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地層処分の地質科学的問題


酸化・還元・地下水等の地質環境とバリア機能
2017.8.30
【高レベル放射性廃棄物その1】
1.地質学雑誌2014,Vol.120,No.10「特集 地層処分と地質科学(その1) 地質環境とバリア機能」の概要

1)吉田栄一・山本鋼志「地下環境中の鉄(V)水酸化鉱物と地層処分:地下水シナリオへの影響とその検討」p327-343

 本論で取り上げた花崗岩体の鉄(V)水酸化鉱物は岩体内に発達する割れ目ネットワークに沿って発達する。これまでの瑞浪超深地層研究所周辺で実施しているボーリングでは、地表から深度210mまで鉄(V)水酸化鉱物が確認され、その多くは地表から深度100mまでに赤褐色を呈する酸化帯として確認される。地下水面は深度約20m付近で一定しており、地下200m付近では還元状態を維持している。
 また、鉄(V)水酸化鉱物のウランを含めた全岩化学組成分析の結果、鉄(V)水酸化鉱物が放射性元素を吸着し、放射性廃棄物のガラス固化体を、これを取り巻く多重バリアが地下水との接触を防ぐことを目的とする地下水シナリオにおいて、遅延効果に寄与する可能性が高い。

2)笹尾英嗣「ウラン鉱床の分布と産状からみたわが国の地質環境の長期安定性および天然バリアとしての機能」p345-359

 地層処分のナチュラルアナログの観点から、日本国内のウラン鉱山の産状と分布を整理した結果、様々な地質環境において天然バリアの機能が期待されることが分かった。

 
 地層処分多重バリア概念図

3)藤井直樹・山川 稔・鹿園直建・佐藤 努「フィリピン島北西部に分布するザンバレスオフィオライトで生成されたアルカリ溶液との反応によって変質されたベントナイトの地球化学的・鉱物化学的特性」p361-375

 ベントナイトは人工バリアシステムの中で物理的及び化学的緩衝剤として核種移行を抑制する機能が期待される重要な構成要素である。地層処分場では支保工やグラウティング等セメント系材料が様々な構造要素であり、これに起因し発生する高アルカリ水とベントナイトの相互作用(溶解、膨張性低下)が問題となる。
 この課題に関し、ナチュラルアナログとしてフィリピン国ザンバレスオフィオライトの沸石・ベントナイト鉱山の地質環境の調査を行った。この結果、ベントナイトとの接触面で高濃度のCr、Niや希土類元素や、Caゼオライト、カリ長石、鉄農集帯の形成が認められたが、露頭スケールではベントナイトの変質が進んでいないことが明らかとなった。

地質環境の長期挙動とサイト調査
2017.8.30
 【高レベル放射性廃棄物その2】
2.地質学雑誌2014,Vol.120,No.12「特集 地層処分と地質科学(その2) 地質環境の長期挙動とサイト調査」の概要

1)大坪 誠・宮川歩夢・塚本 斉・山元孝広・渡部芳夫「地層処分の長期安全を評価する際の断層活動における不確実性」p423-433

 処分場を選定する上でサイト閉鎖後の長期安定性を評価する上で重要な項目の一つの「断層及び地震活動の不確実性」を地殻変動の活動的な九州・琉球弧を例として、5つの時間スケール(100年を超えない、数百年〜数千年、数千年〜100万年、100万年〜200万年、および数百万年を超える)で整理を行い、課題を挙げた。

2)安江健一・高取亮一・谷川晋一・二ノ宮淳・棚瀬充史・古澤 明・田力正好「内陸部における侵食速度の指標に関する検討:還流丘陵を伴う旧川谷を用いた研究」p435-445

 
図1.還流旧河谷(circular abandoned channel)の発達を示す模式図

 浸食は隆起と合わせて地下深部から地表までの距離を減少させることから、高レベル放射性廃棄物の地層処分場選定において、重要な自然現象である。本研究では河川段丘の発達の乏しい西日本を考慮し、穿入蛇行の頸状部が河川の下刻で切断されて残った「還流丘陵を伴う旧河道」(便宜的に、還流旧河谷circular abandoned channelと呼ぶ)を対象とした。
 全国の還流旧河谷の抽出は2万5千分の1地形図等の地図データで行った。事例研究の調査地に熊野川(十津川)中流域を選定し、機械ボーリング、採取コア試料の粒度分析、土色測定、火山灰(テフラ)分析を行った。
 この結果、旧河床堆積物の離水年代は12.5万年以前で、現河床との比高112mから下刻速度は約0.9m/kyか、それより遅い可能性がある。このように、還流旧河谷は浸食及び隆起速度を推定する際の有効な指標になる。より確度の高い速度の算出には年代測定が課題である。

3)近藤浩文・鈴木浩一・谷川琢磨・濱田崇臣・吉村公孝「地層処分選定のための地質環境調査技術の実証研究:調査段階に応じた地質環境モデルの構築と調査手法の適用性検討」p447-471

 本論では、新第三紀の三浦層群と葉山層群が分布する沿岸域堆積軟岩地点である電中研横須賀地区の実証研究に基づく。約500m四方の限られた敷地内で、手法や場所・数量が限定されるという制約の中で、調査段階に応じた地質環境モデルの更新を行った経緯と結果をまとめ、地質環境モデルの信頼性向上のための課題と方策を提示した。


深地層研究所の建設と研究成果
2017.8.30
【高レベル放射性廃棄物その3】
3.地質学雑誌 第119巻第2号(2013年2月)「特集 構造地質学と応用地質学の接点」より概要

1)鶴田忠彦・田上雅彦・天野健治・松岡稔幸・栗原 新・山田泰広・小池克明「瑞浪超深地層研究所おける深部地質環境のモデル化を目指した地質学的調査」pp59-74

 高レベル放射能物質廃棄物処分場を目的とするボーリング調査、物理探査、ボーリング調査、立て坑壁面調査を行い、割れ目や断層調査の状況の解説が行われている。

 
 図2.瑞浪超深地層研究所における研究坑道主立坑

2)竹内真司・三枝博光・天野健治・竹内竜史「瑞浪超深地層研究所おける地下深部の水理地質構造調査」pp75-90

 亀裂性岩盤(花崗岩類)の割れ目調査と各種検層・原位置透水試験の研究状況と近年欧米で開発された流体電気伝導度検層FEC(10E-9m2/sオーダーの透水量係数を知ることが出来る)の有効性について説明されている。

4.地層研究坑道の建設 日本トンネル技術協会誌「トンネルと地下」(土木工学社)
1)藤田朝雄・青柳和平・名合牧人「情報化施工による大深度立坑掘削の中間評価−幌延深地層研究計画地下研究施設整備(第U期)事業−」トンネルと地下,Vol.46,No.7(2015年7月号),p481-489

2)佐藤稔紀・見掛信一郎・三浦律彦・石田知子「深度500m瑞浪超深地層研究坑道に設置する止水壁の設計」トンネルと地下,Vol.46,No.12(2015年12月号),p901-911

 

  図2(a)瑞浪超深地層研究所研究 坑道レイアウト
      立坑最深深度は1000m
    

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