GEOENG 地質学と建設コンサルタント(理学と工学の融合へ)

ASR生成物

ASR生成物質の化学組成
2015.2.16
 日本でASRが社会問題化した1980年代、SEM-EDXAを使った先駆的研究(立松英信ほか,粘土科学,1986等)によって、骨材に生じたひび割れに生成したASR反応物質はアルカリとカルシウムとシリカから構成される物質で、アルカリ-カルシウム-シリカゲル(Na2O,K2O-CaO-SiO2)とよばれ、アルカリをNa2O、K2Oとしてそれぞれ3〜30%程度含むとされてきました。

 表-1 アルカリシリカゲルのタイプ(小林・丸・立松,1991)
元素(wt%) アルカリ-
シリカ型
アルカリ-カル
シウム-シリカ
アルカリ-カルシウ
ム-シリカ型
(K濃縮大)
 SiO2  60-90  35-75  45-75
 CaO  5以下  10-55   10-30
 Na2O  5-30  3-15  10以下
 K2O  5-30  3-15  10-25

 しかし、最新の研究で、国際的にも、反応元の骨材付近ではアルカリシリカゲルであった生成物は、セメントペースト中のひび割れや気泡での沈殿ではアルカリ含有量が激減し、セメントクリンカーの水和物C-S-Hと同様なカルシウム-シリカゲルに変化することが分かってきた(片山哲哉、2014、コンクリート工学ほか)。
 したがって、アルカリをほとんど含まないカルシウム-シリカゲルやさらに中性化し炭酸カルシウムで充填されたひび割れや気泡も反応性骨材から発生した反応物質だと判断される組織が顕微鏡下で確認できれば、それはアルカリ骨材反応の発生を意味する事が明らかとなり、ASR反応生成物の判定基準は根本的な変更を余儀なくされている。


片山哲哉 講座「アルカリシリカ反応入門」3,コンクリート工学Vol.52,No.12,(2014)
 縦軸の数字を1から引くとカルシウム置換率となる。


片山哲哉 講座「アルカリシリカ反応入門」3,コンクリート工学,Vol.52,No.12,(2014)
 急速膨張性ASRの代表、安山岩骨材に発生したひび割れ内のASRゲルは反応の進行とともに骨材からセメントペースト、気泡に向かってアルカリが減少し、かつカルシウムが増加し、セメント鉱物の水和物CSHゲルの組成に近づく。


片山哲哉 講座「アルカリシリカ反応入門」3,コンクリート工学,Vol.52,No.12,(2014)
 遅延性ASRの反応生成物もCSHに収れんする。凍害や炭酸化の風化を受けるとアルカリの溶脱が顕著になる。
   
ASR反応生成物の組織写真
2017.7.29
安山岩骨材のASR反応生成物の偏光顕微鏡下組織を示す。
注意深い再検査で反応組織を見出した例。

 
 
 細骨材の安山岩を割裂するフラクチャーが識別される.

 
 安山岩骨材の周辺に噴出するような産出状況のASR-Gel

 
 反応性シリカ鉱物のCristobalite.Quartzと共存する.

 
 groundmassには楔状双晶のtridymiteも見られる.

inserted by FC2 system