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アルカリ骨材反応対策


ASR診断のあるべき姿
2017.5.27
アルカリ骨材反応は、コンクリートの基質すなわちセメントペースト中のアルカリ(Na,Kイオン)と骨材岩石の鉱物化学的反応を指しコンクリートのがんとも呼ばれる現象です。
このページでは主にアルカリ骨材反応(ASR)による化学的劣化を取り上げます。

【ASR重要文献の紹介】現時点の最新一般公開報告書
2014年版「ASR診断の現状とあるべき姿研究委員会」報告書
(公益社団法人)日本コンクリート工学会,2014.7.,482page.
(注)ASR=Alkali Silica Reaction;アルカリ・シリカ反応)

第T編 ASRのリスクと制御
第U編 委員会からの提案
第V編 委員会報告書
 1.ASR診断フロー
 2.岩石学的診断
 3.抑制対策の現状と今後のあるべき姿
 4.試験法の提案(コンクリートプリズム試験など)
 5.既存規格の修正の提案
巻末資料
 分析機関12の試験結果(ただし、問題が多い)

はじめに,あとがき
(委員長の文面で,委員会の詳細な経緯が分かります)
01_2014ASRhajimenihoka.pdf

【抜粋・要約】第1編 ASRリスクと制御
02_2014ASRbassuiyouyakudaiitihen.pdf

[特徴]
・国際学会RILEM(ライレム)によるリスク区分、構造物区分によるASR診断と配合及び劣化対策方針の適用と考慮の必要性
・偏光顕微鏡によるコンクリート組織、反応性シリカ鉱物の反応状態観察が重要(組織、いわゆる産状)
・アルカリ-シリカ反応確認のための信頼できる試験として、従来のモルタルバー試験に代わり、促進(加速)コンクリートプリズム(四角柱、75×75×250mm)試験を提唱する。供試体は実配合コンクリートとし、アルカリ溶液(1.5mol/gのNaOH)を十分に含ませた不織布に包み、温度60℃の容器内で保存しつつ、6か月間の長さ変化を測定する試験。


ASR診断の具体的方法
2017.5.27
第U編 委員会からの提案
 1.構造物の重大性レベル
 2.ASR診断フロー;一般レベルと高レベル
 3.抑制対策;構造物の重大性とASRリスクレベルによる
 4.促進(加速)コンクリートプリズム試験方法

【抜粋・要約】第U編
03b_2014ASRbassuidainihen.pdf

第V編 委員会報告書
 1.ASR診断フロー;国際学会RILEM(ライレム)を参考とした詳細な解説

 2.岩石学的診断:SR診断の具体的方法には次の肉眼観察(ルーペ・実体顕微鏡含む)、コンクリート試験、化学分析、偏光顕微鏡、精密化学分析機器などがあります。

・従来、カナダ等でアルカリ炭酸塩鉱物反応と呼ばれてきたものは、微細な石英粒とアルカリの反応であることが判明している。

・アルカリ-シリカ反応ゲルは反応個所からの距離や時間経過によって、セメントの通常水和物C-S-Hの化学組成に近づき、結果、アルカリ含有量が著しく低下し、カルシウム-シリカゲルとなる。

・このためEPMA等の精密機器による局部分析で、反応生成物(ゲル)に含まれるアルカリがかなり小さくても、骨材を割ってセメントペーストに走る反応生成物に充填したひび割れ(脈状)や気泡がある場合は、アルカリ-シリカ反応が生じたことを認識できる。

 3.抑制対策の現状と今後のあるべき姿

 4.試験法の提案(コンクリートプリズム試験など)

 5.既存規格の修正(改良)提案
 コンクリートASR反応性判定試験法JCI-AAR-3修正案
 およびコアの促進膨張試験法JCI-DD2修正案

巻末資料
 分析機関12の試験結果;各社への試料提供や各社の方法に大きなばらつきがあり、厳密に比較評価するのは問題があると考えられます。
 判定試験に関するこの試験機関への依頼は、試料が編集側から一方的に送られたもので、試験機関による選定ができないものであった。また、良い評価の与えらえたものに全く偏光顕微鏡写真のないものがあり、理由が観察に耐えうる薄片が出来なかったと報告されている。このような判定が実務に耐えうるものでないばかりか、手書きの肉眼によるコンクリートのスケッチのみが添付されており、ある種の権威ある試験者だとすれば、このような低い次元の判定結果を公表するのは遺憾だと思っていらっしゃるに違いない。
 また、明らかに岩石学や鉱床学や温泉・地熱に関する変質鉱物学に優れている観察者が関連業務として行っている会社では、初生の岩石鉱物もセメント鉱物も緻密に観察し記載票を作成している一方で、コンクリート診断の結論が過去に東大生産研や鉄道技術研究所の研究者が公にした文献から判定されていることを、片山氏ら編者は低評価している。これは全くナンセンスであり、片山氏ら編者は批判の矛先が全く違っていることが、委員会報告書としての権威を貶めたことになっている。また、観察結果と判定結果を分けて評価するべきである。
 このように、このコンクリート工学会の委員会報告は、内容が優れているものの、日本のアルカリ骨材反応の判定技術を向上させようとする意図は評価できるが、その行いは批判されるものと考えられる。立ち向かって議論する方向が間違っている。
 ちなみに最も評価された某セメント会社の研究所の判定は片山氏の最新の研究に沿った優れたものであるが、このよう診断をするためには、一般に行われているより多くのコンクリート試料、コンクリート薄片、反射顕微鏡観察(これは先の鉱床学や鉱物学者が最も得意な観察法)、EPMA分析を駆使しているわけで、試料も手法も異なる分析、診断ではほとんど比較ができないと思われる。
 このような、問題の多い公式な委員会報告が特に異論なく出版され、全国でこの書による講習会が行われたことは、土木工学関係者には地質学、岩石学、岩石記載学、岩石鉱物化学の基礎知識がほぼ皆無であることによると言ってよい。他の土木・建築関係材料試験のJIS等のように判定方法の規格化が強く望まれる。かつてASTMには判定試験方法の基準書があり、L.Dolar-Mantuani氏の「Handbook of Concrete Aggregates,A Petrographic and Technological Evaluation(1983)」も出版されている。このような方向性の基準書が日本社会全体のために必要と思われる。

【概要と目次】第V編
04_2014ASRgaiyoumokujidaisanhen.pdf

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