクラトン(Kraton):安定地塊に区分 参考図-4.世界の造山帯 都城秋穂・安芸敬一編「変動する地球V−造山運動−」表紙の見返し 1) 黄色:中生代・新生代造山帯,黄緑:古生代前期(いわゆるカレドニア期)および古生代後期(いわゆるヘルシニアまたはヴァリスカン期)造山帯 ハッチ:先カンブリア紀の楯状地(約25億年前より古い時代の太古代地域とそれより新しい原生代地域に区分),および卓状地(後の時代に楯状地の上にほとんど水平堆積岩がのっている)に三区分されている. 2)地向斜をアルプス型山脈をつくる正地向斜(orthogeosyncline) とドイツ型山脈をつくるに過ぎない準地向斜(para〜)に区分 3)さらに、北アメリカ・コルディレラの層序を分析し、 正地向斜をユウ地向斜(Eu〜)とミオ地向斜(Mio〜)に2区分 (a)ユウ地向斜:堆積物がより厚く、深海堆積物や火山岩類が 多く含まれ、変形運動が早い時期に始まり激しい地帯 (b)ミオ地向斜:主に浅海の堆積物で、火山活動が極く少なく、 変形運動の開始が遅く始まり弱い地帯 表-1 地向斜の分類(Classification of Geosyncline)
4)地向斜のメカニズム;いずれも地球の冷却・収縮によって 起こる横圧力のために生じたとした. 5)造山帯の発展(geotectonic cycle):地向斜状態→造山運動→ 準クラトン的状態→完全クラトン的状態 6)火成活動のサイクルの提唱 (a)正地向斜発展初期にユウ地向斜に起こる玄武岩質噴出と貫入岩 オフイライト性または非オフィオライト性(初期火成活動) (b)造山期深成活動;地向斜の圧縮で地殻が厚くなり,地殻深部 の融解がおこるため,シアル性プルトン(花崗岩類)が貫入 (c)続造山期火成活動;準クラトン的状態の主にシアル性火山活動 (d)造山が終わり完全クラトン状態の玄武岩質終末期火山活動 参考図-5. 地向斜の発展(造山輪廻)5) (1)幼年期;安定地塊のまわりの沈降がはじまる. (2)青年期;地向斜底の沈降の進行と厚い堆積物(主に水深200m前後で堆積した地層が全層厚1万mに達すると認識される),初期火成活動(玄武岩質の枕状溶岩,輝緑岩Diabase,輝緑凝灰岩schalstein) (3)壮年期;地向斜深部の花崗岩マグマの生成と地向斜の隆起 (4)老年期;山脈が風化,侵食,平坦化をうけ新しい大陸塊となる A:花崗岩層,B:玄武岩層,C:マントル物質 (2)s:地向斜に堆積した水成岩(青年期には玄武岩質の火山岩をはさむ) (1),(2)b:地向斜底の上部マントルがとけてできた玄武岩質マグマ (3)g:花崗岩層や地向斜物質がとけてできた花崗岩質マグマ 変成岩(片麻岩)→ミグマタイト→花崗岩質成分のマグマ生成 (4)a:玄武岩質と花崗岩質のマグマが混じり合って出来た安山岩質マグマ (2)大陸移動説 1)Alfled Lothar Wegener(1880-1930)の大陸移動説 「大陸と大洋の起源」(1915-1929) 2)Emile Argandの大陸移動説による造山論 アルプスの造山運動を再考し,アジア全体の造山運動を論じた. (3)その他の造山運動説 1)Ampfererterの底流説〜造山帯の位置に向かって収束し、 そこで下方へ沈み込むような地殻下の流動を仮定 2)Haarmannの振動説〜地殻の上昇が構造運動の1次的要因で、 スラストを作って重なる岩層や山脈形成という水平運動は、 2次的過程に過ぎないとする説 3)ロシア学派(M.M.Tetyayev, V.V.Belousov)の地殻上下運動を 重視する造山運動 【引用文献】 1)岩波講座 地球科学 12 変動する地球V−造山運動− 都城秋穂・安芸敬一編,265p,1979. 2)「地球科学の歩み」今井 巧・片田正人,共立出版,1978,p.136. 3)「地学精義」三訂版,片山信夫,培風館,昭和42年(1967),pp.248-253. 4)「地学の語源をさぐる」歌田 勤・清水大吉郎・高橋正夫,東京書籍,1978,pp.72-73. 5)「地球の歴史」第二版,井尻正二・湊 正雄,岩波新書,1974,pp.143. |
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造山運動論の変遷(日本列島の地向斜論) |
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【出典1】市川浩一郎・藤田至則・島津光夫編,「[日本列島]地質構造発達史」築地書館(株),232p,1970年4月25日.6) [書籍紹介文・箱裏面]本書をとりまく、千島列島・日本列島・琉球列島などの弧状列島の形成史を明らかにすることは、今日の地球科学の重要な課題である。なかでも、日本列島については、わが国の学者による研究が深く進められているため、その成果は内外から広く注目をあつめている。本書は、英文の大著 "THE GEOLOGIC DEVELOPMENT OF THE JAPANESE ISLANDS" (1965年、築地書館)の骨子を生かし、20数名の新進・中堅学者により、最新の資料により書きおろされたユニークな学術書である。 (1)日本列島の先地向斜時代 (2)地向斜時代と本州変動 (3)本州区と外側の中生代地向斜 参考図-6.日高造山運動 北海道中軸帯の東西断面図(橋本誠二原図)7) 地名:T 豊頃丘陵,H 日高山脈,W 日高西縁帯,K 神居古潭帯 I 石狩炭田 地層:C 先カンブリア系,P 古生層,J ジュラ−トリアス紀層 Cr 白亜紀層,Tp 古第三紀層,Tn 新第三紀層 岩石名:B 輝緑岩,U.B かんらん岩・蛇紋岩,Gn 片麻岩 Mig 混成岩(Migmatite),Gr 花崗岩 断面:1 地向斜の終末期(幼−青年期),2 造山運動の早期(壮年期) 3 造山運動の終末期−現在(老年期) フリッシュ(Flysch)帯8):地向斜物質を不整合に被覆する細粒堆積物 石狩炭田,および夕張山脈西側の上部白亜系や古第三系 モラッセ(Molasse)帯8):礫岩をはじめ粗粒な堆積物から成る フリッシュ帯の外側の日高海岸から石狩炭田の西側の新第三系 (4)島弧の時代 (5)島弧としての日本列島 【出典2】造山帯の研究会編 代表 湊 正雄,「世界の造山運動1,ヴァリスカン造山運動,日本と中部欧州」,共立出版(株),144p,1981.3.1 9) T 序論 参考図-7.欧州の構造地質区分 (H.Stille,1924) 9) U ヴァリスカン造山帯の基盤 V 安倍族造山と欧州のヴァリスカン W 総合討論 【引用文献】 6)「[日本列島]地質構造発達史」市川浩一郎・藤田至則・島津光夫編,築地書館(株),232p,1970年4月25日.6) 7)「日本列島」第三版,湊 正雄・井尻正二,岩波新書,1976,pp.119. 8)「地層学」第2版,湊 正雄,岩波書店,1973,404p, 9)「世界の造山運動1,ヴァリスカン造山運動,日本と中部欧州」,造山帯の研究会編 代表 湊 正雄,共立出版(株),144p,1981.3.1 (研究中) |
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