GEOENG 地質学と建設コンサルタント(理学と工学の融合へ)

ソ連学派の深部構造論


深部地質学の地体構造論(ベロウゾフ)
2019.8.11
 地球科学第46巻3号(1992年5月)p251-260
 V.V.ベロウソフ,プリローダ,1991.7 地学団体研究会(翻訳紹介 新堀友行)

 旧ソ連の地殻深部にいたる地球物理学的データ(地震波速度)やコラ半島の深部研究ボーリングの地質データを用いて、地殻表層の地質構造が地殻下部〜マントルにかけての透過率や熱構造によって規制されている(陸化に転化する前の造山帯である地向斜や大洋の中央海嶺は、特に地下で大きな透過率と熱の広範な分散がある)とする説、および大陸海洋化説(大陸地殻の薄化は交代作用による)、両説の提唱者であるベロウゾフ本人がその概要を解説している。
 近年、プレートテクトニクスは一般化し、中央海嶺で形成した海洋地殻は上部マントルの一部とともにプレートを作り、これが遠路大陸・島弧縁辺の海溝まで送られ沈み込む(サブダクション)とされ、プレートの沈み込みに起因し海溝型地震や火山活動が生じるモデルが広く認知されている。
 しかし、一方、地球全体のトモグラフィー解析によって、近年、丸山らによってマントル内の不均質な対流や地殻のマントルへの沈降などを地球表層のプレートテクトニクスと関連付けようとする「プリュームテクトニクス」が新理論として提唱されており、地球深部の物性の不均質性と地球表層の地質構造を関連付けた実質的なベロウゾフのテクトニクス研究は再評価、再解釈されるべきものと思われる。

 以下に、論文から注目した箇所を挙げてみる。

「最近の数十年間、ソ連内で総合的な地質、地球物理学、地球化学的調査が行われてきたが、それらは、地殻の深部層及びその下の上部マントル、すなわち内生的過程−構造運動、火成作用、変成作用−の至近な原因が集中している構造圏全体の構造、状態、物質的組成を解明することを目的としていた。」
「これらの調査の結果、非常に大雑把ではあるが、きわめて非均質性が、地殻上部層だけでなく、地殻下部層と上部マントル、すなわち構造圏全体にもみられる。」
「構造圏の深部層では、次のような非均質性が地球物理学的方法によって明らかにされている。すなわち、モホ面の深さの変化や地震垂直断面にあらわれた屈折波と反射波による境界面の異なる分布とか、弾性・密度・電気伝導度を異にする様々な構造体の地殻・上マントル中の分布と言った非均質性である。地熱熱流の密度や地震活動に現れる構造圏のエネルギー状態も異なる。」

「内生的様式は、造山運動、台地、大陸性リフト、構造運動・火成活動の活発化、玄武岩台地、造海溝運動、大洋盆、大洋島弧、中央海嶺の諸様式に分けられる。」
「内生的様式の活発さが熱によるものであると考えると、ふつう活発な様式が構造圏の深部(地殻下部でも上部マントルでも)で、地震波速度と密度が小さく、電気伝導性の大きな物質溜りを伴っていることが容易に理解できる。このような物質溜りは、層、レンズ、ダイアピル体(アスセノリス)、不定形な団塊などの様々な形を持っている。このような不均一性は、地殻中ではおそらく物質の軟化と含有水分の増加と、これに対して上部マントルでは部分的溶融の場所と関係があるのであろう。」

「コラ半島での深部ボーリングでは、4.5km-7.5kmの深さのところで、前期原生代の変成岩中にかって存在した徴候を示す空隙が発見された。これらの空隙はおそらく閉じた系で岩石が加熱され、そのとき鉱物の脱水が生じ、分離した水の圧力で岩石に亀裂が出来き、それがその後大きくなった結果生じたものと思われる。」

「マントル上部の密度が小さくなっている現象がかなり広く認められる。そこでは普通の地震波速度(8.1-8.2km/s)ではなく、それよりも低い地震波速度(7.6-7.8km/s)が観測されるから。リフト帯、造山帯、中央海嶺および造海溝運動様式の地域は、このようになっている。」





 ユーラシア大陸中央のウラル山脈及びカスピ海東方、西シベリアからカザフスタンにかけて、薄化した大陸地殻が分布している。

「大陸地殻の厚さは平均40kmであるが、造山帯ではまれに厚い(60km、まれに70kmに達する)。造山運動様式は地向斜様式だけでなく台地様式の後にも起こるので(エピ台地造山運動)、その開始は地殻の厚さの増大と関係がある、と考えるべきであろう。」
「造山帯の特徴は、固結した地殻中における平均の地震波速度が相対的に低いという点である(台地の6.3-6.4km/sに対し6.2-6.3km/s)。」
「しかし、地史ではこれと反対の過程、すなわち極端な場合には完全に尖滅し、大洋地殻と交代するまで地殻が薄くなる過程もみられる。この過程は。『造海溝運動様式』と私が名付けたものが発達した地域にみられる。」
「造海溝地域の固結した地殻中の平均地震波速度は、造山帯はもちろん、台地よりも大きい(6.4-6.5km/s)。このような密度の増大は、花崗岩層の欠落、再生を伴わない、したがって堆積物はグラニュライト質塩基性岩の上に直接のっている。」
「中央部に花崗片麻岩層がなく、堆積物がグラニュライト質塩基性岩の上に直接のっている凹地としては、沿カスピ凹地がある。
 新生代の造海溝運動の典型例として次の各地を挙げている。
1)パノニア盆地;古生代末中央地塊が鮮新世に薄化した。地殻厚さ23-26km
2)エーゲ海;中新世に陸地、最終的な沈降は更新世中期に開始。大陸地殻厚さ25kmに過ぎない。
3)地中海の東のレヴァンチン凹地;大陸地殻はさらに薄く12-15km。
4)チレニア海;大陸地殻は周辺部と中央部に点々と残る。堆積物のすぐ下に大洋型玄武岩が横たわっている。
5)アルジェリア−プロヴァンス凹地;大陸地殻の点在も消滅し、地殻は全く大洋型になっている。
6)極東の縁海;これらの縁海の一部は大陸地殻の上にあり、大陸地殻は海が深いほど薄くなっている。水深が2000-3000mの海では大陸地殻が大洋地殻と交代している。



 図2 地殻と上部マントルの熱力学的状態と組成変化にもとづく地球の内生的様式の進化の模式図(一部)
 1:水、海水
 6:マントルに沈降中の大陸地殻のブロック
 7:大洋地殻変成作用を受けた上部マントルの枯渇層
 9:部分的溶融状態
 19:深部の高温ダイアピル体(アステノリス)
 20:中部マントル

「大陸地殻の薄化は、上部マントルから高密度の塩基性、超塩基性物質が大陸地殻に貫入し、より酸性の地殻物質と交代したためだ、と仮定できる。」
「(ここでは)上部マントルの上部層が強く熱せられ、密度が著しく減少したために、マントルと地殻の間に密度の逆転が起こり、地殻は次々に塊状に割れ、しだいにマントル中に沈んでいったのではないか、と仮定だけを述べておこう。」
「造山運動様式の場合は、マグマはカルク・アルカリないしアルカリ性で、造海溝運動様式の場合はソレアイト性である。」
「大洋盆も造海溝的凹地とみなすのが自然である。」
「大洋盆の冷たいマントルと縁海の高温のマントルの境界になっているのはベニオフ帯で、それに沿って低温でより密度の高い大洋のマントルが、移行帯の高温で密度の低いマントルの下に流れ込んでいる。」

以上 私が主にピップアップした内容の一部です。

海洋底拡大説についての検討
2019.2.17
 地球科学第46巻5号(1992年9月)p355-361
 「拡大しない大洋 The World Ocean without Spreaging」
  E.M.Ruditch著
 地学団体研究会(紹介 藤田至則・小玉喜三郎)

 中央海嶺で生じた玄武岩層を主体とする海洋地殻がベルトコンベアのように送り出し運搬され、海溝から大陸地殻や島弧の近くに沈み込む(サブダクション)とする「海洋底拡大説」のプレート内での実態に基づく検証が当然必要であろうとする研究が存在する。
 著者は大洋底の地質は一様なものではなく、「今日の大洋リフト(中央海嶺)は、プレート、すなわち大洋リソスフェアを生産する工場ではなく、マントル物質を地上に運ぶ道を確保しているゾーンである。」とし、画一的なプレートテクトニクスの見方を批判している。



[訳者まえがき]
 『1968年から、世界の主な国の地球科学者たちによって、アメリカ合衆国の深海掘削船を用いた世界の大洋の深海底における402点にのぼるコアの採取と、それらについての解析が行われ、その結果が公表されてきた。
 著者はこれらの公表資料にもとづいて、今日の大洋の深海の地質の層序と地質構造を構成し直し、その結果がヴァイン・マシューズ説による大洋拡大に否定的であるとのべると同時に、それらの解析結果とベロウゾフにより提唱されている大洋化説によって、世界の大洋の深海部で中生代から現世にかけて展開した、堆積環境や地質構造などの発達についてのべている。』
[内容の抜粋]
第1部 世界の大洋の深海部における中生代−新生代の浅海層について
 第1部では導入部、大西洋、インド洋、太平洋、そして浅海相と大洋の沈下運動に関するダイナミクスなど5項目について記述している。
 1)世界の三大洋の深海底には、三畳紀から現世にかけて、3000m以深の海底に堆積した深海層だけでなく、200m以浅に堆積した浅海層や、200〜3000mといった相対的な浅海層−近海と半深海層−が分布している。
 2)大洋の深海部では、ジュラ紀中〜後期から現世にかけて、浅海型から次第に浅海〜深海混合型へ、そして最終的には深海型のものが卓越してきたと思われる。(中略)深海層が浅海層より優勢に現れる最初の年代は、太平洋では白亜紀後期、大西洋では(古第三紀)暁新世、インド洋では(古第三紀)漸新世となっている。など
 3)三大洋の深海部ではしばしば年代の異なる浅海層が、それぞれ2層から4層ほど互層をなしている場合がある。これらの関係は、1つには「浅海層の間に深海層が挟在する場合」、もう1つには「ハイエタス−時間の間隙−で浅海層同士が境されている場合」である。
 例えば、「図-1、図-2の316地点のものは、白亜紀末期から暁新世初期にかけて、深度が(200m以浅から)1000m以上も増大し、再び暁新世中ごろから深度が減少して浅海化し、漸新世中期以後に再び深度が増して、そのまま現在の3000m以深へと深海化したと解釈している。」
 4)上記の中生代後期以後の、深海部における様々の年代の浅海層の分布は、(当サイト注釈;中央海嶺から時代を追ってベルトコンベア式に離れるにつれて単調に浅海層から深海層が塁重する)大洋底拡大を説明するヴァイン・マシューズ説のモデルを否定していると述べている。

第2部 中生代〜新生代における世界の大洋の展開
 過去1億6000万年における世界の大洋地質構造の造構的展開の中で、ベロウソフが提唱している大洋化作用の見方で、大洋の深海の地質構造を解釈している。
 A.大洋化様式 中生代と新生代に分け、太平洋、大西洋、インド洋ごとに、それぞれ年代順に各海盆の構造図を説明している。
 B.リフト様式 新生代に火山活動を主活動とし、線状か帯状でリフトを伴う。世界の大洋における一連の海嶺〜海膨の示す大洋のリフト系の形成過程をのべている。

(以上 当サイト抜粋)
     

inserted by FC2 system